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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第五章:聖女灰かぶり伝説

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第八十七話:這い寄る光

「さて……これからどうしましょうか」


 第一期の選抜試験に合格し、新たに割り振られた新しい部屋の中で、クリスはそう呟いた。

 以前はふたつずつ共用だった勉強机、本棚、そして箪笥がひとりずつ支給されるようになり、部屋全体が少し広くなっている。

 また、ベッド間に設けられた自主練用の空間はかなり使いやすくなっていて俺たちはそこに円を描いて座っていた。


「今までの方針としては、灰かぶり(シンデレラ)杯については完全無視。聖女に会って『海賊狩り』承認の院をもらうという用件を済ませたら、さっさと立ち去る……それが当初の目標だったけど——」


 と、()


「どうも様子がおかしい。本気で調査しようかと思うんだけど、どう?」

「私もそれに、賛成します」


 クリス、ひとつ頷いてそういう。


「船団の運営として、なにかが変なんですよ。風邪をこじらせているだけならいいんですけど、それが流行病で他の船団――つまり、私の『シトラス』や、アステルさんの『ウィスタリア』にまで影響が及んでは困りますので」


 なるほど、風邪と伝染病か。言い得て妙なたとえだった。


「——他船団への影響か……それだけは、避けないと」


 でないと、俺は活動する基盤を喪うことになるわけだ。


「それでは、今日はお休みを利用して内情調査と言うことでよろしいですか?」


 クリスの確認に、()もアリスも頷いて答える。


「街中の調査は()が。アリスとクリスは図書館を頼む」

「いえ、マリスさんはアリスさんと一緒に図書館をお願いします。街中は私が」

「でも……」

「戦闘能力で言うのならマリスさんの言うとおりです。ですが、女性としての言動が少し心配ですので」

「うっ……!」


 それはまぁ、否定できない。

 というか、否定してしまったら俺の大切ななにかがひとつ、喪われてしまうような気がする。


「そういうわけでアリスさん、よろしくお願いします!」

「はい! がんばります!」


 そういうわけで、街の中をクリス、()とアリスが図書館の情報を探ることとなった。



 ■ ■ ■



「やっぱり、街中の調査をするべきだった……!」


 山と積まれた歴史書を前にして、両手で顔を覆いながら()はそう呻いた。

 図書館の閲覧室。周辺には俺たち以外にも学生や、()たちと同じ候補者と思しき若い女性が勉強をしている。

 その中で()たちはこの船団の歴史にあたっていたのだが——。


「この島って、古き神の居城だってことになっているんですね」


 一緒に歴史書にあたり、その内容をまとめたアリスが興味深げに資料の頁をめくる。


「いうまでもないけど、ここじゃないわよ」


 魔王城はここから遙か北の小島——そう、俺とアリスがであったあの小島にある。


「ですよね……なんで、この島って事になっているんでしょう?」

「おおかた、権威付けだと思うけど……」


 ただ、島のほぼ全域を建造物が覆っているとなると、確証が持てない。

 そのためにも、もっと島の事を調べなければならないのだが……。


「こっちの資料だと、天の使いに挑まれて、三日三晩の歌合戦をしたけれど決着がつかなったそうです」

「あの忌々しいアレがそんなふんわりとした戦い方をするわけないでしょう……!」


 まだクリスの船団にあった伝説の方が、的を射ていた。

 他にも、市井の様子を肌で感じるために女中に変装してみたり、とある貴族の令嬢という設定で諸国漫遊の旅に出たり、司法を学ぶために裁判に乱入したりと、かなりとんでもない資料が目白押しで……()の心が辛かった。


「ねぇ、アリス」

「あ、はい」

「歴史はもう、これくらいにしない?」

「でも、島の歴史と古い神の情報がごっちゃになっているんですよ。この状態だとどうしてもそのふたつを切り離せなくて——」

「そうよね……」


 再び資料の山を前に、突っ伏す()であった。

 ……?

 ——!


「アリス」

「はい?」

「この前、街を歩いていたら新しい喫茶店を見つけたんだけど」


 アリスを見上げ、閲覧室の机をトントンと指でつつきながら、俺。


「……いいですね。クリスちゃんも誘って、みんなで行きましょうか?」


 俺に倣って、机をトントンとつつき、アリスがそう答える。


 ——勘が良ければ、気付く者もいるだろうか。

 俺とアリスはたわいのない会話をしている裏で、机を叩く音を発光信号に置き換えて会話していた。


「そういえば、この前の課題曲の振り付け、もう覚えた?」(後方やや左。本棚に人影。監視か?)

「わたし、まだ覚えきれていないところがあって……今度一緒に練習しませんか?」(把握。大人の女性みたいです。こちらをじっと見ていますね)

「そうね。一緒の方が息も合わせやすいし」(了解。回り込んで確保する)

「それじゃ、資料まとめますね」(わかりました。お気を付けて)

「じゃあ、ちょっとお手洗いに行ってくるわ」


 そう言って、俺は席を立ち——。

 静音と加速の魔法をかけて、監視者の潜んでいる本棚のさらに一列奥から回り込み、背後を突く。


「——ひゃっ!?」

「動かないで。大声を上げたらその場で麻痺させるわよ」


 相手の首根っこを掴んで、俺。

 実際、ここで監視者が変なまねをしたら、容赦なく雷の魔法を叩き込んで失神させてから捕らえるところであったのだが——。


「ま、ままま待ってください! 『連奏トライアルフリート』のマリスさんですよね!?」


 即座に両手を上にあげて、監視者はそう言った。

 封印される前でも、ここまで早い降伏は、はじめてのことだ。


「——? そうだけど……」

「マリスちゃん!」


 そこへ、足音を殺してアリスがこちらに駆け寄ってくる。


「貴方は、『連奏トライアルフリート』のアリスさんですね!?」

「は、はぁ……」

「あの、あの、つきまといみたいな真似してすみません! おふたりに……いえ、正確には『連奏トライアルフリート』の皆さんと、どうしてもお話ししたいことがありまして!」


 たどたどしく、それでいて早口で話すのは、アリスの見立て通り大人の女性だった。

 年の頃は、人間で言うところの二十代前半だろうか。

 今の俺が言うのもなんだが、飾り気のない質素な格好をしていて、それなりにある長い髪をうなじあたりでひとまとめにしてある。


「……どちら様ですか?」


 警戒を緩めず——流石に掴むのはやめたが、その首筋に手を添えながら、俺。


「そ、そうですよね! 自己紹介がまだで済みません」


 そう言って、監視者はこちらに向き直った。


「私、アン・ブロシアと申します。ここの船団『ジェネロウス』の、聖女です。いえ、聖女——でした」


 ……はい?

 俺とアリスは、顔を見合わせる。

 方針転換前の最終目標、聖女が……。

 なぜかいま、目の前にいた。

■今日のNGシーン


「——ひゃっ!?」

「動かないで。大声を上げたらその場で麻痺させるわよ」


相手の首根っこを掴んで、俺。

実際、ここで監視者が変なまねをしたら、容赦なく雷の魔法を叩き込んで捕らえるところであったのだが——。


「た、たべないでくださーい!」」

「たべないよっ!」

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