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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第四章:提督令嬢、颯爽登場!

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第七十四話:そして、お姫様のように

「そういうわけで、ドレスをお持ちしましたわ!」


 大きく胸を張って、アステルはそう宣言した。

 船室の大きな机の上には持ち込まれた同じくらいに巨大な箱があり、薄紙に包まれたドレスが数着、収まっている。

 それをアリスが大きく身を乗り出して見つめ、その横からクリスが小さく身を乗り出して様子を見ていた。


「早速試着してみようと思うのですけれど、いかがかしら?」

「それはもう、是非!」


 と、大きく頷いてアリス。


「まぁ、当日着用して、寸法が合わなかったりしたら、困りますからね。あと露出度が高かったりしても困りますし――」


 こちらは至極まっとうな理由で、クリスも頷いた。


「ではマリウス大佐、試着係三名の乗船を希望いたします!」

「ああ、わかっ――三名だと!?」

「こうみえてもぎりぎりの人数ですのよ? 着付けの他に、化粧と髪を整える者が必要ですから」


 そんなにいるのか……。

 魔王として君臨し、夜会に出ていた頃はそういったものは配下のものが手配していたから、全く気付かなかった。


「な、なるほど……わかった。許可しよう」

「ありがとうございます。アセスル」

「呼んでまいります」


 アステルの影のように控えていたファム中佐が、音もなく身を翻す。

 そして間もなく――。


「お連れしました」


 全員が、女性士官だった。

 こういった役割を軍から抽出する場合、多くは兵、希に下士官が相場であったはずだから、かなり贅沢な人選に思えるが……。


「そうか――この中枢船には貴族か士官でないと入れないからか」

「ええ。でもおのおのの腕はこのわたくしが保証いたしますわ!」


 自分の胸に手を当ててそう宣言するアステルにあわせ、試着係の三名が一斉に一礼する。


「というわけで着付けですけれど――この前採寸した空き部屋では少し狭いですわね」

「ひとりずつ試着いいのでは? そうすれば取り違えもないでしょうし」

「それですわ!」


 クリスの指摘をうけて、アステルが大仰に頷く。

 どうも、アステル自身も楽しみなのか、多少高揚しているであった。


「では、まずは言い出しっぺのわたくしですわ! 行きますわよ!」


 アステルの号令一下、薄紙に包まれたままのドレスと試着係の三名とアステル本人が雷光号(らいこうごう)の空き部屋へ吸い込まれるように消える。


「アステルさんのドレス、どんなのでしょうね……!」


 夢見るように、うっとりとした表情でアリスがそういった。


「だいたい想像は付きますが」


 と、こちらは冷静なクリス。

 俺も、同意見である。


 そして――。


「おまたせいたしましたわ!」


 空き部屋の扉を華々しく開けて、アステルが文字通り飛び出てきた。


「真っ赤だ……」

「やはりそうなりましたか――」

「とっても、綺麗ですっ!」


 俺、クリス、そしてアリスが、思い思いに感想を述べる。

 アステルのドレスは、クリスの予想通り肩も背中もほぼ丸出しで、スカートの切れ込みのきわどかったが、不思議と品は悪くない。むしろ、よく似合っていた。


「結構きわどい気がするんですが……普段が普段だから、あまり気になりませんね……」

「そうだな」

「ドレスだけではありませんわよ!」


 アステルの言うとおり、雰囲気がいつもと違った。薄く化粧をしている上に、髪型も若干変わっていたのだ。

 普段は長い金髪をふたつに結っていて、今回もそのようにしているのだが、その先端が普段はまっすぐになっているのに対して、螺旋を描くようになっている。


「こうしてみると、本当にお姫様なんですね……!」

「アリスさん、それどういう意味ですの」

「どちらかというと、物語に出てくる女王っぽくないか?」

「それです!」

「わかります!」


 クリスとアリスが即座に同意する。


「まぁ。女王だなんて――気が早すぎますわよ! まだまだわたくしは政治の世界ではなく、司令官としての責務を果たしていく所存なのですから!」


 どうやら、当主として見られることが嬉しかったらしく、高笑いをしている。

 見習いたいくらいに前向きな姿勢のアステルであった。


「じゃあ、次は私ですね。よろしくお願いします」


 試着係に一礼して、クリスが空き部屋に入る。


「どんなドレスなんでしょう……」


 今度は夢見ると言うよりも、期待に胸を膨らませて、アリス。


「それは見てのお楽しみですわ!」

「そうか。アステルは一度見ているのだったな」

「ええ。ですが、ただドレスだけを見るのと、ドレスを着たクリスさんを見るのは大きく違いますから、わたくしも楽しみですの!」

「言われてみれば、その通りだ……」


 たとえばアステルの水着が洗濯物で干してあってもなんとも思わないが、それをアリスやクリスが着用していたら目のやり場に困るような者だろう。

 ……まて。なぜ俺は今、アリスとクリスをたとえにした。


「お待たせしました」


 そこへアステルの時より間を置かずに、クリスが空き部屋から出てきた。


「わあっ!」


 アリスが胸の前で手を組んで歓声を上げる。

 クリスのドレスは、アステルのそれとは対極に位置していた。

 真っ赤だったアステルのそれに対し、空色を基本に、所々に白を置いて清潔感を醸し出している。

 さらに露出度は限界まで抑えられており、肩などは透けた白い布で覆われていた。


「エプロンドレスを参考にいたしましたの。予想以上に似合っておりますわよ、クリスさん」

「ちょっと、子供っぽくないですか?」


 くるりと一回りして、クリスがそういう。

 その際長いスカートがふわりと膨らんだのが心の琴線に触れたらしく、アリスが無言で悶絶していた。


「逆に考えなさいな。今のうちにしか着られないと」

「それは、そうですけれど……」

「その考え方もあるな。それに、よく似合っているぞ。クリス」

「本当ですか!? それなら、嬉しいです……!」

「現金というか、単純というか……少し変わりましたわね、クリスさん」

「当然です。私、成長期ですから!」

「マリウス大佐以外、全員が成長期ですわよ」

「だとしても、私が一番伸びしろがありますから!」

「それは、否定できませんわね……」


 アステルは少しあきれていたが、自分の強みを見いだすというのは、いいことだと思う。


「それにしても、リボンまで合わせてくれたんですか」


 頭の後ろにつけてもらったリボンにそっと触れて、クリス。

 たしかに普段の濃い青のリボンではなく、ドレスの色に合わせて空色のリボンになっていた。


「ええ。こういうのは大事ですもの。あ、ただ宮中は武器のたぐいが御法度なので隠し針はなしですわよ」

「気付いていたんですか!」

「当然ですわ」


 どうやら、俺とアリスが実際に目にするまで気付かなかったクリスの隠し武器を、アステルは一目で看破していたらしい。


「――あのときのこと、思い出しちゃだめですよ。マリウスさん」

「お、思い出してはいないぞ……!」

「おねがいします。あれはさすがに思い出さなくていいので」

「……いったいなにをしたんですの、クリスさん」

「内緒です! さすがに」

「そうおっしゃられると、余計に気になりますけれど……」


 まさかクリスが自らの信頼を勝ち取るために俺とアリスの目の前で肌をさらしたとは、アステルの慧眼を持ってしても思うまい。


「では、最後にアリスさんですわね!」

「あ、はい。よろしくお願いします……」


 おずおずと、空き部屋に向かうアリス。

 だが、部屋に入る直前で立ち止まると、


「また、脱ぐんですね……」

「ドレスは服を脱がなければ着ることができませんわ」


 当然と言えば当然のことを、アステルがいう。


「水着でしたら服の裾からつっこんでどうにかできるんですけどね」

「クリスさん、それはそれで少々がさつでしてよ……?」

「と、とにかく頑張ります!」


 自分に言い聞かせるようにそう言って、アリスは空き部屋へと入っていった。


「……」

「……」

「……」


 三人、無言で待つ。


「マリウス大佐、楽しみではありませんの?」

「いや、そんなことはないが……」

「結構気にしているみたいですよ。意識して押さえ込んでいるみたいですが、時々視線が泳いでいますし」

「ですわね。呼吸も意図的に深くし、動揺を隠そうとしていらっしゃいますし」

「……さすがだな、ふたりとも」


 十二歳と十五歳とはいえ、司令官は司令官ということなのだろう。

 この打てば響くような雰囲気には憶えがある。

 そう、それはまるで、封印される前の魔王軍のようであった。

 あのときの幕閣は半分が戦死し、残りの半分は非戦闘民をつれて離脱したが、その後はどうなったか――。


「あの……おまたせしました」


 そんなことを考えていると、アリスがひょっこりと空き部屋から顔を出していた。


「おまちしておりましたわ!」

「私もです!」


 アステルとクリスが、同時に立ち上がる。


「さぁ、アリスさん、どうぞこちらに」

「え、でも……アステルさんやクリスちゃんみたいに似合っているかどうか――いざ着てみたら、急に自信が無くなってきて……」

「似合うようにって、アステルさんが見立て、試着係の皆さんが頑張ってくれたんですよ。みなさんの頑張りを否定するのは、アリスさんらしくないです」

「あ、そうですね……」


 クリスの説得が効いたらしい。アリスはそろそろと空き部屋から姿を現した。


 これは……。


「すごいですっ!」


 クリスの第一声が、すべてを表していると思う。

 アリスのドレスは、アステルの深紅、クリスの水色に合わせたかのような、ひまわり色だった。


「アリスさんのドレスは、胸とお腹にめりはりを設けるように致しました。そうしないと、胴が太めにみえてしまうでしょう? それは、いただけませんから」


 アステルの言うことにも一理ある。

 その解説通り、アリスのドレスはあえて編み上げ部分を強調することにより、アリス自身の胸の豊かさを強調していた。

 考えてみればこの三人の中でアリスは――。


「どこをみているんですか、どこを」


 見抜いているかのようなクリスの口調に、俺は思わず背筋を伸ばす。


「や、やっぱり変ですかっ?」

「……いや、まったく変ではない。むしろよく似合っているぞ」

「あ、ありがとうございます」

「アリスはどこか気に入ったところはなかったのか?」

「ええと、そうですね……ちょっと髪をふわふわにしてもらったところでしょうか……?」


 なるほど、確かにいつもより髪がふわりと広がっている。

 それを細身のカチューシャで留めているのだが、それがティアラのようにみえて――


「アリスさんの方が、よっぽどお姫様じゃないですか……」

「本当にそうだな」


 全力でクリスに同意する俺であった。


「もう……ふたりとも、おだてても何も出ませんよ?」

「出なくていい。舞踏会に同伴できるのならな」

「私もです」

「それじゃあ、三人でがんばりましょうねっ!」

「ああ」

「はいっ」


 三人で、頷きあう。


「なんというか、綺麗にまとまりましたけれど……」


 そんな俺達の様子を見て、アステルがぽつりと呟く。


「これは……クリスさんもアリスさんも、別の意味で苦労しそうですわね」


 ——まて、アステル。

 それは、どういう意味だ……?

■今日のNGシーン


「試着三銃士を連れてきましたわ!

「試着三銃士?」


「着付けの専門家、ノシ少尉」

「よろしくお願いします。タイツはお好きですか?」

「化粧の専門家、デガ少尉」

「おふたりとも、必要最低限のお化粧でよさそうですね」

「髪型の専門家、タギヤ中尉」

「もう三人ともペガサス流星拳メガ盛りカムチャッカ半島みたいな?」

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