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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「本当にあった怖い話」シリーズ

紫階段

作者: 詩月 七夜

 「紫階段」という話を語ろう。


 「紫階段」は、ある病院で起きた事件が元になっており、現代でも密かに語られている怪異譚である。

 その内容は、こんな感じだ。


 昭和の時代、とある地方に小さな病院があった。

 ベッド数も僅かだったが、その地方ではとても貴重な病院だ。

 連日訪れる人も多く、病院は賑わっていた。


 その病院に、S子という看護師がいた。

 S子は同期で、美人のF美と仲が良く、休日も連れ立って出掛けたりしていた。

 それもそのはず、二人は家も近所で保育園から看護師学校まで一緒の竹馬の友だったのだ。

 二人は、本当に仲が良かった。

 お互いの秘密を分かち合い、それを守ることで、更に強い絆を結んでいた。

 秘密の共有は、二人の約束事。

 お互いの胸の内を隠さず、正直に話し合うことが、二人を強く結びつけていたのだ。


 ある時、F美に話があると呼ばれたS子は、診察時間も終わり、人気のない病院であることを告白される。

 聞けば、F美に好きな男性が出来たという。

 驚くも、親友の恋の芽生えを喜ぶS子。

 そして、その相手が誰か尋ねると、相手は入院中の患者らしい。

 それしか教えないF美に、S子は相手が誰なのか、教えてくれるようにせがんだ。

 二人の間の約束の事もあり、F美は折れて「今から会せてあげる」と言った。

 興奮しながら、お相手の病室に向かおうと階段を降り始めるS子。

 その瞬間、


どん


 先に階段を降り始めたS子の背中を、F美が思い切り押した。


 何が起きたのか分からないまま、S子は階段を転落していく。

 バリアフリーなどという言葉も無かった時代である。

 病院とはいえ、階段は狭く、傾斜も急だった。

 そこをs子は何度も頭や身体、顔を打ちつけられ、人形のように転がり落ちていく。

 肉を打つ音や骨が軋む音が辺りに響き、一瞬後には静かになった。

 S子の身体は、踊り場で止まり、ピクリとも動かない。

 そして、その身体から病院の青い床へ真紅の染みが広がっていく。

 みるみる増えていく血溜まりを見ながら、F美は悲鳴を上げた。


 予定通りに。


 その後、院内は大騒ぎになった。

 S子は処置室に運び込まれ、すぐに医師が診療する。

 一部始終を見ていた唯一の目撃者、F美は、恐慌をきたしたように震え、涙ながらに事情を説明した。


「私の目の前で、S子が階段から足を踏み外した」


 その説明を、誰もが信じ込んだ。

 当然だろう。

 S子とF美の仲の良さは、誰しも知るところである。

 よもや、S子をF美が突き落とすなどとは、誰も考えはしない。

 そして、それはF美の計画通りだった。


 真相はこうだ。

 F美が好きになった患者は実在した。

 が、ひょんなことから、F美はその患者がS子に思いを寄せていることを知ってしまったのである。

 嫉妬の炎は、容易にF美を悪鬼羅刹へと変貌させた。

 そして、F美はある計画を考え付く。


 そうだ。

 S子を消してしまおう。


 F美はおぞましい計画を遂に実行した。

 そして、その計画は実を結んだ。


 S子は、手当ての甲斐もなく命を落としたのである。



 数年後。

 F美は「目の前で親友を失い、悲哀に暮れる女」を演じつつ、想い人を失って悲しむその患者に近付いた。

 二人は互いを慰め合い、そのうち、想いを通わせるようになった。

 そして、遂に結ばれたのである。


 夫婦となった二人は、病院の近くに家を建てた。

 優しい夫に、通いやすい職場。

 周囲の祝福もあり、二人の前途は順風満帆そのものだった。

 そして、新しい命も授かった。

 可愛い女の子を生んだF美は、人生最高の幸せの中にいた。


 そうして、また数年が経った。

 娘も大きくなり、もうすぐ小学生になる頃。

 F美の家に、リフォームの話が出た。

 古くなった壁紙や傷ついた床を手直ししようということになり、F美は娘と二人でワイワイと新しい壁紙や床板について相談していた。

 夫は仕事で不在だったが、優しい彼は「F美達の好きなものを選びなさい」と言ってくれた。

 やがて、壁紙が決まり、床板をどうするか話し合っていた時だ。

 不意に娘が「床は青い色がいい」と言い出した。

 F美は、職場で目にしている病院の床の色を連想してしまったので「違う色しよう」と提案した。

 が、娘は「青がいい」と言って、頑として譲らない。

 日頃は聞き分けのいい娘が、ここまで反抗するのは珍しいことだ。

 なだめてみるものの、遂には膨れっ面で俯いてしまう娘。

 困り果てながらも、F美は娘に聞いた


「何故、そこまで青にこだわるの?」


 すると、娘はおもむろに顔を上げて言った。


「だって、あの日見た床、アタシの血の色と混ざって、紫色になって綺麗だったでしょ?」


 F美は目を疑った。

 顔を上げた娘の顔が、死んだはずのS子にそっくりになっていたのだ。

 絶叫が響き渡った。



 最後に後日談を記す。

 その後、自宅に帰宅した夫は、血まみれになり、変わり果てた姿になった愛娘を発見。

 警察官と救急隊員が駆け付けるも、娘は既にこと切れていた。

 死因は外因性失血死。

 顔を中心に、何者かに刃物でめった刺しにされた痕跡があったそうである。


 また、自宅から行方不明になったF美は、深夜になってから職場の病院で見つかった。

 S子が突き落とされたあの階段で、彼女同様の姿で死んでいた。

 死因は転落による頭がい骨骨折、全身打撲とそれに伴う失血死。

 警察の捜査では、階段から転落した結果だとされた。

 また、彼女の遺体のすぐそばには、娘を殺害したと思われる凶器の包丁が確認された。


 F美が発見された当時、病院の青い床には彼女の死体から溢れた血溜まりが広がり、青い床は赤い血と混ざって紫色に見えたという。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  淡々と語るさまが、恐怖を煽ります。途中から展開が読める部分もあったのですが、良い意味でのホラーでした。  青と赤で、むらさき。  このアイデアがぞっといたします。
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