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三人三神~さんじんさんじん~  作者: あまのん
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陸之書 ~第二章~ 其之三

登場人物


氷動 真夜:主人公、陸人の従者。天照大御神の転生者。


陸人:神様、真夜の主。


海人-カイト-:神様、三神のまとめ役、双子の主。


天人-アマト-:神様、レオンの主。


涼也&紗羅沙-リョウヤ&サラサ-:海人の従者、双子、伏羲と女媧の転生者。


レオン:天人の従者、アメリカ人。ゼウスの転生者。


凪 ミコト-ナギ ミコト-:三神と敵対する少女。


同日 都内某所


少女はけだるさを覚えながら目を開け、ベットから起き上がる。

壁に掛けられた時計に目をむけると既に夕刻が迫り、自身が貴重な休日の半分以上を睡眠に費やしたことに気が付くと

どこか虚しそうに肩を落とす。

そして若干の違和感と熱が残る右腕に目を移した。掌を握っては開いて、その違和感が日常に差し支えないか確認する。

少女はその手で枕元に置かれていた携帯端末をとると、着信履歴や未読メッセージを確認していく。

休日の余暇を過ごす誘いのメッセージや着信相手に業務的な断りや謝罪のメッセージを手早く送り、元の場所へと投げ返した。


「喉乾いたなぁ」


ぽつりとつぶやくと少女は寝間着姿のまま自室の扉をあける。そのまま見慣れた廊下を歩きリビングへ、その鼻孔を香ばしい香りが

刺激すると母親が夕食の支度を進めているのを把握する。


「あら、おはようミコト」


「おはようじゃなくておそようだよ母さん。ごめんね、ちょっと疲れてて」


そう母親に申し訳なさそうに返しながら少女、ミコトはキッチンに立つ母親の背後を通り冷蔵庫の扉を開ける。

飲みかけの白濁のジュースを手に取ると、キャップを開けて直接喉に流していく。


「だらしないわよミコト、ちゃんとコップにうつしなさいな」


「いーの。私しか飲まないんだから・・・今日はカレー?」


火をかけられた鍋の材料を一瞥し母親に並ぶ。


「今日は晩御飯、食べるんでしょ?」


「うーん、もう少ししたら出かける。今日はそんな遅くならないから、帰ったら食べるよ」


ミコトは申し訳なさそうに言いながら、自室に戻ろうとする。


「またバイト?就職決まってるからって、毎日夜遅くまで何やってんだか」


「心配しないで母さん、ちょっと友達に会ってくるだけ」


母親の嫌味を慣れたように躱しながらミコトはリビングを出ようとする。

それを追いかけるように母親がミコトの手を握る、ミコトははっとして振り返る。


「ほんとうに・・・無理してないんだね?」


あぁこの目はいつ見ても苦手だ、とミコトは思いながら母親から視線を逸らす。


「大学だって母さんがんばったら行かせてあげられるんだよ?」


ミコトはそっと母親に抱き着き言葉を遮った。


「大丈夫よ母さん、進路も自分で考えて選んだ。それにアルバイトからそのまま正社員なんだから

慣れた仕事だし、職場のみんなもやさしいから。それに・・・」


「それに?」


「今のうちにモラトリアムは満喫しないとね、遊びも仕事もほどほどに。大丈夫、ちゃんとわかってるから」


ミコトは母親から離れると笑顔を向けてリビングの扉をくぐり自室へ戻る。

自室に入って扉を閉めると、ミコトはすこしうなだれるように扉にもたれかかる。

大好きな母親に、嘘をつくのはやはり慣れない。罪悪感が彼女を襲うが、それを振り切るように昨夜のことを思い出す。


「それにしても・・・」


あと一歩で目標を追い詰めることができたのに、と彼女は後悔する。

戦闘の中で力に覚醒した赤い髪の女性の姿がフラッシュバックした。

力に目覚める前に確実に殺しておけばよかったと。

余計な敵の戦力増強を止められなかった歯がゆさと自身の詰めの甘さにミコトは唇を噛む。

日が傾き夕日が部屋に差し込む。

壁に掛けられた三年間着慣れた高校の制服。そして年相応の女子らしいぬいぐるみや写真の飾られた

学習机。持ちなれたスクールバック。夕日色に染まったそれはまるで黄昏に消える今までの自分

を表現しているのだろうとミコトは思う。


「次は、必ず殺す」


夕日を睨む少女の目は女子高生のそれではなく、間違いなく戦士のそれであった。





同日 高天原


「それでは、私はこれで失礼します」


「あぁ」


真夜は長時間にわたる三神達からの話し合いに多少の疲労感を感じながら、高天原のオフィスビルの前で陸人と対峙していた。

既に日は落ち、街頭やネオンの明かりが真夜たちを照らしている。

わざわざ下まで送りに降りてきた陸人に一礼すると真夜は自宅の方へ歩き始める。


「真夜」


「?」


陸人に呼ばれ真夜は振り向く。

陸人はあたまをかきながら気恥ずかしそうに言葉を選ぶ。


「その・・・なんだ、昨日のこともある。近くとはいえ注意して帰れ」


なるほど、彼なりに自分のことを心配しているのだろうと真夜は察した。


「それじゃあ、家まで送ってくれますか?」


「あほか、俺もそんな暇じゃねぇ。このあと地殻のずれが出ているシンガポール、フィリピン、オーストラリアまで飛ばなきゃいかん」


なるほど、やはりそれなりには忙しいのだろうと、真夜は思う。


「私パスポート持ってないのでお留守番ですね。どうぞ楽しんできてください」


「茶化すな。一応連中に悟られないよう、ここは放棄したと見せかけてある。お前の自宅の方にも存在がごまかせる様結界は張ったつもりだが

用心しろ。昨日の今日で、襲撃してくるとも思えんがな」


「ほかの皆さんは?」


「それぞれ任地に飛ぶ予定だが、朝方までは戻らん。双子は寝てるし、レオンの野郎も夜は本業があるからな。それまでは自分の身は自分で守ってくれ」


身の安全のために協力すると言ったそばからどうも自分は危険にさらされるらしい。

真夜はため息をつきながら陸人を見上げる。


「無責任ですね、私の御主人様は」


「誤解のある言い方はやめろ」


そういいながら陸人は真夜の額をこづく。


「今日のお話で色々と教わったので、なんとかなるとは思います。では、陸人さんも気を付けてください」


真夜は陸人に軽く手を振りその場を離れる。数秒後彼の気配が消えたことを感じ、真夜は再び振り返るが、彼の姿はなかった。



数分後、住宅街へ入った真夜はいくつかの三神の話を頭の中で反復していた。

デウスエクスマキナと呼ばれる神とその従者。その存在は海人に言われて真夜も納得はしていた。

確かに少なくとも2千年以上ある人類の歴史の中で急激に進化をとげた、今の科学文明。

しかもその進化は精々100年強、長い歴史の中でのこの急成長は異常だ。

その裏に三神と同等の神様の存在があったとしてもおかしくはない。

しかしその従者というのが真夜にはよくわからなかった。

三神の言う従者は、かつて彼らの力を分け与えられた資質のある人間が神として伝承された存在だ。

一方100年程度の歴史で、自分たちの様な転生者が現代神側に生まれるものなのだろうか。

それは否だろう。

転生者は一億人に一人現れたら幸運な方。しかもそれは文字通り転生者なのだ。よしんば見つかったとしてその力を開放するには三神の力が必要。

ではデウスエクスマキナはどうか?彼らは従者を作るのに真夜のような転生者ではなく、その力を行使しえる素質のある人間を一から探さなければならない。

天人はそれこそ昔は素質のある人間は多くいたが、そもそも神様の存在を信じていない人間が増加しているなか、かつての様にその力を正確に認識し、行使できる存在は転生者以上に稀有

であろうと言っていた。

昨日襲ってきた少女を思い出す。おそらくは自分より年下、ざっと高校生程度だろう。陸人は初めて見る相手と言っていたが、ということは少なくとも数人は敵の従者が存在する

ということだ。戦いを仕掛けてくるにしても、訳の分からない強力な力を使える真夜たちを少なくと30人従える三神に対し現代神はそれに見合う戦力を用意できるのだろうか。

彼らの従者は自分たちとは異なる理論で生み出される、そもそもの概念が違うものではないかと、真夜は想像を膨らませていく。


そんな考えをしているうちに、自宅のアパートのすぐ近くまで真夜はたどり着いていた。

そして違和感にきがつく。


(人が・・・いない・・・?)


すぐさま真夜は360度周囲を確認する。既に日は落ちているがまだ時間は夕食時。

流石に休日とはいってもこの時間なら帰宅する者、ペットの散歩やジョギング、そして車やバイクといった車両そのいずれかとすれ違う。

しかし住宅街に入ってからの数分、真夜は誰ともすれ違っていない。

そして見渡す限り人や車両、あのうるさい野鳥までもが彼女の周囲から消え去っている。

直感的に真夜は自身が危機に瀕していると確信する。今まではこんな感覚は感じたことはなかったが、こういった感覚の鋭敏さも転生者として

覚醒した力の一端なのだろうと真夜は自身を納得させた。


「あーなんだっけなこの状況」


よく大学でオタク気質の友人が口にする言葉を思い出す。先ほどの陸人とのやり取りが脳裏をよぎる。


「フラグってやつだよね・・・これ」


そして真夜が今あるいてきた道の後方に一人の華奢な人影が見える。

忘れもしない、昨夜のあの少女だ。しかし昨日と異なることは機械的な兵士の井手立ちではなく、一般的なものだ。

丁度街頭の真下に立つ少女は、黒いパーカーをきこみその帽子をかぶって頭をこの寒さから守っている。

デニムのミニスカートにハイソックスとスニーカー。どこにでも居そうなカジュアルチックな衣装を身にまとう少女だ。

少女は無言で帽子を後ろにずらし顔を露わにする。

冷たく光る銀色のセミロングの髪。まるで死んだ魚の様な無気力な瞳が真夜を見つめる。身長は真夜より10cmほど下だろうか。

距離は20mあるかないか。真夜はごくりと唾をのむ。


「また会いましたね、お姉さん」


少女が真夜に言う。


「あなた、まだ未成年でしょ?こんな時間に一人で危ないわよ」


平静を装い真夜は少女に返す。


「そんな私と年は変わらないですよね?大学生?」


「一応今年大人の仲間入りはしてるわよ、社会人の仲間入りはまだだけど」


少女が一歩真夜に近づく。


「それじゃあ社会人としては私の方が先輩になりそうですね。入社は四月ですけど」


さらにもう一歩。


「へぇ、それじゃあ今のうちに遊んでおいた方がいいんじゃない?こんなところでお姉さんをからかうよりよっぽど建設的よ?」


少女からは昨日の様な異形の力は感じない。戦闘態勢にはいっていないのだろうか。

しかし真夜はすぐさま力を発現できるように意識を集中させる。


「ご心配なく。こう見えて程よく遊んでます。それに、私思いの他仕事熱心なんですよ。オフの日に自主的にバイトするくらいには」


距離は10mを切っている。まだ相手に敵意は見えない。


「お姉さん、あの人達と手を切ってもらえませんか?」


その一言で真夜は少女の意図を察する。

これは警告だ、あくまで三神の元につくなら容赦しないという意思の表れだ。


「できればそうしたいんだけどね。ちょっと今の状況じゃ無理かな?ほら、私変な体質になったみたいだし」


「そのようですね。昨日は驚きました。指からレーザー出す人初めて見ましたもん、あれ、便利そうですね」


真夜から5mくらいで少女は止まる。表情は変わらず無愛想だが、どこかのアイドルグループに在籍できそうな美少女だ。


「お名前聞いていいですか?」


「もうちょっと仲良くなったら教えてあげるわ」


真夜そんななか頭の中で陸人に現状を報告すべく彼に呼びかける、昼間に高天原で教わった技能の一つだ。

一種のテレパシーで、自分の主やその配下の従者と交信できるらしい。

しかしながら応答はない、おそらく別の案件に力を行使しているのだろう。


「そうですか、私は凪ミコトです」


「親切にどうも」


「お姉さん、私がどうして顔まで見せて名前を名乗ったかわかります?」


真夜はぞくっとする。死んだ魚のような目の中に明確な殺気が宿っている。


「システムスタート、モードアサルト」


少女がつぶやくとその体が光に包まれる、すぐさま真夜も力を開放する。


光が収束するとそこには昨夜と同じ機械的な戦闘服に身をつつんだ少女がいた。

一方真夜も髪は真紅にそまり、そのオーラを纏う。

少女のかぶるヘルメットのようなものからバイザーが自動的に降りてその表情を隠す。


「自分が誰に殺されるかくらい知りたいと思って」


「それは穏やかではありませんね、今宵わたくしを必殺する、意思表示ということでよろしいですか?」


そうして、再び連夜の邂逅がはじまった。


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