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殺し屋さん殺しきる

作者: 秋津久寝

単発の予定

もしかしたら、読み切りで続きを書くかも

とある繁華街の裏路地。

薄暗いビルの谷間で一人の男が殺された。


「はい、お仕事終了。」


一見すると単なるサラリーマンにしか見えない男が、狭い道に倒れている男の横に立っている。

30代後半から40代くらいの短髪、メガネのやや背の高い、これといった特徴の薄い男である。

横たわる男は、50代くらいの初老の男で、下腹部の膨らみが少し目立つ程度のどこにでもいるような男であった。

ただ、その目は光をなくし、力なく体を横たえている。

死因は心臓を一突きされ即死。

争ったような形跡も残さず、静かに素早く命を奪われた。


「さて、報告に行きますかね。死体、どうしましょうね…。今はやりの猟奇殺人の模倣犯のように振舞いますかね?んー…今ならまだ、いろいろ工作してもバレませんかね…?いや、ここは新たな事件という形にしたほうが早いかもしれませんね。」


男はブツブツと独り言をつぶやきながら、考えをまとめていく。

結果、死んだ男を逆さ吊りにし喉を掻っ切った。


勢いは緩いものの首からは血が流れだした。


「あー…心臓が動いていないと出が悪い…。しまったなぁ…。まー、分かりやすいシンボルということで、良いでしょう。」


男が自分の過ちを反省しつつもすぐに切り替え、その場を去って行った。

痕跡らしい痕跡は、死んだ男に残された殺戮のあとだけで…。




―――プルルル…ガチャ


『はい、巳亜ミア商事管理部人事課です。』

「お世話になっております、木島植栽のクチナシです。課長の鈴木様はいらっしゃいますか?」

『はい、お世話になっております。鈴木ですね。代わりますのでしばらく、お待ちください。』


『お待たせいたしました、鈴木ですが。』

「お世話になっております、木島植栽のクチナシです。」

『あぁ、クチナシさん、お世話になっております。』

「ご依頼いただいておりました剪定、終わりましたのでご確認をお願いいたします。場所は、ご指定の通りとなります。若干、手を加えておりますので念のため、そちらもご確認をお願いいたします。」

『はい、わかりました。そうしましたら、確認に向かわせますので。早々にありがとうございます。』

「問題ございましたら、お電話いただければ処理いたしますので、ご気軽にどうぞ。」

『あぁ、いつもながらありがとうございます。では、また確認できましたらご連絡いたしますので。』


クチナシと名乗った男は電話を切り、カフェでコーヒーをすする。

先ほどの凶行なぞ無かったかのように、乱れたものは一切見られなかった。


コーヒーを飲み終えたころ、男の携帯に着信の振動が起こる。

男は慌ててカフェを後にし、電話に出る。


「お待たせしました、木島植栽のクチナシです。」

『お世話になっております、巳亜商事の鈴木です。』

「お世話になっております。」

『先ほどの件、確認が取れました。ありがとうございます。また、ご契約の通り振り込みの方させて頂きます。』

「あー…あんな感じになってしまいましたが、大丈夫ですか?」

『ん?あぁ、処理の仕方ですね、大丈夫です。弊社の工務部、優秀なんですよ。それにしても、毎度大変ですねぇ。』

「えぇ、そうなんですよ。万が一、見つかった場合、言い訳が立つように工夫する必要があるので。」

『それはそれは、お疲れ様です。』

「いえいえ、優秀な人材がいる御社あってこそですよ。」

『これは、嬉しいことを言っていただけますね。』

「本音ですよ。ではまた、ご依頼を頂ければと思いますので。」

『はい、ありがとうございます。』

「失礼します。」

『失礼いたします。』


一通りやり取りを終え、電話を切る。

ふぅ、と息を吐く。


「さて、事務所に戻りますかね。」


さぼりの外回りの営業マンのように、くたびれたカバンを持ち、歩き出す。



―――木島植栽


鍵を開け、扉を開く。

どこにでもあるような雑居ビルの一室。

4階建ての3階に事務所がある。

個人向けオフィスの作りとなっており、6畳程度のタイルカーペットの部屋に机、椅子が片側の壁に設置してある。

その対面には床から天井にかけ柱を立てた鉄製の棚があった。

壁は白色に塗装されたコンクリートの壁で、少し明るい程度の照明が部屋を照らす。


「さて、報告書のまとめと…。」


男は、机の上に置かれたPCの電源を入れ、報告書を作成し始めた。





―――コンコン


「はい、どうぞ。」

「失礼します。」


ある日、男が事務所でなにやら作業をしていると訪問者があった。


「あの、すいません、こちら不要なものを剪定いただけるとお聞きしたのですが…。」

「えーと、一般の方…ではないですね。では、こちらへどうぞ。」


男は訪問者を応接スペースに案内する。


「狭くて申し訳ございませんね。」

「あ、いえ、お構いなく…。」

「さて、そちらの名刺はどちらから?」

「巳亜商事の鈴木さんから、です。」

「鈴木さんからのご紹介ですか。元気そうでしたか?」

「はい、特にお加減が悪そうには見えませんでした。」

「それは何より。また、近々ご挨拶にお伺いしないと…。」

「それで、その、ご依頼の件ですが…。」

「はい、では、資料を頂けますか?」

「その、資料というほどのものはなく、ただ、コレだけなんですが…。」


訪問者は一枚の地図と事件の内容が書かれた新聞の切り抜きを渡した。


「お預かりします。」


男は資料を受け取り、内容を確認する。


「そうですね…これ、生身ではない方ですね?」

「!!わかるんですか?」

「一応、私も視える人間ですから。」

「この事件の犠牲になった人間が私の大事な人なんです。」

「なるほど。理由はどうあれ、ご依頼を頂き、対応できるのであればそれをお受けするだけなので。金額については、お聞きしておりますか?」

「はい。」

「分かりました。では、こちら、お受けさせていただきますね。」

「ありがとうございます。」

「なに、鈴木さんのご紹介ですから。」


男は訪問者を見送り、資料に再度目を通す。


「久しぶりのハメ外しだな。楽しみだ。」


男はメガネの奥で怪しい笑みを浮かべた眼差しでつぶやいた。




―――数日後の夜間


「ここが現場で、まだ、このあたりに残滓があり。ということは、この場に定着してるのかな?」


相変わらずスーツ姿の男は、現場に立っていた。

そこは、人通りの少ない裏路地で、街灯の明かりが届くものの、非常に暗い場所であった。

時間は22時を過ぎ、時折、よっぱい客の楽しそうな声や街の喧騒が響いてくる。

男は何をするでもなく、タバコをふかし、携帯を見る。

近づく人の気配に視線をあげると仕事終わりのサラリーマンらしき人物が疲れ切った様子で歩いている。


「…違うな。」


男はサラリーマンを一瞥するもターゲットと違うことを確認するとすぐに携帯に視線を戻す。



携帯の時計が午前0時を教えてくれた頃、その時は来た。


「お、来た来た。」


男が視線を上げ、街灯の明かりが届かない暗がりを見る。

そこには、白いモヤが漂っていた。

やがてそのモヤは人の形を取り始める。


「…。…。…。」


人型のモヤは、聞き取れないくらいに小さな声を発している。

そして、男に向かって男もなく近づく。

その様子を見るや否や男は棒状の何かをカバンから取り出し、右手に握る。


近づくモヤは、すでに完全な人間の姿となっていた。

その顔は般若のような表情をした女であり、目から血の涙を流してる。

口は大きく開かれ、犬歯が牙のように大きく肥大化していた。

長い髪はボサボサに乱れており、見るものに恐怖しか与えない。

その手には包丁を持ち、さながら山姥のようである。


「そぉれ!!」


だが、男はそんな相手の様子など全く無視し、手に持った棒状のもので包丁を持った腕を叩く。


カランッ…!!


直後、包丁が地面に落ち音を立てる。


相手は驚きに、自身の手を見る。

そして叫ぶ。


「なんで!!なんで!!なんで触れるのよ!!」


「さぁ、なんででしょうねぇ?」


飄々と答える男。

再び構えなおし、相手に向かって走る。

相手は、その様子を見て引っかきにかかった。


バキ!!


男の持った棒状のものが相手の顔を殴打する。

狼狽える相手。


「なんで…なんでそんなもんで…!!」


街灯の明かりが男の手元を照らす。

男の手にした棒状のものは、魚肉ソーセージだった。


「美味しいですよ?」

「知るかぁ!!」


相手は再び男に襲い掛かる。

が、男の持つ魚肉ソーセージに殴られ返り討ちに遭う。


相手は悔しそうに歯ぎしりする。

が、その一瞬を逃さず男は魚肉ソーセージでひたすら殴り始めた。

何度も何度も魚肉ソーセージから出てくると思えない鈍い音を立て、殴り続ける。


どれくらい時間が経ったか。

気が付くと相手は殴られ続けながら、体育すわりで頭を手で守っている。

殴打する音の合間にすすり泣くような音が聞こえる。


「やだぁ…やめてよ…やだぁ…。」


相手は般若のような顔から、どこにでもいそうな女の顔になって泣いていた。


「容赦しません。」

「消えるから、自分で消えるから…。」


力なく相手は答える。

だが、男の手は休まることなく、ひたすら殴打を続けている。

と異変が起きた。

今まで無表情で殴打し続けていた男の表情が途端に笑顔になった。

それと共に、殴られた相手の手が腕ごと消失した。


「え!?」


思わず驚く相手。


「では、お望み通り消します。」


一言、笑顔で男が告げる。


「そぉれ!!ポテトパーティー!!」


謎の掛け声と共に男が殴る。

再び、殴られた場所が消失する。


「ど、どういうこと…!?」


悲痛な叫びをあげる相手。


「独自の方法で編み出した、成仏法です!!ピザオールトッピング!!」


またしても、謎の掛け声。

消失する両足。


「いや…いや…。」


「棚ごと大人買い!!」


掛け声、消失する胴体。


「…初めてのチュウ。」


男が照れたように静かに掛け声をし、首だけになった相手を軽く叩く。


「え…ちょっと…それ、どういう…。」


相手が訳の分からぬ顔で迫る魚肉ソーセージを見る。


ポコ


当たった瞬間、相手の思考の中に充実感に満ちたものが侵入し、満ちた。

そして、自身を構成していた怨みがどんどんほぐされていくことに気が付く。

今まで、痛みと苦しみと怨みだけで構成されていた自身の感覚が、一気に解放されていく。


「苦しさが…抜けていく…。なにこれ…。」


「よく分からないのですが、どうも、記憶を強制的に上書きできるようになったので、そうしているだけです。」


男の解説とも言えない解説に釈然としない相手。

だが、自身を縛り付けているものがなくなる感覚に徐々に、安堵感を得る。


「訳が分からないけど…助けてくれるのね…?」


「結果的に、あなたが消えれば問題ないので。」


「…優しいんだか、なんなんだか…。でも、ありがとう…。」


相手は、そう言って生前の姿らしき顔になっていく。


「ただ、このうっとおしい状況なんとかしてくれない!?」


と、理性を取り戻した顔で抗議する。

相手の視界のなかでは、辺り一面がお花畑になっており、目の前に立つ男と同一人物であろう人物が無表情で走り回っている。

ただ、確実に浮かれているのが分かる。

スキップしたり、両手を広げて走り回っているのだ。


「どうしようもないです。そして、そろそろお別れです。」


「へ?お別れ?何、このよく分からない状態で送られるの、私?」


「いえ、きちんと幕引きは存在します。では、存分にお楽しみください。」


「ちょっと、嫌な予感しかしないんだけど…ちょっと!!」


男が背を向け、歩き出す。

それと共に、走り回っていた方の無表情の男が相手に向かって近寄ってきた。

そして、首を持ち上げると目をつむり、唇を突き出してきた。


「のぉぉぉおぉぉぉぉぉ……!!!!!!!!!!!!!」


相手は涙を浮かべ、容赦なく近づく唇に無抵抗で襲われる。


ブチュウ…


首だけになった以上、抵抗できるわけもなく唇を奪われる。

そして、謎の充実感に強制的に満たされながら傷心し天へと送られていった。


「願わくば、良き来世を。」


男は振り返らず、その場に立ち止まり祈りを捧げた。




―――事務所内


「というわけで、ご依頼は無事、終わりました。」


「ありがとうございます。」


「では、あとは鈴木さんの指示に従ってください。」


「はい、では、失礼します。」


その日、男は訪問者を呼び、報告書を手渡した。

訪問者も内容に満足し、帰って行った。


「あ、魚肉ソーセージ食べないと。」


そう言って、男はあの日使用した魚肉ソーセージを美味しそうに頬張るのであった。




依頼を受ければ、どんなものでも殺しきる殺し屋。

それが、男の職業である。


敢えて、固有名詞を使わず、関係性のみで表現しました。

分かりにくいようであれば、修正します。

お手数ですが、ご指摘いただければと思います。

また、併せて評価いただければ幸いです。

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