4話
4匹がクマを見つけたのは、根っこ広場近くでした。クマはきょろきょろと周りを見て、何かを探すようにのっそりと歩いています。コマドリたちはクマの後ろから声をかけます。
「クマさん、私の卵を取ったのはあなたかしら? あなたでしょう!」
コマドリはクマの前まで回り込むと、左右の翼を広げてとうせんぼします。突然現れたコマドリに、クマは大きな体には似合わない小さな声で、わっと驚きました。
「な、なんだコマドリか。一体どうしたの?」
クマは眉を八の字に曲げます。突然現れたコマドリが威嚇のポーズをとっているのだから当然です。
「あらあらクマさんそうなの?」
コマドリを追いかけて、キツネとリスはクマの前まで歩きます。ヘビはマイペースな足取りで根っこ広場からはみ出した根を上がっては下って、コマドリたちを追いかけます。
キツネが事情を話す間、クマはその場に座って時々相槌をうちながら聞いています。時々、不安そうにコマドリを横目で見ています。怖がりのクマには、自分の足よりも小さいコマドリでも威嚇されると十分に怖いのです。
「な、なるほどね。卵をね」
事情を聞き終わったクマが見せた反応は、目を逸らし声がわずかに震えていました。姿は何かを隠しているのが明らかでした。それを見たコマドリは翼を掲げると、思い切りばたつかせます。クマは悲鳴を上げて、尻をこすらせながら後ずらします。後ろにいたヘビは尻に轢かれまいと急いで退きました。
「あなた、あなた! 何か知っているでしょう! そうでしょう!」
コマドリは後ずさるクマを見て、更に確信を持ってまくしたてます。それを見て、キツネは「あらあら」というばかりです。リスは気付けばクマの背中にくっつき、ロデオよろしく乗りこなす遊びをしています。そんな状況を見かねたのか、ヘビが今までにない大きな声で、こう言いました。
「じゃあ、根っこ広場に聞けばいいんじゃないかな?」
ヘビがこんなことを言うのは理由がありました。昔から根っこ広場には、嘘をつくと根っこに捕まるという言い伝えがあるのです。子供を叱る時にはよく、根っこ広場に連れていくぞ、と言われています。ですが、所詮は言い伝え、大人になったほとんどの動物たちは、全く信じていませんでした。
「そ、それは嫌だ!」
クマはその場にうずくまり、頭を抱えます。どうやら、大人になったクマは言い伝えを信じていたようです。
「あなた、やっぱり何か知っているのね!?」
コマドリが今日で2番目に大きな声をあげました。クマはその大きな声に大きな身体をちぢこませてぶるぶると震えます。お人よしのキツネはその様子を見かねて何かをしようと前足で何度か空を切ってから、クマの頭を撫でることに落ち着きました。
「それで、クマは何を知っているんだい?」
そう聞いたのはヘビです。ヘビは舌をチロチロと出しながら、クマの顔色を窺います。ゆっくり話すヘビの落ち着きにクマも少し震えが収まりました。
「ち、違うんだよ、わざとやったわけじゃなくて」
「コマドリの巣の近くを通ったときに、ワルのトカゲが卵を取っていこうとしているのが見えて」
「怖かったけど、卵を守らなきゃと思って」
「頑張って追いかけしたんだけど、僕じゃ卵を持ったまま木を登れなくて」
「だから、隠しておいて、コマドリに取りに来てもらおうと思ったんだけど」
「さっき見に行ったら、なくなってて……それでそれで……」
早口でクマは事の顛末を語っていきます。最後には泣きそうになりながら、声を震わせます。それを聞いていたみんなが、悪戯好きなリスさえも黙りこくってしまいました。そして、クマは小さく嗚咽を漏らすと、決壊した池のように涙の洪水を流し始めました