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「それ」と彼女の関係は

「日辻お前、その髪……」

「こっちの方が似合うかな、って」


 翌朝、風雅は教室に入ったリクをポカンとした顔で指差した。

 リクはスカートこそ履いていないが、髪を昨日取り替えた少し長いものから変えていなかった。ブレザーもぱっと見ただけでは同じように見えるが、昨日着ていた袖が少し長いものだ。

 そのせいで、もともと中性的だったリクの印象は余計に女子に寄って、見ただけでは男装した女子と見紛うほどになっていた。左のもみあげを束ねるように結ばれた赤いリボンも、その印象をより強調している。


「ど、どう?」

「日辻……お前」


 風雅は固まったあと、右手の親指を立てた。


「最高じゃねえかよ……」

「うん。やっぱり変態っぽいね風雅くん」

「ひでえ!」


 あはは、とリクは笑った。


「しかしどういう心境の変化だ? 昨日は嫌がってたじゃねえか」

「まあ、そうなんだけどね。ケイが喜んでくれるかなって」

「お熱いねえ」


 顔を赤くして照れるリクを、風雅がニヤニヤと笑いながら茶化した。

 

「で、当の日辻姉の反応はどうだったんだ?」

「……鼻血出した」

「やっぱアイツ本物だわ」


 何の本物? とはとてもじゃないけど聞けなかった。





「昨日も思ってたんだけどさ。これどう考えても俺幸せすぎねえ?」


 昨日のように四人で机を囲む。リクが呼んだケイは勿論、レイも何食わぬ顔で同席していた。


「それはどうしてでしょうか」

「だって実質ハーレムだろこれ。ユニセックスの極致みたいな日辻と、クール系美少女の日辻姉、そして完璧造形美少女のレイさん。この三人と一緒に飯なんて、中々無い幸せだろ」


 自信満々に言い放つ風雅に、三人は同時に首を傾げた。


「三人中二人はアンドロイドですが」

「しかも一人は一応男だけど」

「あと誰一人としてあなたを性的に意識してないと思う」


 三者三様に、バッサリと風雅を否定した。


「レイさん、アンドロイドと人間のパートナーは上昇傾向にあるんだぜ! 日辻、ジェンダーの問題は2030年代に決着済みだと言ったはずだ! そして日辻姉!! ……アンタのが一番、傷付く!!」

「事実でしょ」

「夢くらい見させろ!!」


 コントのような二人のやりとりに、昨日話したばっかりとは思えない打ち解けた雰囲気を感じる。それが嬉しい反面、微妙に複雑な気持ちもあった。


(仲良くなった原因、僕の女装だもんなぁ……)


 もっと違う理由で仲良くなってたらもう少し素直に喜べたものを。


「私はリク一筋だもの」

「おお、コイツ真顔で言い切りやがった」

「えへへ」

「アンドロイドの方が照れてやがる!!」


 照れるリクとちょっと嬉しそうなケイを、レイは無表情に、いや、無感情に見つめる。


「前々から疑問だったのですが、お二人はどういう関係なのですか?」


 質問の意味を、リクは一瞬理解できなかった。


「どういうって……」

「恋人。姉弟。主従。そういった関係のことです」

「それは……」


 本来即答出来るはずのその問いに、リクは答えられなかった。

 そういえば、自分はケイにとっての何なのだろう?

 恋人……ではないと思う。風雅は姉弟と捉えることにしたみたいだけど、本人としてはそれもあまりしっくりこない。同学年にいるからだろうか。親子でもそうだ。

 では、主従か。自分としてはそれでもいいと思う。

 でもケイは。自分をそういう目で見ていないように思えるのだ。


「……分からない」

「それはおかしいです。アンドロイドが製造される時点で、必ず何かの目的があるはずですから」

「とは言っても……」


 リクは横目でケイを見た。ケイは無表情で沈黙を貫いている。


「横から見てる分には滅茶苦茶仲のいい姉弟って感じだけどな。あるいは禁断の愛」

「生々しい表現やめて」

「私としては、製造者の意図をお聞きしたいのです。リクさまが「マインドエラー」である理由と併せて」


 三人の視線がケイに集中する。ケイは特に気にしていない、といった様子で返答した。


「リクを作った理由は──特に無い。「マインドエラー」にした理由も」

「え?」

「作れると思ったから作った。それ以上の理由がいる?」

「納得できません」


 レイは食い下がるが、ケイはそれを受け流した。


「何で作ったかなんてどうでもいいの。私の隣にはリクがいて、リクはずっと私の側にいてくれる。今の私には、それで十分」

「僕も同じかな」


 隣に座るケイの温かい手を、リクは優しく握った。


「僕がどうして作られたのかは、正直どうでもいいんだ。でも僕はケイの側にいたいと思う。それが変わらないなら、考える必要なんて、ない」

「熱いねえ」

「う、恥ずかしい」

「恥ずかしがるリクも可愛い」


 ケイがリクに握られていない方の手で頭を撫でた。

 恥ずかしさと嬉しさが混じった感情が顔をもっと熱くした。


「不可解です。……ですが、とても参考になりました。ありがとうございます」


 レイは急にすっと立ち上がると、恭しくお辞儀をして教室を離れていった。


「あ、レイさん……!! 畜生、また話できなかった」


 風雅はがっくりと肩を落とした。意外と本気らしい。


「「マインドエラー」でもないアンドロイドにご執心なんて、余程あの子の姿が気に入ったの?」


 ケイは不思議そうに風雅の顔を見た。


「まあ見た目も最高なんだけどさ。あの胸と腰と尻の黄金比、やべえよな」

「……見た目「も」?」

「ああ。クールビューティーって感じでいいじゃねえか。俺ああいう人好きなんだよ」

「クールって、ただのAIの学習不足じゃない」


 ケイは呆れたように言った。

 「マインドエラー」でなくても、アンドロイドは学習によって人間らしい仕草をある程度は習得していく。その変化はそれぞれが置かれた環境に依存するため、同じ型式のアンドロイドでも多少の個性は発生するのだ。

 それに対してレイは、ほとんど工場出荷そのままの状態に見えた。


「いやいや、それも個性ってやつさ。人間と同じさ」

「あなた、意外と面白いのね」

「惚れたかい?」

「まさか。リク以上の人なんていない」


 少し強めに、わしわしと頭を撫でられる。

 ケイは名残惜しそうに手を離すと、それじゃ、と教室を離れていった。


「風雅くん」

「ん、どうした」

「ケイを取ったら、許さないから」


 二人だけ残った机を挟んで、リクは風雅の顔を睨んだ。


「……なんだよ、嫉妬してたのかよ」

「随分ケイと仲よさそうだったじゃない」

「大丈夫だって。あいつの愛を信じてやれよ」

「それは信じてるけどさ。……むー」


 それから昼休みが終わるまで、風雅はリクのご機嫌取りに必死になるのだった。





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