日常 2
僕が通っている高校は、生徒数が多いためか入学式に新入生用の椅子が用意されない。
そのせいで式の最中は立ちっぱなしだった。
春の陽気に眠りそうになるのを防ぐのには良いかもしれない。
ウトウトとそんなことを考えていたら隣にいた子が、突然倒れた。
いや、倒れかけた。
咄嗟に反射的に伸びた僕の手によって彼女は倒れずにすみ、
反動で僕が尻餅をつく羽目になってしまったが。
肉体を特別鍛えている訳ではないが、女性を支えきれなかった事実にショックを受けた。
今思うと、その時はキチンとやってのけたと思っていたが
それがなければもっと冷静に行動出来ていたのかもしれない。
貧血を起こしたのか青白い顔で意識も混濁しているように見えたので
周りの生徒に指示して場所を開けてもらい、
自分の上着を脱ぎ床に敷き、そこに女生徒を横たえた。
会社兼自宅で避難訓練消防訓練、
併せてAEDの使用方法含めた応急処置も何度か訓練受けていたため焦ることなく、
意識確認から彼女の症状確認から特別慌てふためく事もなく行うことが出来た。
いや、マジで県や市で行われるような訓練に一回は参加しておいた方が良いよ。
してるかしてないかで動けるかどうか全然変わるし。
その時に、どうしても気になった事があったので
咄嗟に動いてしまったのだ。
いけない右手が、無意識に。
周囲の人がざわついたせいで入学式は一時中断。
倒れた女生徒と状況説明のため介抱した僕、
そして養護教諭の3人が退場した後続けられたようだけどね。
酔っ払って潰れた姉の介抱で
意識のない女性一人抱えて移動するのなんて慣れている。
朝飯前だ。
俵担ぎは屈辱的だと教わったので、ごく自然に
いわゆるお姫様抱っこをした。
スカートの中身が見えてはいけないので下半身は僕の上着で隠して。
不慣れな校舎の案内を養護教諭にして貰い、
辿り着いた保健室のベッドに寝かせた時、
彼女の症状を改めて診ようとした先生に、ツッコミを喰らった。
『……彼女の下着に、なんかした?』
一瞬、素で何のことか分からなかったが、
思い返してみれば右手が動いた気がするなぁと思い至ったので
『サイズ合ってなくて息苦しそうだったので外しました』
と素直に答えた。
人命救助だ。
仕方ないじゃないか。
呼吸が辛そうな時に、アンダーサイズが合っていない下着を着け続けるのは危険だ。
一度全部脱がせたのか?と言う問いに、
そんなバカなと笑ってている間に、彼女が目を覚ました。
そして浅慮なことに
『ブラジャーのサイズ、アンダーもトップも合ってないから変えた方が良いですよ。
なんなら、僕が測りますが』
といらん親切心が口からポロリしてしまった。
入学式と言う晴れの舞台に気持ちが浮ついてしまった
と言う理由もあったのだろう。
普段なら、流石にもう少しオブラートに包んだ言い方をするのに。
危うく入学早々セクハラによる退学処分を受けるところだった…
直後に保健室に入ってきた、式に来ていた母さんが仕事モードに入った事と、
実際危なかったのだと養護教諭がフォローしてくれたおかげでそうならずに済んだけど。
その仕事モードに突入した母さんの勧めもあり、
迎えにきた彼女の母親や中学からの友人の目に前で
採寸、フィッティング、カウンセリング一通りすることとなり、
次の日には
『おっぱいのことに何だか詳しい王子のような事=お姫様抱っこをする新入生がいるぞ』
となり、どこからどう噂が広まったのか
『おっぱいを大きくしてくれる新入生がいるらしい』
になり、いつの間にやら
『おっぱい王子』
が僕の通称になってしまっていた。
サイズの合っていない、
その上脇から背中から寄せて上げていなかった肉をカップに納めたら
サイズ・アップするのなんて当然だろうに。
だが、その僕にとって“当然”だと思っている事が
当然のようにできない女性が世の中には多い。
学生のうちは成長途中にあるしサイズもどんどん変わる。
気恥ずかしさからインティメイト・アドバイザーに採寸してもらった事のない人も多いだろう。
そして思春期故か親姉妹に相談するという事もないらしい。
女性向けの雑誌なんかで性行為の特集をすることはあるのに、
下着の着用方法や適切サイズの測り方の特集はされないのだろうか。
それこそ思春期故にちょっと現実離れしたそっち方面の話には興味を持ち
情報収集に余念を持たないのに、
身近すぎる下着事情の情報収集はしないという事なのか?
それは、まぁ、うん。
身に覚えがあり過ぎるから女子だけを責めることは出来ないな!
ベッドや枕の下
なんて分かりやすすぎる所には置いていないにしても
大人の知識の情報収集用の本やら雑誌やら
いくつかは所持しているし。
広告に邪魔されないから僕は断然紙媒体派だ。
聞いてないって?
そりゃ失礼。
だけど、良い歳した教師軍からまで放課後お呼出がかかるとは思っていなかった。
最初先生から呼び出しを食らった時は流石に、
・女生徒側が希望した時に限り
・僕が暴挙に出ないためという表向きの理由から複数人が見張る中で必ず行い
・その上で養護教諭が居る状態の保健室でのみ
採寸を承っていたのだけれど
流石に生活指導されてしまうのか、と覚悟をした。
なのだけれど。
そうではなく。
元々ウチのブランドを贔屓にしてくれていると言う先生が
補正下着を欲しいという要望をわざわざ呼び出しをしてまで僕に伝えようとしただけだった。
職権乱用と言う奴だ。
只でさえ変なあだ名を付けられていると言うのに
更に変な噂が立ったらどうしてくれる。
それが英語の和田先生ね。
通っているエステで高いセットを買わされた割には効果がない
という事でカウンセリングをしたのだけれど
まぁ〜、そのエステは訴えられて良いと思うよ?
レベルで酷かった。
ボディスーツもガードルもただ締めつけるだけの仕様。
通気性が良すぎる素材でできている事とサイズが合っていない事、
二つの主な原因によって部分的に繊維が伸びてしまい、
購入からさほど日数が経過していないにもかかわらず
既に使い物にならなくなっていた。
使い続ければば身体のラインが変な形に固定されてしまう。
一刻も早く正しい数値の下着に導かなければ!
と妙な使命感から、親に一式持参させて呼び出し学校でフィッティングする事となったのだ。
部活動で怪我した生徒が出れば、放課後とは言え保健室も誰かしら出入りはする。
和田センが担当しているクラスの誰かしらが会話を聞ていたのだろう。
翌日には先生公認という噂まで広がり、
たまに呼び出しがかかる
という状態から
毎日呼び出されるに変わり、
いつしかリピーターも出て来て、
僕が触っていないおっぱいは校内にないんじゃないのか?と言われるまでになっていた。
そんなバカな。
流石に校長や教頭のものは触ったことがないし、野郎の雄っぱいは一度もない。
あ、いや。
無理矢理触らさせられた事なら一応あるけれど。
残念ながら、ウチのブランドには男性用ブラジャーはお取り扱いがないので
丁重に販売の斡旋はお断りさせて貰った。
うん、野郎のものを無理矢理触らさせられる位なら、女の子の方が良い。
柔らかいし、触り心地も良い。
肌に吸い付くような感覚も、
惰性で付いた脂肪とは違う張りも好い。
興奮は出来ないけど。
萌えて心の中で拝むことは出来る。
意地でも絶っっっ対に表面には出さないよう気をつけているが。
お客様になり得る、
つまりは我が家の家計の手助けをしてくれるやもしれない相手だからな。
万が一でも揉んで不快感を与えてはいけないし、
当然丁寧に慎重に扱わなければならない。
怪我をさせてしまった時、
慰謝料的な話も勘弁してもらいたいが、
何より常に衣服が擦れる場所だから怪我が治りにくくその分傷跡が残りやすい。
女性の身体に傷を残すだなんて事をする訳にはいかないからな。
なので常に僕の手は深爪気味。
少し伸びればヤスリをかける。
メジャーと同様、手も商売道具のようなものだ。
本来爪は白い部分を数ミリ残すくらいの長さが良いそうだけど、仕方ないさ。
下着のレースに引っ掛けてもいけないし。
知っているか?
下着一着、物によってはブラジャーだけで5万とか余裕でする。
上下セットで10万以上余裕で吹っ飛ぶ。
興味がない人間からしてみれば
たかが下着にふざけているのか?
と言う話である。
それだけ、女性は自身を武装するのに余念がない。
そう言う事だ。
流石に10万と言うのは世界的に見ても数少ない超高級ブランド品の話だが
それでもある程度の機能と見た目を伴うブラジャーなら1万円はする。
和田センが買ってくれた補正下着は
フルセットで10万以上したし。
まいどあり〜
化粧品もそうだが女性の武装にはお金がかかる。
世の男性はもっと女性を敬うべきだ。
いや、男の武装も金がかかるか。
車みたいな一生物になるような、日常的な消耗品が少ないだけで。
って言ったって、
『女性の方が日々に掛かる金も手間も時間も多いのだから
着飾っている相手は全力で褒めて讃えろ!
それだけの努力を女子はしている!!
by女帝一同。』
と教え込まれた。
その努力の助力になるのなら、昼休み潰すくらいどうってことないですよ。
とほほ。
鍛えられた奴隷気質故の考え方だな。
「ガンちゃ〜ん、奥のベッド貸して」
「あら、今朝顔出さないし久しぶりに休業かと思ったのに。
鏡と金庫の中身は?」
「鏡はいる。
道具は……」
振り返り、図書委員っぽい先輩と、モデルっぽい後輩2人をそれぞれ手で差し
「御二方も指導希望ですか?」
と訊ねる。
指差すなんて不躾で高圧的なことはしませんよ。
男性が無意識にしがちな相手を不快にさせる動作だと、鉄拳付きで教え込まれたからね!
僕の言葉に先輩は首を縦に振り、後輩は横に振った。
なんだ、残念。
後輩さんが一番気になったんだけどな。
……いや、残念ってなんだよ。
仕事が一個減るなら万々歳じゃないか。
その分昼飯が食える確率が上がるのだから。
「んじゃ、白の袋と、いつもの小物セット出して。
…間違っても中身触るなよ」
「分かってるわよ〜
怖いわねぇ」
言いながらガンちゃんーー顔彩先生(四十路手前♂)はお願いした道具一式を手渡してくれる。
ガンちゃんの愛称で親しまれている彼は
この学校の養護教諭のセンセーだ。
ご兄弟が母と知り合いらしく
入学式の一件とその後の噂話
諸々の事情を汲み
ベッドが空いている時のみ場の提供をしてくれる。
あとは、万が一でも僕が誰も預り知らぬ他の場所で
女生徒の呼び出し理由をいいことに
あれやこれや悪さをしないようにと
見張りも兼ねている。
その為これからする事に必要な道具は
メジャーを除きガンちゃんが保管してくれている。
心だけじゃなく身も女ならね
別に中身見ようが触ろうが良いんだけどさ。
…いや、やっぱり良くない。
スッキリとしていて小綺麗だし男臭くはないが、それでも見た目は男性だ。
年齢が年齢だし男性特有の脂臭が商売道具に付いてしまったら
除菌消臭剤一本の程度の消費じゃ全然足りない。
先輩は重々ガンちゃんのことを知っているだろうけど
後輩は今の時期はまだ不慣れだろう。
病気も怪我も縁遠い子ならガンちゃんがオネェだと言う事実を
今この瞬間知っただろうし。
身構えさせる要因をわざわざ作る必要はない。
常套句になりつつある説明を5人──いや、採寸希望者は結局何人なんだ?
まぁ、順番決めるときに嫌でも人数確認をすることになるのだから、わざわざ聞く必要もないか。
僕を呼び出したからには覚悟も決めているだろうし、
今から何をするのか、何をされるのか分かりきっているだろう。
が、後々
『こんな事するなんて聞いてない!』
とか言って被害者ぶられても困るので説明と意思確認をする。
何をするって、今更。
分かるだろ?
彼女たちが身につける下着の最適化。
つまりはフィッティングとカウンセリングだ。
「まず、僕はプロではありません。
素人です。
貴女方が僕を呼び出したのは、僕の通称や噂を聞いたからでしょう。
僕は誇りを持ってフィッティングをしていますが、
どうしても現場のプロと比べたら劣る部分があると思います。
それをご了承ください。
また、服の上からでもある程度採寸は出来ます
が、より正確にするため直接肌を見る必要があります。
その際勿論、僕の手は皆様の身体に触れることになります。
嫁入り前の大事な身体です。
途中で不快感を覚えたら、中断する事も可能ですが、
想像するだけで無理だ、と思われるなら今の時点で辞退してください。
下着売り場に居るインティメントアドバイザーの方々はプロですし
悩み相談も気軽に出来ます。
それでも尚、光栄にも僕をご所望いただき
注意事項を了承頂ける方のみ、このシールを受け取って下さい。
フィッティングは無理だけれど急を要する
という事であれば、口頭でのカウンセリングのみも承ります。」
言って道具袋の中から
2枚セットになっているシールを5組差し出すと
宣言通りモデルっぽい後輩以外は全員受け取った。
つまり昼の仕事は4名か。
昼飯食べれるかな。
手渡したのは肌色の、ハートや星型のシール。
疑問符が頭上に浮かんでいるのが見えるようだ。
何に使うのか分かっていないな、これは。
日本ではあまり普及しなかったもんな。
今でもコスプレイヤーなんかは使っているようだけど。
「ニップレスシールと言うものです。
僕はカーテンの向こうで待っていますので、それを付けて
ジャケットとワイシャツを脱いで準備ができたら声を掛けて下さい。
現在つけている下着は身につけたままで結構です」
「えっと…センパイ、これ、どうやってつけるんですか?」
妄想フィルターを通して見たら
四角いアレに見えなくもないソレをいじりながら
モジモジと上目遣いでそんな事聞いてくるんじゃありません!
こんな状況ですら息子は反応なし。
いや、今この瞬間反応されても勿論困るんだけどさ。
それだけでセクハラだと訴えられる案件になりかねない。
え、ニップルって単語じゃ分かんないの?
そんな直接的な言葉言って怒らない?
訴えない??
大丈夫???
「肌に直接貼るタイプのシールで…
えぇっと……乳首を、隠すための物です。
ご使用ください」
言うと予想通り後輩ちゃんは火が吹きそうなほど顔を赤くし、他の人たちも顔を赤らめた。
見ているコッチが恥ずかしいわ!!!
頼む、言われる前に察してくれ。
「でわ。
準備が出来たらお声かけください」
言ってカーテンを閉め、こちらも準備に取り掛かる。
保健室の外に面している厚手のカーテンを引き、
相棒のメジャーを肩から下げ、
ガンちゃんが用意してくれた全身の姿見をガラガラ引きずり、
彼女たちが居る奥のベッドの方まで運ぶ。
布の擦れる音やこの薄布1枚の向こうにあられもない姿の
タイプの全く違う女性たちがいると考えると
妄想も捗ると言うものなのだが…
想像力が足りないのか、妄想だけでは興奮のこの字もしないな。
よき、とは思うのだが。
中学時代はまだ多少は反応したと言うのに。
やはり、ED検査はするべきなのか?
この若さでバイアグラの世話にはなりたくないし
診断が降りてしまったら自信喪失するので却下だ。
あ。
「準備の途中で申し訳ありません。
聞き忘れていたことが事が一つありました。
みなさん、月の物の最中や前ではありませんか!?」
大きな声で尋ねた途端に
カーテンの向こうからはざわめきが
僕の後頭部からはスパンッ!と子気味の好い音が響く。
聞き忘れていたことがあって慌ててしまったために配慮が欠けていた。
ガンちゃんめ。
乙女レーダーでアウトになる発言があったら遠慮なく言って欲しい
とは言っていたけれど、
ハリセン用意しなくても良くない??
一応、生理だとか月経って直接的な言葉は避けたのに。
いや、普段から使わないから言葉に出なかっただけだけど。
「えぇっと…
すみません、浅慮な発言をして。
ただ、月の物の前や最中は女性ホルモンのバランスが崩れる為に
胸が張って2カップとか変わる人もいるんです。
むくみやすくなるからアンダーも変わりますし。
もしそうなら、
身体を冷やすのも良くないですし、
何より他人に触られたら痛いでしょう。
日を改めてご依頼ください」
そう言うと、少しの間をおいて再び布の擦れる音がし始めた。
あ、位置的に後輩ちゃんの一人がそうだったんだな。
体つきに対して胸のふくらみが結構あったもんな。
せっかく覚悟させて脱いで貰うまでしたのに、申し訳ない事をした。
朝の呼び出しが無かったからと気を抜いてしまっていた。
なんたる失態。
制服の胸ポケットから小さな紙を一枚取り出し、
そこに詫びの言葉と、プラスもう一文を書いておく。
後で渡そう。
準備が整ったのか声をかけられたので、カーテンを開ける前に
失礼します
と一声かけ、まず後方を確認しつつ鏡を中に入れ、
その後すばやく中に入った。
ガンちゃんしかいないけど、念のためだ。
女性陣からしてみればタイミング悪く、
保健室に赴いた野郎からしてみればラッキースケベのおこぼれに預かることができ
半裸状態の女性達を拝むことになる可能性がないとは限らない。
改めて宜しくお願いします、と一礼をした。
やはり、後輩ちゃんの一人が制服をきっちり着て
モデル系の後輩と共にベッドの横に置いてあった椅子に座っていた。
「配慮が足らず申し訳ありませんでした」
そう言って先ほど用意しておいた小さな紙を渡す。
素直に受け取りそこに書かれている内容を見て首を傾げる後輩2人。
その紙自体は全員に渡すつもりだから、説明は後でしますよ。
そして、僕にとっての至福のひとときが始まる。
あだ名こそ気に喰わないが、僕も大衆男子の例に漏れず
おっぱいは大好きだ。
母性の象徴だからとか、本能的に惹かれるからだとか
そう言う理屈はどうでもよろしい。
十人十色の、個性溢れる大きさや形
肌触りや柔らかさもそうだが、
何より触れた時の吸い付くような、
それでいて触れれば指を押し返すような反発する、あの感覚。
おしりはおしりで魅力的だし大好きだが
筋肉が大きいからか、もっと重量感がある。
触れた時の感覚も、おっぱいとは違い他と接触する機会が多いからか
初々しさのようなものが少ない。
僕はおっぱいの方が好みだ。
おっぱいは正義。
自分のサイズに合う、
色味も肌に適応した下着を身に着けた女性の
破壊力はハンパないぞ。
艶やかさが天井知らずで正しく、男の理性なんて簡単に破壊されてしまうだろう。
いや、そこは壊されちゃダメなんだけどさ。
ある意味、僕が女性の半裸姿を見ても興奮できなくなったのは
僥倖だったのかもしれない。
もしカウンセリングする度に理性が決壊していたら
何度牢屋に入る羽目になっていたことか。
女性をより美しく魅せるためのツールになれる。
それが僕にとって最高の立ち位置だ。
そこにたどり着くための道程とも言える採寸は
料理で言う下ごしらえに相当する。
ここで手を抜いてしまっては、せっかくの美女たちも
結果に導くことが出来ず魅力が一割も二割も減ってしまう。
特技となってしまった女性の肉体の数値化だが
採寸する事により寸分狂いなく自分の目が、
感覚が正しいと証明された時の
あのパズルのピースがカチリとハマった時のような恍惚感。
そして宛がえた下着に身を包んだ女性の
脇や腹部、背中から寄せて上げた
いわゆる贅肉として嫌悪されがちな脂肪がカップに収まり
愛されるべき慈しまれるお肉に代わった時の達成感。
そして艶やかさが増し、喜び、満足し
より美しく、
より華々しさを増した女性たちのあの自信に満ちた表情。
下手な自慰よりも余程自分の欲求を満たしてくれる、あの感覚。
大変…すばらしい。
羞恥に染まった表情が喜びの表情に一転する時の
そう。
一種の支配欲に似た感覚は他では味わえないのだよ。
変態と言われようとかまわないさ。
男は多かれ少なかれ皆変態です!
きっぱり!!
一番手は、運動部の先輩。
ノンワイヤーの下着から伸びる肢体は程よく筋肉で締まっており、無駄な贅肉は無い。
普段ユニフォームに隠され日に焼けていない白い腹部は、縦にうっすら割れている。
運動部らしく、快活に動くためにも
常にスポーツブラをつけている、
つもりなのだろう。
これだけ筋肉がついていれば代謝も良いから汗もかきやすいだろう。
締め付けられるのは嫌だしゴムも窮屈じゃない
通気性の良さそうなものを選んだ。
その、つもりなのだろう。
だが……
身体のバランスは素晴らしいのに!
勿体なさすぎる!!
もう、残念すぎて言葉が出てこない。
説教を即行始めたい気になるが、我慢だ。
我慢。
「それでは、採寸を始めます。
先輩は、申し訳ないのですがそちらのブラジャーを取ってください。
正確な数値が、それを付けたままでは測れないので。
……恐縮です。
背筋を伸ばして…脇にメジャーを通したいので、軽く腕を挙げて下さい」
乳首シールを貼っている為か、覚悟を決めた上で呼び出したからか
躊躇なくガバッと躊躇いもなく脱いでくれた。
情緒がない。
いや、そんなものは求めちゃいけない。
アンダーは67……いや。
息を吐いた時でそのサイズだ。
深く息を吸い込んだ時、メジャーが結構食い込む。
腹式呼吸が出来ている証拠だね。
数値的に70を勧めた方が良いな。
締め付けが酷過ぎると、血行不良もそうだが呼吸がし辛くなる。
下手をしたら、入学式に隣に居た生徒のように倒れてしまう。
血流が滞れば胸の成長にも影響が出るし。
適切サイズはアンダー70。
「前かがみ90度にお辞儀をするような格好になってください。
もしくは僭越ながら僕が胸を持ち上げて測らせて貰います」
下心がある訳もないので、至極真面目に言う。
乳肉を持ち上げる、と言う言葉には赤面された。
さすがにそれは嫌らしく、上体を倒す。
トップは……80センチか。
アンダーサイズは正確に言うと67.8
トップが80ならその差は12.2センチ。
トップとアンダーの差が11.5~13.5の場合はBカップだ。
なのだが、贅肉と言える脂肪は無いとはいえ
サイズの合っていない下着を身に着けたせいで
本来おっぱいに収めるべき肉が脇の方に流れてしまっている。
ワイヤー入りの補正機能に長けたブラジャーならCはイケる。
スポブラならSS……いや、SMって所か?
それはメーカーによりけりだな。
伸びやすい生地だし誤解されがちだが
スポブラほど試着をしなければならない下着は無い。
いや、身に着ける物は下着に限らず試着は必須だけれど。
スポブラはフィット感がメーカーや材質によってかなり違ってくる。
何よりも大事なのはおっぱいをしっかり支えてくれるかどうか。
だからどんな運動をするかによっても選び方が変わってくる。
クーパー靭帯が伸びてしまったらいけないからな。
クーパー靭帯の損傷を防ぐだけなら
バンド式スポーツブラ
なんてものもある。
B○○BANDって海外では結構有名な商品で
しっかり上乳を抑えてくれるからおっぱいが揺れずに済むので
ランニングするような、その上で大きい人にはかなりおすすめ。
勿論、小さかろうが激しい運動をしなかろうが
クーパー靭帯に負荷をかけない為にも全女子にお勧めしたい商品である。
本当は服の上からでもブラの上からでも測れるんだよ、本当は。
なんだけど、サイズが合っていないんだよ、この人。
微塵も。
アンダーはゆるすぎ。
カップはきつきつ。
そんなんじゃ正確な数値が測れるわけがない。
しかも先輩はスポーツブラをつけているつもりなのだろうが
残念ながら着けていたのはナイトブラだ。
TPOに合わない下着は見ているだけで剥ぎ取りたくなる。
なので脱いで貰った。
まぁ、それ以外にも
興奮は出来ないが拝みたくなるような尊さを女体には感じるため
食欲が満たされないならコチラの方の欲を満たしたいなとか考え
ちょっとの実益と趣味のために脱いで貰いました。
欲望に忠実でごめんなさい。
悟られていないと良いな!
内心ビビりながら、先ほど後輩ちゃんに渡したものと同じ紙に
採寸した数値と我が家のブランドなら適応サイズがいくつなのか
肌の色味から、似合う色が何色なのかを
裏面に記入してお渡しした。
「先輩の採寸はこれで終了です。
他の方が終わるまでお暇でしたら
こちらのカタログの11ページ目
もしくは47ページ目からご覧になってお待ち下さい」
当然ウチの宣伝をさせて貰う。
ガンちゃんに預けている袋には
先程のニップレスシールも含め
両親から借り受けている様々な商売道具も入っている。
正確に言えば、僕はあくまで仕事の斡旋をしているだけで
稼いでいる訳ではないので商売、と言うのは違うか。
その中の一つに、ウチで扱っている商品や過去扱っていた商品
全てを掲載している特別仕様のカタログがある。
現行で扱っている商品のカタログは当然
テイクフリーで誰にでも配れるのだが
これは僕が使うために父さんが作ってくれた物なので一点物だ。
若い女の子の要望をリアルに聞ける立場にあるから
と言う事で過去作っていた商品の写真や
草案の段階で止まっている企画のイラストまで全て載っている。
後者なんて、本来外に出すべきものではない。
父さんが僕を信用してくれているからなのか
ただ単に最近おっぱいの神様が御光臨しないから
少しでもヒントになりそうな言葉が欲しいのか。
カタログにはガッツリ10ページ目まで会社創立の経緯や
社長、デザイナーの説明
どういう環境で作られているか
会社の理念などがダラダラ書かれているのですっ飛ばして貰い
12ページ目以降の商品紹介ページから見てもらう。
カタログの最初の方は
アンダー65~80、A~Eカップまでのサイズに対応している
ブラジャーとセットのショーツのデザインがずらりと並んでいる。
47ページ以降は種類は少ないがスポーツブラが載っている。
他の人の採寸もそこまで時間はかからないので
流石に80ページ目以降に目を通すことは無いだろうと思ったから言わなかったが
80ページ目以降は大人向けの商品の紹介がされている。
いわゆるビスチェとかファウンデーションとか。
ベビードールやガーターなんかも載っているよ。
ファウンデーションって言うのはいわゆる補整下着ね。
ボディースーツ・ウエストニッパー・ガードルの三点セットで勧めているが
単品でも購入できる。
ウチではワンピースタイプのボディースーツは扱っていない。
上半身と下半身それぞれ別のアイテムで補整した方が
より綺麗に身体のラインを整える事が出来るから
だそうだ。
※注意※個人差あり。
ベビードールとかガーターとか、男のロマンだよね。
特にガーターベルト。
正しいつけ方知らずにパートナーに
ショーツを伸ばされたとか
ガーター紐を千切られたとか
修羅の愚痴を聞かされた事があるので
女性は正しい知識を持って身に付けましょう。
脱がす立場の方は、もし相手が正しく着けていなかったら
優しくガーター紐外してあげようね。
ガーター紐でストッキングやロングソックスを留めた後にショーツをはく
それが正しいつけ方だ。
写真映えの為にショーツの上からガーターを身に着けた写真を
載せている事が多いせいで
ショーツの上からガーターを着けると言う勘違いをする人が居るのかな。
便所行った時不便だろうに。
気付こうよ。
引きちぎられるガーター達が可哀相だ。
ついでに父さんのようなデザイナーも。