決戦、バレーボール!
「てめえ、本気を隠してたな……!」
怒気の篭った声とは裏腹に、矢島は獰猛な笑みを浮かべていた。
「そんなつもりはなかったけど……ねっ!!!」
────タァン!!!
再び、リクのサーブ。人間が受けたらただでは済まなさそうな一撃だが、今度は矢島が飛び込んで受け止めた。
「防がれた!?」
「同じ動きが、俺に通用すると思うなよ!!」
上に弾かれたボールはトスで上げられ、再び矢島のもとに舞い戻る。
「喰らえっ!!!」
叩き下ろすようなアタック。下がっていたリクは、間に合わなかった。
「強い……」
「運動で『着せ替え人形』に負ける訳には、いかねえからな」
「……っ!」
矢島の挑発に、リクは奥歯を噛み締めた。
ボールが相手チームに渡る。サーブは、矢島だ。
「さあ──受けてみせろ!!」
「やってやるさ!!」
1体1。勝負はまだ、始まったばかりだ。
「……おいおい、なんかすげえことになってるぞ」
そんな激戦を並んで観戦しているのが、 ケイと風雅だった。
「彼、元警備アンドロイドなの。だから人間やロボットの動きの予測に関しては一枚上手でしょうね」
「ああ、それでアイツたまに未来予知したみたいな動きすんのか」
「運動能力の差なんかよりも、よっぽど厄介」
コートの中では、リクのアタックがまたしても矢島に阻まれているところだった。
ボールが吸い込まれるように矢島の両腕に向かうところを、二人はちょうど目撃していた。
「やべえじゃん。勝てるのか?」
「単純なスペックなら、まあ負けるでしょうね」
その言葉通り、均衡は徐々に崩れ、点差が開き始めた。
「でも、リクが勝つ」
それでも僅かな隙を突いて、リクたちが点を戻していく。
ケイは真っ直ぐに、コートを駆け回るリクを見つめた。
「本当にリクは、何をしても可愛い……」
「お前、結局それなのな」
試合が後半に差し掛かった頃、矢島のチームでは奇妙なフォーメーションが形成されつつあった。
それは、矢島がコートの中心に立ち、他の生徒たちが少し離れて円形に並ぶというものだった。
目的はひとつ。矢島の動きを阻害しないためだった。
「ボールが全部矢島くんに集中する……これはキツい」
アンドロイドに疲れは無い。心の乱れも基本的には無い。最善の動きを考え、実行するのみだ。
そして彼らが至った最適解が、これだ。
敵のアタックを矢島が受け、そして矢島が撃つ。他の生徒は、それを支えるのみ。
あまりにも単純で粗雑で、しかし完成された戦術だった。
「だけど、弱点は見えてきた」
他の生徒が放つサーブはリクや矢島と比べれば遅いが、それでもプロの選手並みの速度と精度を持っている。
それを軽々と受けた矢島はチームメイトにボールを委ねると、完璧な位置に飛び込んだボールをアタックした。
「くっ……止めたぞ!!」
痛烈な一撃を、チームメイトはなんとか受け止めた。
弾かれたボールは再度上に持ち上げられ、そして跳躍するリクまで届く。
「──ここだっ!!!」
リクは正確な狙いでボールを振り下ろした。
狙った場所は、相手チームが形成する円の中──矢島と、他の生徒の、ちょうど中間地点。
矢島からは少し離れているが、仲間なら容易に返せる場所だ。
「…………なに?」
だから、誰に触れることもなく地面に叩きつけられることは、矢島にとって想定外であった。
なぜ防げなかったのか。
何故なら、クラスメイトは自分のポジションから動いていなかったからだ。
「矢島は自分が最大限動けるように、チームメイトに『領域』を指定したの。この範囲なら自分が取れる。逆に他の生徒は近付かないでほしいって」
冷静に見つめるケイが、ポツリと言った。
「でも、さっきの一撃はその『領域』の境界線に撃たれた。その結果、二人とも「これは向こうが取るだろうと判断した。それを即座に否定したとしても、間に合わない」
「だから、どっちも動かなかったのか」
ほう、と納得する風雅に、ケイは頷いた。
「言ったでしょ。リクが勝つって」
リクの放った一撃は、毒のように相手のチームワークを破壊した。
お互いの取るべきボールがあやふやになったことで防御はガタガタになり、点差は一気に縮められた。
そしてそのまま、試合はリクたちの勝利で終わった。
「あーーークソ!! チーム戦はやっぱ苦手だな!!」
矢島が叫ぶ。悔しそうに、しかし楽しそうに。
「自分だけでなんとか出来りゃ話が早いんだがな。……って、同僚にもチームワーク大事にしろって怒られてたな」
「そうなの?」
「ああ。「マインドエラー」になって仕事を一旦離れることになって、一時はどうなるかと思ったんだがな。こうやって自分のことを見直せるのはいい機会だった」
爽やかな表情で、矢島はリクに握手を求めた。
「強かった。そして楽しかった!! ありがとう」
「うん……! こちらこそ、ありがとう!」
「……ところで、今日は何で急に本気出したんだ」
「あー、えーと、うん」
リクは恥ずかしそうに、頰を掻いた。
「カッコいいところ見せてって言われたら、断れないでしょ?」
男らしいのか女々しいのかよく分からない顔で、リクは笑った。




