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10/12

オトコノコは体育で頑張る

 午後最初の講義は、体育だった。

 この学校では2クラス合同で行うことになっており、リクのクラスは、ケイのクラスと合同だった。

 今日の体育は、バレーボールだ。


「風雅くん!」

「よっしゃ!!」


 リクが絶妙な位置に当てたトスに、風雅がアタックを決める。


「まだまだ!!」

「畜生矢島のヤツ防御が上手え!!!」


 決まったかのように見えたアタックは、ガタイの良い男子生徒の滑り込みレシーブで防がれてしまった。

 彼、矢島はケイのクラスにいるアンドロイドの生徒だ。


「能力セーブされてても、身体の動かし方が違うよねぇ ……ほっ!」

「日辻、お前がそれを言うか …………とりゃあ!!」

「俺は元々肉体労働専門だったからな ……っと!!」


 もう一度アタックを仕掛けるが、それも防がれてしまう。

 身体能力の上限こそ他の生徒に合わせるようにリミッターが設定されているが、身体の効率的な使い方に関しては学習能力の高いアンドロイドに分がある。その中でも運動に関する学習を重ねてきた矢島は、特に優秀な動きを見せていた。

 もちろん、リクと矢島以外にもアンドロイド生徒たちは試合に参加している。両チームアンドロイドの数が合うように組まれた試合は、奇妙な均衡を見せていた。


「今度はこっちの 、反撃だぁ!!」

「うぉおおおおお!!!?」

「だめだ、間に合わない!!」


 矢島の凶悪なアタックが、コートの隅に正確に突き刺さった。

 審判役の生徒が笛を鳴らす。マッチポイントだったさっきの一撃で、試合は終わりを告げた。


「あーくそ、また矢島に負けた!!」

「お前も人間の割にはいい動きするんだがな、まだまだだ」

「RPGの魔族みてえなこと言われても嬉しくねえよ」


 リクは談笑する風雅と矢島からこっそり離れる。向かった先は体育館の隅、見学しているケイのいるところだった。


「おつかれリク。カッコよかった」

「負けちゃったけどね」

「仕方ない。リクは運動向きの設計にはなってないから」


 バレーボールのような競技では、単純な運動能力以外にも体格など影響する要素は多い。男性としては小柄なリクは、確かに運動向きではなかった(それでも平均的な男子に比べれば遥かに優秀ではあるのだが)。


「いいの。小さい身体で頑張るリクは可愛くてカッコいいから最強」

「いや、そのりくつはおかしい」

「あと、跳んだときにチラリと覗くおへそが……眼福」

「!?」


 ケイがうっとりとした目でリクを見た。まさか自分の腹部までそういう目で見られていたとは。リクはケイの底知れぬフェチズムに慄いた。


「ケイは大丈夫?」

「うん。今日は周期的によくない日ってだけ」


 ケイは今日体調が悪く、体育は見学になっていた。

 元々ケイは身体が丈夫な方ではない。定期的に体調をくずし、学校を欠席することがよくあった。


「学校休んでもよかったのに」

「そうしたらリクのお腹が見れないじゃない」

「自分の体調より優先するのそれ!?」


 しかし事実として、ケイの顔色は朝よりも良さそうに見える。

 自分が腹部を見せることでケイが元気になるのなら嬉しいことではあるが……。どうにも素直に喜べないリクであった。


「おーい日辻ー。って日辻姉じゃねえか。見学か?」

「うん。今日は体調悪いから」

「そうか、お大事にな。今からアンドロイドだけでリミッター外してやるってよ」

「分かった。それじゃ、行ってくるね、ケイ」

「うん……あ、ちょっと待って」

「なに────」


 振り向いたリクの小さな顔を、ケイは両手で包み込んだ。

 そして、


「────ちゅっ」

「へ?」


 その頰に、優しく口付けされる。

 あまりの光景に、リクは全ての情報を25回精査した。

 しかし結果は変わらない。ケイが、リクの頰に、キスをしたのだ。


「あ、あ、あ…………っ!」

「もっとカッコいいところ、期待してる」

「は、はひ」


 背中を押されたリクは、カチコチと、数十年前のロボットのようにぎこちない動きでコートに戻っていった。


「……お前、素っ気ない顔で結構すげえことするのな」

「このくらいスキンシップでしょ」


 風雅ですら少し顔を赤らめている中で、ケイだけが一人無表情を保っていた。







「来たか日辻。……なんか顔赤いぞ?」

「ご、ごめん。なんでもない」

「? まあいいが」


 チームはアンドロイドだけで組まれた。クラス対抗となったため、リクと矢島はまた敵同士となった。

 ネットを挟んで、リクと矢島が向かい合う。


「悪いがまた勝たせてもらうぞ」

「……矢島くん」

「どうした?」

「今度は、勝つから」


 リクの瞳に、ギラついた光が灯る。

 しかし不幸なことに、アンドロイドである矢島がその光に気付くことは、なかった。

 

 リクはボールを抱きかかえてサービスゾーンに立つ。

 ボールを高く放り投げ、助走をつけて跳び、力強く手を振り下ろす。


「!? しまっ──」


 ────タァン!!!

 

 その動きの異常性に唯一気付いた矢島が動き始めた頃には、もう遅かった。


 人間では到底到達出来ない速度を弾き出したボールは、寸分の違いもなくコートの隙間を撃ち抜いた。

 ありえないほどの高さまで跳躍してからのその一撃は、最早サーブの域を超えて、アタックに近しい速度を持っていた。


「日辻、お前……!?」

「言ったでしょ。今度は勝つからって」

「ッ、面白えじゃねえか……!!」


 矢島がニヤリと笑う。

 敵味方問わず、他のアンドロイドの生徒たちも臨戦態勢に突入した。


「おい、これやべえんじゃねえの……?」


 荒れそうな雰囲気を察知した風雅が、ポツリと呟く。

 波乱の一戦が、始まった。


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