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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第四章:提督令嬢、颯爽登場!

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第七十六話:舞踏会と緊急事態

 好評を得たアリスとの舞踏の後は、クリスと組むことになった。


「よろしくお願いします、マリウス艦長」

「ああ、こちらこそ」


 慣れているのだろうか。

 背丈の差があるのにもかかわらず、クリスはアリスの時と変わらない滑らかで、一歩を踏み出したのであった。


「先ほどと同じ速さでは飽きられてしまいますから、少し歩調を速くしましょうか」


 二曲目の曲調が一曲目よりやや速めなのを感じ取って、クリスがそう提案する。


「あぁ」

「では――」


 曲調に合わせて、クリスがこちらを誘導してくれる。

 それでいて基本は俺が習得した古式なもののままなので、俺はただクリスに着いていくだけでよかった。


「驚いたな……」


 その技量に、思わず感嘆する。

 するとクリスはわずかに微笑んで、


「元々、舞踏は得意なんですよ」

「そうだとしても、俺のとはだいぶ形式が違うのだろう? よく併せられるな」

「それは……マリウス艦長とアリスさんとの舞踏を、ずっとみていましたから」


 一緒に踊るのははじめてだというのに、クリスはなんということもないかのようにそういう。


「見ただけで、覚えたというのか?」

「そうですよ。最初の頃、私の勉強方法といえば本とそれしかありませんでしたから」

「そうなのか……」


 それは、クリスが護衛艦隊の司令官を引き継がざるを得ないときの頃だろう。

 そしてその原因の一端は、和解したとはいえ今いる船団にもある。

 少しだけ、居心地の悪い話だった。


「ところでそのドレス、よく似合っているな」


 あからさまな話題そらしになってしまったが、クリスはそれを察したのか笑顔のまま頷き、


「マリウス艦長も、その正装似合っていますよ」

「そうか……?」

「自己評価が低いですね……魔王だった頃、配下の方にそう言われたことはありませんか?」

「言われたな――そういえば」

「やはりそうでしたか」


 そこで笑い合ったところで、二曲目が終了した。


「お疲れ様です、マリウスさん、クリスちゃん。すごく上手でしたよ」


 緊張していたのだろう。アステルが用意してくれた椅子に座って休憩していたアリスが、駆け寄ってくる。

 そしてその後をゆっくりと近づいてくるのは……。


「見事であった。クリスタイン公」

「お褒めにあずかり、恐縮です。陛下」


 ドレスのスカートをちょこんと摘まんで、クリスが優雅に一礼する。


(きょう)が乗ってきた。久々に、踊るか」


 ミニス王の視線が、アリス、次いでクリスに向かう。


「でしたら、僭越(せんえつ)ながらわたくしが――」


 機先を制して、アステルが進み出た。


「で、あるな。それが一番波風立つまい」


 その意図を読んだかのように、ミニス王はひとつ頷く。


「では――」

「うむ」


 ミニス王の腕を、アステルが取ったときであった。


「失礼いたします! キシ・リカル候閣下、ならびにアステル・ステラローズ公女殿下にご注進!」


 俺たちも入ってきた入り口から、一組の男女が急ぎ足で入ってきた。

 清潔な白一色の制服に身を包んだそのふたりはミニス王に一礼すると、居並ぶ来賓の中から目的の人物を見つけたらしく、足早なまま歩み寄っている。


「陛下、少し失礼いたします」

「かまわぬ」


 ミニス王の許可をとって、呼ばれたアステルもその人の輪に向かっていく。

 なにが、起こったのだろうか。


「(クリス?)」

「(あれは医務局の人員ですね。リカル侯は医務局を統括する立場の貴族なんです)」


 小声で、クリスがそっと教えてくれた。


「(なるほど……察するに、急患か?)」

「(統括とはいえ現場には手を出さない方だと聞いていましたが……それにアステルさんにも用事があるのが不思議です)」

「(たしかにな)」


 医療の筆頭と防衛の筆頭に急を要する病状というものがいまいち想像できない。


「なんですって――!?」


 そこで、アステルが慌てた声を上げた。

 が、すぐさま冷静さを取り戻し声を抑える。


「――それは――」

「――いまから機関を――」

「――まにあわ――」


 あとは断片的に、そんな言葉があがってくるが、不明瞭であった。


「マリウスさん」


 予感じみたものを得たのだろう。アリスが、神妙な顔で俺の袖を引く。


「……ああ。念のため、準備しておくか」


 魔力を介して、二五九六番に連絡を取る俺。

 というのも、アステルが一瞬、助けを求めるようにこちらを見たからだ。

 そして、その予感は当たったらしい。

 話がまとまったかのように、最初の男女、リカル侯爵、そしてアステルがこちらに歩み寄ってきたからだ。


「マリウス大佐」

「どうした」

「お願いがあります。雷光号(らいこうごう)はわたくしの『ステラローズ』より俊足でありました。その俊敏性を、お貸し願えますか?」

「かまわないが、訳を聞かせてもらえるか?」

「――難産です。船団の端、下級貴族の船で」

「それは――」


 一刻を争う事態だった。


「中枢船の医療施設でないと対応できないのです」


 アステルの隣で、妙齢の女性が頭を垂れた。彼女が医療を司るキシ・リカル侯爵なのだという。


「ならまずは――」


 いとまを得る許可を得ねばなるまい。

 俺は――。


「ゆけ」


 その場にいた誰もが、ミニス王を見た。


「陛下!」

「ゆけ。臣民の危機は船団の危機である。舞踏会を中座するに十分たる理由であろう。そなたらになせることを、なすがよい。それでよいな? (だい)ステラローズ」


 と、隣にいる政治の筆頭――実質的な船団の筆頭――に振り返り、ミニス王は問う。


「もちろんでございます。陛下」

「よし、ではゆくがよい。マリウス卿」

「はっ! では、これにて」

「うむ。吉報を待つ」


 一刻を争う事態にすばやく裁可を下すその姿は、実権はないというものの、王としてふさわしい態度であった。

 ミニス王に一礼し、俺たちは駆け出す。

 目の前に迫るは、今までに無い困難ごとであった。

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