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第九話:ビビディ・バビディ・ブー

 その意匠と由来には大いに腹がたつが、とにかく現金という収入を得ることができた。

 次いで、情報料こそ取られたものの、必要なものを取り扱っている船団の位置も教えてもらった。

 俺達は商船とわかれ、その船団を目指すことにする。


「よし、これで——」

「魚釣りですね!」

「……なぜだ」


 できればあの名状しがたいものを再び見たくはないのだが。


「余裕はありますけど、わたしたちの食料確保も大事ですし。マリウスさんのなんかすごい力なら、元手ほとんどなしで釣れますし」


 どうやら俺の魔法はアリスにとって『なんかすごい力』として認識されているらしい。


「せっかく収入が入ったんだ、これで食料を——」

「それは貴重な野菜類に使いましょう。現状わたしたちでは収穫できませんから」

 言われてみればそうだが……収穫? この海ばかりの世界でも野菜を栽培することができるのか?

 その疑問を口にすると、アリスは少し困った様子で、

「たしかに土があるとすごくよく増やせるそうですけど、島なんて滅多にないですし、あってもわたしたちが出会った島みたいに何もないことが多いですから。野菜は大きな船で作るんです。えっと、たしか真水を使った——」

「水耕栽培?」

「そう、それです! マリウスさん、詳しいですね!」


 それはそうだろう。考案し、実行したのは俺なのだから。

 これにより、日照条件さえ良ければ室内でも野菜を栽培できるようになった。

 北の地で野菜が常に不足していた我が軍は一気に潤ったものだ。


「だが、野菜でなくてもだな」

「生魚や生肉を食べろと言われれば、食べますけど」


 くっ、さすがは料理人志望。栄養についても予習済みだったか。

 しかし生肉と生魚、あれはいけない。

 おそらく厳重な衛生管理のもとで、すぐにさばいたものを提供するのであれば大丈夫なのだろうが、俺が封印される前でもそれは完全に保障されるものではないという結論が出ていた。ましてや今はどこを見渡しても海といった状況では、衛生管理が向上しているとは思えない。

 名状しがたき魚どもを釣るのと、アリスの衛生管理、どちらかを取るというのなら——。


「わかった。釣ろう……」


 しぶしぶ、俺は了承した。


「ありがとうございます! では、早速!」


 あまり乗り気ではないが、疑似餌をいくつか作り出し海に放出する。

 待つことしばし……。


「——かかったぞ」


 反応があったので、早速爆発させる。


「早いですね」

「本当にな」


 浮かんで来たのは——。


「エビ?」

「ショウグンエビですね! すごい、二回連続で高級品です!」


 そして二回連続で名状し難かった。

 例によって、魔族の成人より一回り大きい。

 ハサミだけで、魔族の前腕くらいの大きさがあり、鎧ごと両断できそうな禍々しさを備えている。

 そして、頭部から槍の穂先のような角が突き出ていた。

 本物の槍のように引き抜く際に傷を広げるかえしがついているのは、なにかの冗談だろうか?


「このエビ、人を襲わないか?」

「襲う時もありますね。屈強な兵士でも勝てないのでショウグンエビと名付けられたそうです」


 たしか、遠洋を泳ぐ魚は自然と大きいものになると聞いたことがある。

 現在陸地が極端に少なくなっていることを考えると、大きな魚だらけというのも頷けなくもないが……。

 それにしたって、限度があろう。

 目的としてはずっと後のことになるだろうが、この海のことをもっと調べる必要がありそうだった。

 さて、このエビだが……。


「魚と同じように干せるのか?」

「いえ、干すと硬くなるので、焼きながら平たく潰します。適度に水分を飛ばすと、高級な携帯食料になるんですよ」

「ほう……」

「もちろんそのまま食べても美味しいんですけどね。煮てよし、焼いてよしです。あと、殻を火で炙ってからスープにすると、良い出汁が出るんですよ!」


 食事をする必要はないが、それは楽しみだった。


「では、回収するか……二五九六番、やってくれ」

『あいよ。念のため、先っぽの網がはずれないかみてくれよ』

「ああ」


 前回の魚もそうであったが、二五九六番には起重機(作者註:クレーンのこと)を追加装備してある。

 これがなかなか便利で、交易時に重量物の運搬に便利だと相手の商人が絶賛するほどだった。

 二五九六番自身も、


『まるでオイラに腕が生えたみたいだ!』


 と、喜んでいる。

 かつての機動甲冑にはちゃんと腕があったのだが、それは言わぬが花というものだろう。


「これで当面の食料と商品は確保——か」


 二五九六番を改造した時は、もっと手っ取り早く、本来の意味での『海賊』をやるつもりだったのだが、いつのまにか商船のようになっている。

 もっとも、その武装はただの商船にしては過剰なままであったが。


「あとはお野菜と果物ですよね」


 釣りたての魚をそのまま食べるという手もありますけど。と、空恐ろしいことを言うアリス。


「それ以外はどうしますか? 二五九六番ちゃんの装備とかですか?」

『えっ。オイラ、いつのまにかちゃん付け!?』


 衝撃をうけている船のことはさておいて、俺はアリスをみる。

 ——片方の袖がとれた上着。

 ——斬られでもしたのか深く裂け、裾を結ぶことで誤魔化したスカート。

 ——ありとあらゆるもので修復したため原形をとどめていないサンダル。


「服だな」


 自然と、その言葉が出てきた。


「あ、そうですよね。マリウスさんのその服、威圧感がありますし」

「俺の服はどうでもいい。それよりもアリス、貴様の服だ」

「……えっ?」


 なぜそこで不思議そうな顔をする。


「でもわたし、ただついていっているだけですし」

「本気で言っているのだとしたら、謙遜が過ぎるぞ」


 交易の件、それにその前後のやりとりで、アリスは十分な功績を挙げている。


「でもでも——」

「そこを動くな」

「へっ!?」


 言われたとおり静止したアリスに、俺は編み上げた魔力をかける。

 ——生地の色と同じ袖。

 ——スカートの裂けた部分を隠すエプロン。

 ——できるだけ統一感をだすように装飾したサンダル。


「魔りょ——お前の言うなんかすごい力で作ったものだから数日しかもたないが、その間に船団に着くはずだ。そうしたら服を買いに行くといい」

「そんな、わざわざ」

「これで、人前に出られるだろう?」


 交易のとき俺にその妙を叩き込んだ割には、アリスは決して表に出ようとしなかった。

 当然だ。そういう格好であれば足下を見られるからだ。

 下手をすれば、俺の奴隷と勘違いされていただろう。

 だから、その誤解が無いように。

 自分の意思で、自分の服を選べるように。

 かつて、俺が人間どもの横暴から立ち上がったように。

 自由とはそういうものだ。


「ありがとうございます。マリウスさん」


 アリスが、深く頭を下げた。


「泣くなよ。それはつれていくときのだけで十分だ」

「はいっ!」


 頭を下げたまま、アリスは手の甲で顔をぬぐう。


「あのっ、服なんですけど」

「なんだ?」

「よかったら、一緒に行ってくれませんか。どういう服が似合うか、みてほしいんです」


 ふ。

 ふは。


「——好きにしろ」


 この魔王に服をみて欲しいとは。

 封印される前であったら、誰もが驚愕の表情を浮かべたに違いない。

 だが、だがだ。

 その申し出は、どこか心地よかった。

■今回のNGシーン


「たしかに土があるとすごくよく増やせるそうですけど、島なんて滅多にないですし、あってもわたしたちが出会った島みたいに何もないことが多いですから。野菜は大きな船で作るんです。えっと、たしか真水を使った——」

「水耕栽培?」

「そう、それです! マリウスさん、詳しいですね!」


 それはそうだろう。考案し、実行したのは——


「荒野の暴君、イモー◯ン・ジョー!」

「い、イ◯ータン・ジョー!?」

「V8を讃えよ!」

「ぶ、V8を讃えよ!?」

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