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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第四章:提督令嬢、颯爽登場!

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第七十七話:翔べ! 雷光号

『どうした大将? 王様とやらが嬢ちゃんの尻でも触って思わず殴っちまった?』

「そんなことするか!」


 雷光号(らいこうごう)の操縦室に飛び込みながら、俺は二重の意味で叫んだ。

 仮にそういうことをする輩が現れたら逃げる前に黒焦げにしているし、あの王は絶対的な王権こそないものの、王たる資質を備えているからだ。


「緊急事態だ。出航、できるな?」

『ああ、いつでもいけるぜ!』


 そこへ、甲板からアステルが身を乗り出す。


「もういけるんですの……? 本当に、機関の立ち上がりが早いですわね!」


 高速戦艦ステラローズも用意してあるそうだが、いまだ出航状態には至っていないらしい。


「マリウス大佐、医務局の局員を四名搭乗させてください」

「許可する。二――ニーゴ、後部船室の家具を収納してくれ。しかるのち医務局員を収容!」

『あいよ!』

「アステルは?」

「わたくしはこちらに残ってリカル侯爵と受け入れの準備を進めますわ」

「では、先導は私がします!」


 ドレス姿のまま制帽だけを被って提督席に飛び乗ったクリスが、そう宣言した。


「了解した。ニーゴ、以降はクリスの指示に従え!」

『おうよ! あと、医務局ってところの姉ちゃんたちを収容したぜ!』

「ではわたくしはこれで。皆様――ご武運を!」


 アステルが敬礼した。

 俺たちも、敬礼を返す。


「よし――雷光号、出航!」


 それぞれのやるべき事を明確化させて、雷光号は中枢船の港から出港した。


「アリス、中枢船からの発光信号を見逃すな!」

「了解です!」


 クリスと同じドレス姿のまま通信士席に座ったアリスが、そう答える。


「クリス、後の指示はまかせた!」

「任されました。ニーゴさん、早速ですがそのまま西に進んでください!」

『おう!』

「まもなく一時の方向から交易船が通ります! その後ろをすり抜けるように交差してください」

『ほいきた!』

「増速です! でないと三秒後に別の交易船が通ります」

『あいよ!』


 次々と指示を飛ばすクリスに対し、二五九六番も的確に応えている。

 そのおかげで、雷光号は一切減速することなく船団の中を高速航行することができた。


「すごい。頭の中にほかの船の動きが入っているんですね!」

「ああ……」


 これが、司令官としての技能なのだろうか。

 だが、自分が所属している船団ならいざしらず他の船団の運行情報まで覚えるとは――。

 さすがはクリスというべきなのだろう。


「そろそろですね。アリスさん、前方広範囲に発光信号!『こちら救急船雷光号。貴殿の位置を知らせ』」

「了解です! ――反応ありました! 手前から三番目、中型の船です!」

「ニーゴさん!」

『返事の発光信号ならこっちでも見えたぜ! そこに横付けな!』

「お願いします! 医務局の皆さんは甲板へ! 妊婦さんの受け入れ用意を!」

「手伝ってくる」


 指揮をクリスに任せて、俺は医務局員と一緒に先方の船から担架に乗せられた妊婦を船室内に運び込む。

 家具を一時的に収容した船室内の居室部分は、担架を固定できるようにしてあるのだ。

 さらには応急処置用の医療器具も運び込んでもらい、俺は船室の扉を閉めた。

 作業をしながら、妊婦の顔を横目で見る。応急処置などはともかく、医術に関しては全く造形のない俺であるが、その顔が蒼白になっていることから、事は一刻を争うのだということは理解できた。


「担架、固定しました!」

「了解した。雷光号、出航!」

『おう!』


 加速がかかる中、俺とひとりの医務局員は、船室から操縦室へと移動する。


「妊婦さんの状況を教えてください」


 クリスが、重い口調でそう訊く。


「破水が発生してしまいました。しかも……逆子なんです」


 アリスが悲鳴に近い調子で息を飲んだ。

 俺自身、どちらも聞いたことがある。

 そして、どちらかだけでも発生すると深刻な事態を引き起こすことも。


「――アリスさん、中枢船に発光信号。『航行に関するすべての制限を外したい。裁可願う』」

「返事来ました!『ぞんぶんにおやりなさい!』」

「マリウス艦長!」

「了解した! 雷光号、機関全開!」

『任せな!』


 雷光号が加速する。

 初速はゆっくりと、徐々に高速に移っていくのは、二五九六番の気遣いだろう。


「周辺の船が中枢船までの航路を開けてくれました!」


 アリスが嬉しそうにそう報告した。

 事実、周辺の船が潮が引いていくように道を――いや、航路を開けてくれる。


「医務局は中枢船上層でしたね。船室の局員に担架を運び出す用意を――」


 クリスが言い終わるよりも早く、


「大変です! これ以上は時間が……運び込む時間がありません!」


 報告にしてくれた局員とは別の局員が、操縦室に飛び込んできた。


「ここまできて……!」


 うめき声に近い声を上げて最初の局員がつぶやき、報告してきた局員と共に船室にとって返す。


「雷光号、強襲形態!」


 間髪入れずに、俺は叫んだ。


『おうっ!』


 何度かやってコツをつかんだのだろう、雷光号が、一瞬のうちに変形する。


「クリス! 医務局に一番近いテラスはどこだ!」

「え、ええと……」


 そこまで把握していなかったのだろう、クリスが言葉に詰まる。

 だが――、


「アステルさんに発光信号送りました! こちらからみて最上部からいつつめ、正面やや左だそうです!」


 そこを、アリスが助けた。

 クリスが正確な位置を知らないと判断するや、発光信号をアステルに送っていたのだ。


「二五九六番! 最上部からいつつめ、正面やや左!」

『上から五個目の正面やや左! 妊婦さんを甲板に出してくれ! ()()()()()()()

「わかった!」

「手伝います!」

「私も!」


 俺に続いて、アリス、クリスも船室へと駆け込む。

 船室では、二五九六番の指示を聞いていた局員が、担架を運び出す準備を進めていた。

 医療班と共に、三人で担架を外に運び出す。

 肩部分になっている甲板に出てみると、変形した雷光号が掌を甲板と平行になるように添えていた。


「乗せたぞ! やれ!」

『ほいきたぁ!』


 雷光号が文字通り手をさしのべる。

 掌の上の担架に負荷がかからない絶妙な速さで、雷光号は文字通り手伝いに担架を直接医務局に送り届けたのであった。


「また、大胆な手を考えましたわね!」


 中枢船側で待っていたアステルが、そう叫ぶ。


「俺だけじゃない、皆で考えた結果だ」

「そうですの……それはそれで、素晴らしいことですわ」


 その間にも担架が医務局員により慌ただしく運び込まれていき……俺たちは雷光号の掌の上でひといきついたのであった。


「そちらに行っても?」

「ああ、かまわない」

『んじゃ、甲板に戻すぜ?』


 アステルが飛び乗っていることを確認してから、雷光号がゆっくりと掌を動かし、俺たちは肩の甲板沿いに操縦室へと戻ることができた。


「あとは……」

「待つだけ――」

「――ですね」


 俺の言葉の後を、アリスとクリスが引き継ぎ、アステルが黙って頷く。


『んじゃま、ここで待ってようぜ』


 その巨体で無駄に腕組みして、二五九六番がそう頷く。

 やがて――。


「生まれました! 母子共に無事です!」


 雷光号がその手を添えたテラスから身を乗り出して、医務局員がそう叫んだ。


『よっしゃあ!』


 二五九六番が、強襲形態のまま雄叫びを上げる。

 それは、普段であれば迷惑であったのだろうが……。


「マリウスさん、中枢船をはじめ、周辺の船が一斉にお祝いの発光信号や、紙吹雪をとばしています! 二五九六番ちゃんがあのままではしゃいだので、結果がすぐにわかったみたいですよ!」


 アリスが、嬉しそうに報告した。


「怪我の功名、ですね」


 そういう割には嬉しそうに頬を緩めて、クリスがそう言う。


「これだけ大騒ぎしたんですもの。それくらいしたって文句はいいませんわ」


 強襲形態のまま大はしゃぎし――それ相応に揺れる船内で、アステルがそう締めくくる。


「まぁ、たまにはいいだろう……な」


 操縦席に深く身を沈めて、俺はそう呟いた。

 かつて人間の社会を崩壊させようとしたこの魔王たる俺が、名前も知らぬ人間を助けるとは――。

 魔王軍将兵六万余名はおろか、先代魔王ですら思わなかったに違いない。

 いや、先代ならあるいは……そんな詮無きことをことを考えながら、俺は肩の力を抜いたのであった。


■今日の幕間

『オイラ大地に立つ!』

「大地無いけどな」

「それ以上はやめましょう」

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