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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第九十二話:聖女の妹対策会議

 風呂の後から就寝までの間、自室での短い時間が、稽古のある日の自由時間となる。


 俺たちはこの時間を、もっぱら作戦会議に使っていた。


「マリスちゃん、大丈夫ですか? なんか疲れていません?」


 アリスが心配そうに訊く。


「そりゃ、あれだけ胸を押しつけられれば——」

「えっ?」

「……なんでもない」


 よくよくみると、部屋の隅で聖女アンが真っ赤になってうずくまっている。

 おそらく、その場の勢いにながされてしまった自分が恥ずかしいのであろう。

 それはさておき――。


「とりあえず、はじめましょう」


 ()の一言で、全員がベッドとベッドの間に車座になる。


「まず、昨夜のことなんだけど――」


 昨夜あったことを、かいつまんで話す。

 もちろん、元の身体に戻った云々や、雷光号(らいこうごう)の甲板から魔法を使って見たことは端折ってある。

 さすがに聖女アンに俺たちの事情をすべて話すわけにはいかないからだ。


「なるほど、昨日の夜そんなことが……」


 枕を胸に抱いていたクリスが、それを口元におしつけながらそう呟いた。


「間違いなく、妹ですね」


 と、いくらか顔が赤いままであったものの、いつもの調子に戻った聖女アン。


「妹は、髪を結うのが嫌いなんです。黒いドレスというのは、みたことないですけど……」

「聖女の今の格好とか、そういうところなんじゃないかしら?」

「なるほど……それにしてもマリスさん、島の最上部なんてよく見ることができましたね」

「え? あ、ああ。そうね」


 まさか、遠見の魔法を使ったとは言えまい。


「目がいいんですね。でも、部屋を抜け出して夜の散歩に出たら、危ないですよ?」

「気をつけるわ……」


 妙なところで、勘の鋭い聖女だった。

 いや、聖女だからこそかもしれないが。


「ちなみに、妹さんの戦闘能力は、どれくらいなんですか?」


 と、クリスが聖女に聞く。


「そうですね……得意な武器は――全部です!」

「全部」


 アリスがぽかんとした様子で、反芻した。


「もう少しその、具体的に。剣とか銃とかありますよね?」


 聖女が戦闘に関しては素人同然であることを知っているためだろう、クリスは生徒を指導する教師のように訊きなおす。


「ええと……剣も、銃も、槍も、弓も、いけますよ?」

「なんですって……」

「あと、私もよく名前がわからない武器もいくつか使いこなしていました。三本の棒が鎖に繋がれていたものとか、同じく鎖の先にとげの付いた鉄球がついているものとか、剣の刃が柄の前にも後にもあったりするものとか」

「なんですか、それ……」


 最初のは三節棍、二番目のはモーニングスターと呼ばれる武器だろう。

 三番目のは……三番目のは……なんだ?

 剣の柄の前後に刃があっても、使いづらいことこの上ないと思うのだが……。


「となると、遠距離からか……射撃武器の腕前は?」


 ()がそう訊くと、聖女アンは即座に、


「全力航行する快速船の上から弓矢で隣の船のマストにある扇を打ち落としたことがあります。あの古き女神の故事を再現したんですよ!」

「そ、それは……すごいわね」


 恐るべき腕前だった。

 あと、()はそんなことをしていないのだが。


「つまり、近づいても離れてもだめって事ですね――となると……」


 クリスが不自然な瞬きをする。

 あれは発光信号? ――なら。


「(アリス?)」

「(魔法でどーん! だそうです)」


 やはりそれしかないか。


「あの……あの……みなさん? なんか妹を倒す方法を模索していません?」

「模索もなにも、それが前提ですけど」


 不安げに訊く聖女アンの疑念を、クリスがばっさりと斬って捨てる。


「た、たおさないでくださーい!」

「むりです。交渉でどうにかなるなら、最初からこんなまだるっこしいやり方をしていません」


 まぁもっといえば、最初から入れ替わっているのを知っていたならこの方法すら採らず、聖女アンを旗印に雷光号を強襲形態に変形させて島の中央部に突撃、入れ替わっていることを証明させて終わっていたはずだ。


「あの……あの! 妹にあえたら絶対に説得しますから! だからいきなり倒そうとするのは……」

「マリスちゃん、クリスちゃん……アンさんのいうことも、もっともだと思うんですけど……」

「――まぁ、一回くらいならいいでしょう。マリスさん?」

「ええ、それでいいわ」


 多分失敗すると思うが、聖女アンが納得するならそれでいいだろう。


「どちらにしても、こちらから打って出るという手段が使えないのはつらいですね……」


 抱いている枕に再度頭を埋めながら、クリス。


「幸い向こうはこちらを察していない――と思う」

「もし気付いたらすぐに対処する可能性があると?」

「ええ、見た目だけの印象だけど」

「あながち間違っていないと思いますよ……? 妹は一度決めたら必ずやり遂げる性格ですから」

「なるほど……敢えて泳いでみせて、釣らせます?」


 クリスの提案は非常に魅力的だ。だが……。


「やめておきましょう。直接前に立つ機会を得た方が、(潰せる)確実性が高くなるから」

「それもそうですね」

「あの、あの! やっぱり倒すこと前提になっていません?」

「なっていませんよ」

「いないわ」

「ほんとうですね? ほんとうですね?」

「もちろんです。一回は説得してもいいって言ったじゃないですか」

「そうね。それに失敗したら即戦闘だけど」

「ぜ、ぜったいに成功させますから! だから一言だけしゃべったところで『はい失敗しましたー!』とかいってすぐに攻撃しないでくださいね!?」


 ――鋭い。

 ()は思わずクリスと顔を見合わせる。

 実はその案、割と本気で考えていたのだが。


「善処するわ」

「それ事実上の棚上げですよねっ!? 私、善処とか遺憾って言葉はそう何度も気軽に使うものじゃないと思うんですけどっ」


 そういえば、歌と踊りの他に政治にも才能が聖女アンにはあるのだった。


「でも不思議と良く聞くんですよね……」

「そうそう」

「クリスさんはともかくマリスさんも政治の経験があるんですかっ?」

「いえ、ないわ」


 そういうことになっている。

 もちろん魔王は為政者の側なので、俺はクリスよりずっと政治にどっぷりであったから、聖女アンの言っていることはよくわかるのであった。


「とにかく方針としては、現状を維持しつつ、聖女の妹が参加する第三期にたどりつくこと」

「そして聖女の前に立ったら、アンさんが説得ですね」


 俺の言葉を、アリスが引き継ぐ。


「そして説得に失敗したら——」

「遠距離からとにかく飽和攻撃。これしかないわ」


 クリスの言葉を、今度は俺が引き継いだ。


「絶対にそうならないよう……がんばって説得しなくちゃ!」


 聖女アンが、静かに闘志を燃やす。

 できればそうなってほしいものだが——さて、どうなることやら。



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