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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第九十七話:聖女候補同盟

おかげさまで日間ハイファンタジー部門で81位、総合で243位になりました。

ご声援、ありがとうございます!

「なに、なんの用……?」


 最初に訪れたのは、三人一組のところだった。


「ちょっと手助けしたいと思って」


 代表として、俺がそう声をかける。


「手助けって、そんな余裕、あるの?」

「あるといえば、あるわ」

「それは、すごいけど……」


 そう応対する少女——多分アリスよりひとつかふたつ上程度だろう——は気丈に振る舞っていたが、それでもその顔には疲労が浮かんでいた。

 もうひとりは完全に疲れ切っているのか、後ろにある岩陰でぐったりと横になっており、最後のひとりが(ひざまず)いて様子を見ている。

 やはり、クリスと聖女アンの予想は当たっていた。

 道具こそ渡されているものの、普段は歌と踊りを中心に学んでいる少女たちにとって、三日も無人島にいることは酷だったのだ。


「わかってるの? これが選抜試験だって」

「ええ。そしてこの七日間を乗りきれば、全員合格する可能性もあるって事もね」

「……それは、そうだけど」


 どうやら、選抜試験という名称が、彼女たちを踏みとどまらせているのと同時に、彼女たち自身を縛っているようである。

 ——そういう意味で、今回の試験を考えついた運営は、かなりの手練れだった。

 もちろん、悪い意味で。

 まぁ俺は俺で、それらを出し抜いてやるつもりなのだが。


「だから、みせてあげましょう。私達が助け合ってでも合格するさまを」

「そうだね……わかった。お願いする。もう、意地だけでも無理そうだったから」

「ありがとう、そう言ってくれて」


 そこで、ぐったりと眠っている少女の様子を見ていたもうひとりの少女がおずおずとこちらに歩み寄ってきた。


「な、なぁ……もう無理しなくていいのか……?」

「うん、助けてくれるって」

「それなら、ちょっと()て欲しいやつがいるんだ」

「わかったわ。アリス」

「はい!」


 俺の後ろで控えていたアリスが、前に進みでる。


「元々身体が弱いのに無理しちゃってさ……頼む」

「それでは、失礼しますね」


 そう言って、アリスは眠っている少女の熱や脈を着ている水着の上から測りはじめた。


「うん、これなら……」

「――アリス?」


 俺が声をかける前に、アリスはその容態を確認し終えていた。


「これなら、果物の絞り汁でどうにかなりそうです」

「そうか」

「よかった……」


 俺と面倒を見ていた少女が同時に胸をなで下ろす。


「もう少し弱っていたら、生魚の絞り汁でしたね」

「「なにそれこわい」」


 思わず声が重なってしまう俺たちであった。


「——ああ、そういえば身体が弱ったときにタンパク質を摂る手段として推奨されていましたね」


 クリスまでもが、恐ろしいことを言う。


「逆に体力が落ちそうですけど……」


 聖女アンの言うことも、もっともであった。


「アリスさん……だっけ? 最初に言ってた果物の絞り汁をたのむ!」

「大丈夫ですよ。ちゃんと用意しておきましたから」


 そう言って、アリスは革袋状の水筒に収められた果汁を、衰弱している少女にそっと飲ませ始めた。

 ちなみに、この革袋——原材料は、例の昆布である。

 出汁を取りきった後に乾燥させると革のようになるというので試しに作ってみたのだが、その性能は十分であったらしい。


「ほら、あなたたちも」


 そう言って、残りのふたりに中身の詰まった革袋を投げてよこす。


「……これは?」

「真水よ」

「ほ、本当?」

「ありがたい! いただいちゃうぞ!」

「ええ、どうぞ。でも最初はゆっくり飲んで。でないと胃が受けつけなくて、吐いてしまうから」

「うん、わかった。……すごい。こんなにある。朝露をあつめるのにあんなに苦労したのに」

「本当に助かる! ありがとうな」


 そう言って、ふたりは革袋の中の真水を飲み始めた。


「お水、ありがとう。ところでえっと——」

「私はマリス・マリウス、そちらの症状を観ていたのはアリス・ユーグレミアで、そっちがクリス・クリスタインとマ・アヤ」

「よろしく。それでマリス、質問なんだけど」

「なに?」

「私達は貴方達の仲間になったわけだけど、なにか出来ることはある?」

「あるわ。体力が回復したら道具を渡すから、この島を生き抜くために他の道具を作ったり、食料を集めて欲しいの」

「なるほどね。わかった。それじゃ改めて——」


 少女が手を差し出す。

 それが握手だと気づき、俺は少しだけ慌ててその手をそっと握ったのであった。


「私はアヤカ・ラハラ。寝ている子がマイ・チガミ、面倒をみてくれたのがエリ・イツマ」

「アヤカに、マイに、エリね。改めてよろしく」

「うん。こちらこそ」


 こうして、俺は、俺たち『連奏トライアルフリート』は、別の組と同盟を締結した。

 今日中に他の組すべてと同盟を組まなければならないところが少し骨の折れることだが、それでも、やらなくてはならない。


「後で私達が作った寝床に案内するわ。私達はこれから他の組にも同じ話をもちかけてくるから」

「わかった。気をつけてね」

「ありがとう。それじゃ、アリス、クリス、アヤ。行きましょう」


 陽はまだ高い。

 それが沈む前に、そして耐えられなくなった組が降参の狼煙を上げる前に全ての組を回るべく、俺たちは行動を開始したのであった。

■今日のNGシーン


「ふぅん……あんたが『連奏トライアルフリート』のリーダー? まぁ、悪くはないかな」

「やだ……この子、蒼い!」

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