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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第九十六話:魔王の意趣返し

 

 一日目。


「これでよし、と」


 山の斜面に一角を囲むように溝を掘り、その真ん中に草を敷き詰める。

 そして下の方から枝などを燃やし、煙で(いぶ)して虫などを追い出せば、簡易的な寝床の完成だ。


「おつかれさまです。日よけは……いりませんね」

「そうね――ってなにそれ」


 クリスが持ってきたのは、木の枝と布を組み合わせた日よけに見えた。

 が、よく考えたら布の訳がない。

 ここは無人島、俺たちに与えられたのはナイフひとつと鍋ひとつだけだからだ。

 ではその日よけ部分の布地はいったい――。


「なにって、昆布ですよ」

「昆布」

「海藻です。みたことありませんか?」

「海藻。って、もちろんみたことあるけど」


 ()の知っている昆布は、低めの扉ほどの大きさを有していない。

 日よけの布代わりとしては、申し分ないが……。


「少し……大きくない?」

「そうですか? 私には普通の大きさに見えますが」

「そ、そう――」

「まだ見たことはありませんが、北方の海ではもっと大きいそうです」

「それは……すごいわね」


 北方に向かうときは、昆布が雷光号(らいこうごう)に絡まらないよう、注意する必要がありそうだった。


「それでどうします? これ。今日は日差しが強くありませんが」

「そうね――でも一応置いておきましょう。明日以降どうなるかわからないから」


 確かに今日はそれほど直射日光は強くなかった。だが、翌日以降はどうなるかわからない。


「おまたせしました。晩ご飯できましたよ」


 そこへ、聖女アンを伴ってアリスが戻ってきた。


「ありがとう、アリス」

「どういたしまして! 今回は、ア——アヤさんも手伝ってくれたんですよ」

「いえいえ、私なんてただアリスさんの指示に従っただけですから! 手伝えたとはとてもとても——」

「そんなことないです。わたしひとりでは、時間までに食べるものを集めきれませんでしたから。これは、アヤさんがいなかったら、できなかったことですよ」

「……ありがとうございます、アリスさん。そう言って貰えると、嬉しいです」


 本当に嬉しそうに俯く、聖女アンだった。


「それで、今日はなにを作ったの?」

「はい。食べられる野草と、木の実、それに海岸の近くで泳いでいた魚のシチューです」

「ちょっとまって、釣り竿も網も作らなかったけど、どうやって魚を捕ったの?」

「それはですね……!」


 アリスの代わりに、聖女アンが興奮した様子で話す。


「アリスさんすごいんです。手づかみでこう——ずばっと!」

「手づかみでずばっと」

「それほどでもないですよー」


 充分すごい技能だった。

 アリスの持っている鍋の中をのぞき込むと、()の前腕部——今の身体ではなく、雷光号の中で瞑想状態にある本来の身体の方——くらいの魚をぶつ切りにしたと思しき切り身がいくつも浮かんでいる。

 それだけの大きさの魚を手づかみでいくには、相当の技量が必要なのは、言うまでも無い。


「と、とりあえず、今は食べましょう。この試験、体力勝負なんだから」

「そうですね」


 あらかじめ灌木や流れ着いた木の板で作った皿の上にシチューを盛り、枝を削ったフォークを配膳する。


「いただきましょう」

『いただきます!』


 ()の言葉に合わせて、その場にいた全員が唱和した。


「あ、このシチュー美味しいです……」


 クリスが、嬉しそうにそう呟く。


「しっかりと出汁が出ているのがすごいわね。何を使ったの?」

「昆布です」

「なるほど、昆布——んんん?」


 思わず、足下に折りたたまれている日よけを見る。


「あれといっしょ?」

「ですね。フグの骨やウミウシに負けず劣らず、いい出汁が出るんですよ」


 確かに美味い。

 確かに美味いが……。

 そうか――。

 フグの骨はともかく、ウミウシで出汁が取れちゃうのか……。


 そうこうしていくうちに、日が暮れてくる。

 島の中腹にあたるこの場所から辺りを見回すが、狼煙が上がっている様子はない。


「さすがに初日でへばりはしないか……」

「今はピクニック気分が抜けていないというのもあるでしょう。明日からは――そうもいってられなくなります」


 クリスがそう呟いた。

 ()も同意見だし、アリスもおそらく同意見だろう。



 二日目。


「よいしょっと……こうでしょうか?」

「そうね。それでいいと思う」


 翌日は、日差しが強かった。

 ()はクリスと共に、昨日作った日よけを寝床に設置する。

 少々汐のにおいがしたが、これくらいなら我慢できないこともない。


「真水ですけど、これだけ集まりました」

「上手くいったみたいでよかったわ」


 アリスが聖女アンと共に採取してきた真水は、四人が飲む分として数日分は十分まかなえる量だった。


「す、すごいですね……沢の水に海の水を蒸発させた分、おまけに朝露を集めて真水を作るなんて――」

「この手の事態に陥った場合、真っ先に用意しないといけないからね。だから先手を取ったのよ」


 と、()


「不勉強でした。まだまだ足りないところがいっぱいありますね、私……」

「そんなことはないわ。たとえばこれからしばらく暇になるから――聖女として覚えている歴史や伝承を、みんなに教えてくれる?」

「はい……はい! よろこんで!」


 内心、歯を食いしばる。

 これから聖女アンの話す内容は、俺の伝承であるからだ。

 しかし、それを物語としてでも学んでおくのは悪くない。

 ()が、()たち魔王軍が、どのように語り継がれているのか、知ることの出来る絶好の機会だからだ。



 三日目。


 その日は、昨日と同じく日差しが強かった。


「そろそろ、何組か脱落するでしょうね」

「そうですか……」


 日差しを避けて座るクリスに、聖女アンが少し落ち込んだ様子でそう呟く。


「ただ、脱落するだけならいいんですが……」

「というと?」


 その言葉尻が気になって、そう訊く()


「衰弱して、狼煙もあげられないところまで我慢してしまっている可能性も捨てきれません」

「それか――」


 たしかに、ありうる。


「どうにか、したいですね……自分から挑んでいるとはいえ、島にただいるだけって辛いですから」


 と、アリスが水平線を眺めながらそう呟く。


「じゃあ、どうにかしましょうか」

「えっ!?」


 聖女アンが、変な声を上げる。


「アリス、クリス。ふたりとも――かなり忙しくなるけど、いい?」

「えっ」

「言い出したのは、わたしですし」

「えっ」

「なにをいまさら……ですね」

「えっ」


 右往左往する聖女アン。


「決まりね」


 ゆっくりと立ち上がりつつ、俺。


「あ、あの、あの! 本当に出来るんですか?」

「当然よ」


 不安そうな声を上げる聖女アンに、頷いてそう答える。

 その表情で察したのだが、おそらく彼女は、いままでの政務の中で救えるものと救えないものを秤にかけてきたのだろう。

 それは、俺もやってきたことだ。だから、その表情の意味はよくわかる。

 だが――()()()()()

 今の俺には、俺たちには、それが『出来る』『技術』と、それを『行う』『人員』がそろっているのだ。


「どうせだから――」


 久々に魔王らしく、どう猛な笑みを浮かべて、()は続けた。


「みんなを、試験合格――させましょう」


 今回の試験、他の組を助けてはいけないとは、ひと文字も書いていない。

 それなら、最大限利用させてもらう。

 魔王らしく、運営に対し最大限の嫌がらせとしよう。


 そう、これは……魔王流の、意趣返しだ。


■本日のNGシーン


「どうせだから――」


久々に魔王らしく、どう猛な笑みを浮かべて、俺は続けた。


「みんなを、ス◯ァラ◯ト――させましょう」


「つまり大将が魔王のレビューを行うわけだな……わかります」

「なんだそのキリンのハリボテ」

「いや、出番がなさすぎてよ、そこらのガラクタで作ってみたんよ」

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