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19 帰還

生還しました! 良かったです( *´艸`)





 熱を持ち続ける黒い刀。

 故郷を出る際に司祭から手渡された物。

 それは、生きているのか亡くなっているのかわからない父の物だったと彼は言った。

 なぜこの機会に渡したのか、なぜ今まで父の存在を伏せていたのか。司祭の意図を知る由もない。

 ただ、この刀の黒さが本来の質のものではなく、月日を経て――魔物と向き合ってきた証の色なのだとミコトは悟った。生物に憑りついた聖霊が魔物となり、黑い邪悪な靄に囚われたその絆を断ち切り糧とする刀。

 司祭はこのことを知っていたのだろうか。

 ――だとすれば聖霊士になれなかった自分にどういう意図で刀を授けたのか。

 ――でなければ、なぜ自分に託したのか。


「――おい、起きろってんだ!!」

「ふぁ?!」


 ヴェルスの怒鳴り声にミコトは何事かと跳ね起きた。

 辺りに異常はない。ミコトの視界に入ったのは大きく揺れる馬車の天幕と、そこから漏れる外部からの光。木の板を張り合わせた箱の中で、魔物除けの香の異臭に刺激され意識がハッキリする。

 大丈夫ですか? と、傍らで少年が眉をひそめていた。

 ちゃんと無事なようだ。あどけない少年のイメージからしっかり者の印象に恐ろしく変化した彼――ソォル。ミコトは「ありがとう」と微笑で返した。


「ごめんね、なんかぐっすり眠っちゃったみたいで……」 

「特に異常はありませんでしたよ。街に到着したみたいです」

「もう?!」


 思い返してみても、馬車に乗り込んだ後からの記憶がない。ずっと眠っていたようだ。

 これではいつぞやのヴェルスと同じだ。と、ショックを受ける。というか最近、森から帰るときに意識をハッキリ持っていた試しがないような気がする。もしかして気持ちが弛んでるのかもしれない。引き締めなければ。

 ミコトは、ヴェルスの怒りをおそれつつ、コソコソと天幕を捲り辺りを確認した。


 森へと続く馬車の停留所。

 静けさに包まれ、帰ってきたという感じがフツフツと胸に湧いてくる。辺りはやや薄暗く、街からは灯りが見えていた。穏やかな雰囲気だ。魔物に襲撃された気配はない。こちらも一安心といったとこだろう。

 ボンヤリ街を見つめていると、ソォルが顔を覗き込んできた。


「あの、もしかして体調悪いんですか?」

「あ、ううん。ちょっと安心してついついぼーっとしちゃって」


 そう言いながら馬車を降りる。

 すると、馬車の前方からガイが荷物をまとめている姿が見えた。

 どうやらヴェルスは居ないようだ。ミコトは安堵した。待ちきれずにどこかへ行ってしまったのか。もともと集団行動を好まない彼の事だ、もしかしたら丘にでも行っているのかもしれない。とはいえ、道中警戒を怠り彼らに任せてしまったという事実がある。やってしまったことは仕方がないが、何も言わないのもむず痒い。これなら怒られた方がマシだったかも、と自分を恨んだ。


(謝らなきゃ……)


 ミコトはガイの傍へ向かった。

 すると、気配に気付いた彼が軽く左手を上げてみせた。


「すみませんでした!! すっかり寝ちゃって――……」

「はははははは! 色々あったんだ、仕方ねぇだろうよ。嬢ちゃんは真面目なカタブツかと思ってたが、案外適当なのか? まぁ、そんくらいがこの街に丁度いいってことよ。そんだけ疲れてたってことだ。無事に話せるようになったのもある。今はゆっくり休みな」

「ありがとうございます。それで――……ヴェルスは?」

「おん? 気になんのか? アイツが?」

 

 ガイの表情が若干ニヤニヤと不穏な感情を帯びていることを悟り、ミコトは慌てて全否定した。


「謝りたいだけです!!」

「はっは、冗談冗談。さっさと街に戻ったがどこへ行ったのやら……」

「ギルドですかね」

「さぁてな。普段どこにいるのかなんて見当がつかん。あいつがこの街に来た時からどうにもギルドとは真逆の立ち振る舞いをしたがる。幸い、実力があるから自由にやっていけてるんだろうが……。まぁ、ギルドが肩入れできない部分をあいつが担いでるって意見も少なくはない。疎まれはしないだろうが、いつかギルドと話し合わねぇといけねぇ時が来るだろうな」


 そう言いながら、ガイは街を見つめていた。

 やはりヴェルスがルフェイの失踪した兄であるということは知られてないようだ。話せば状況も変わるのではないかと、ミコトは複雑な思いを抱いた。


「あいつが街で厄介者になったときは嬢ちゃんに任せるからな」

「――は?」


 不意に振られ、意図を理解できずに呆けた顔を見せてしまう。


「実際、あいつが相手にすんのは嬢ちゃんくらいだ。話せるやつもいるが、なんていうかな――言葉にはしにくい何かが嬢ちゃんにはある」

「その説明は重要です!」

「ははっ、この街に首突っ込んだ代償だな。もう嬢ちゃんもここのもんだろ? 聖霊様と契約もやってのけたんだ、俺らにとっちゃ救世主さ。立派な一員だろうよ」


 ん? とミコトは首を傾げた。

 この街に来た時も同じような事言われた気がする――というか、ヴェルスから聖霊士の教えを乞う約束をしてしまった手前、師であるとともに彼の面倒を見る人材として決まってしまっているようなものだと気が付いた。そうなったことは周知されていないが、バレるのは時間の問題だろう。

 面倒なことになりそうだとため息をついていると、街へとつながる道からこちらへ向かってくる人影が見えた。

 手を振りながら向かってくる。

 リンジャだ。ポニーテールが左右に大きく揺れている。

 そうして彼女が間近まで迫ったとき、そのスピードが全然落ちていないことに気付く。飛びついてくる彼女を体の前面で受け止めた。力いっぱいの抱擁に息が詰まりそうになった。


「く、くるしぃ」

「ヴェルスが来たのにミコトが居ないから心配で心配で――というか、ちゃんと声も治ったのね?! よかった、本当によかった!!」

「リンジャ、嬢ちゃんが窒息してんぞ。放してれや」


 ガイの言葉にリンジャは慌てて離れていった。しかし、彼女は傍にいたソォルに気付くと同じように彼にも抱きついた。ミコトはオロオロと戸惑う彼に肩をすくめてみせる。彼女も彼女で色々心配だったんだろう。ガイも制することなく、ミコトと二人で見守っていた。

 すると、リンジャがソォルを解放したかと思うと、彼の身体を隅々までチェックし始めた。慌てふためく彼の反応が以前の彼とは別物だったせいか、リンジャは必要以上に心配している様子。それも仕方のないことだ。ミコト自身、ソォルの豹変っぷりには驚かされたのだから。

 しばらくして満足したのかリンジャが「ごめんね」と、ソォルに向かってすまなさそうな表情を浮かべた。

 いったん区切りの付いたらしい彼女にミコトが問いかける。


「あの、ヴェルスは何か言ってました?」

「ううん、『二度とこんなことさせんじゃねぇ』って悪態ついてどっかいっちゃったわ」

「へ、へぇ……」

「あいつは大丈夫だろうと思ってたけど、何も言ってくれないから皆が心配で……、でも無事でよかった。とにかく三人とも、おかえりなさい!」

「うん、ただいま」


 少しくすぐったい気持ちにミコトは微笑みながら俯いてしまった。

 しかしながらリンジャのヴェルスの真似がなかなか秀逸だった。思い返すと吹き出しそうになる衝動を抑えるのに必死だった。それにしてもヴェルスはやはりヴェルスだ。帰ってきて姿を見せて去ってしまう――といったところか。情景が安易に想像できる。誰も引き留めるようとはしなかったのだろうか。

 ギルドでの出来事を想像していたとき、ルフェイを思い出しハッとする。

 

「リンジャ、ギルドは大丈夫?」

「え? あぁ……」


 彼女は頭領代行中のハズだ。

 こんな簡単に抜けてきていいのかと心配になった。


「それがね、ルフェイがもう大丈夫だって。まだまだ絶対安静だけど……あ、無茶しないように力の強い人たちに見張ってもらってるから安心して」


 それは安心していいのか? でもとりあえずは安心だ。

 良かったと、ミコトは胸を撫でおろした。すぐ傍にいるガイからも安堵の声が聞こえた。

 

「三人とも、今日と明日はゆっくり休んでね。それがルフェイからのお達し。ミコトは聖霊士としての役目で動きたい気持ちもあるだろうけどちゃんと疲れは取ってね。ソォル君はまだまだ混乱してる部分があると思うから、とりあえず今の状況に慣れてから記憶の整理を一緒にしましょ。もしどうしても気になることがあって街を出たいならギルドから派遣するから言ってちょうだい。ガイは街の柵の打ち直しとか色々あるけど、取れてからたっぷりやってもらえばいいから適当に休んで」

「俺だけ雑じゃないか?!」

「自分で考えて動いて良いんじゃない? 立派な大人でしょう?」

「もう少し労わってくれよ」

「ルフェイもあたしも、信頼してるのよ。よろしくね!」


 リンジャの言葉にガイは満更でもないような様子をみせた。

 






次回で一区切りつきそうです。アルヴァリウスさんとの対話が?!|д゜)

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