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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第四章:提督令嬢、颯爽登場!

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第七十二話:魔王と踊れ。

「すっかり大人気になってしまいましたね……」

「まったくだな」

「ですね」


 雷光号(らいこうごう)の船内で、アリスと俺とクリスはためいきをついた。

 大人気とはほかならぬ雷光号のことだ。

 中枢船の側で変形をしたものだから、中枢船にいた貴族から見学の申し込みが相次いだのだ。

 元はといえば、俺がその影響を考えずに雷光号の変形を承認したためのことであるから、仕方のない話ではある。

 それにしてもまさか、雷光号が記念艦のような扱いを受けるようになるとは思ってもみなかった。


「大変ですわ!」


 そこへ、アステルが駆け込んでくる。


「どうしたんですか、アステルさん。今以上に大変なことなんて、そうそうないですよ」


 と、クリス。

 たしかにそうだが、模擬戦時に大型の海賊に割り込まれたときと風呂の一件以外で血相を変えることがなかったアステルが慌てているということは、相応のことが起きているのだろう。


「そうですわね、今以上に大変な事なんて、そうそうないでしょう」


 クリスの素っ気ない態度に、にっこり笑ってアステルが言う。


「陛下がクリスさん、アリスさん、そしてマリウス大佐を宮廷舞踏会にお招きしたいとのことです」

「な、なんですって!?」


 ……そう来たか。

 密かに頭を抱えて、俺は唸った。

 これは所謂、断れないお誘いというものだ。

 しかもその流れは、他でもない俺が原因なのだからもはやどうしようもない。


「わかった。招待を受けよう」

「ありがとうございます。正直言って、とても助かりますわ」


 心底ほっとした様子で、アステルは一礼した。


「ちょっとまってください。さすがに、夜会服(作者註:イブニングドレスのこと。アカデミーの授賞式でハリウッド女優が着ているアレ。以下ドレスと記載)は持ってきていませんよ?」

「わたしにいたっては持ってもいないです」


 クリスに続いて、アリスもそういう。


「というか、一応クリスの艦隊に所属しているわけだから制服でいいのではないか?」

「わたくしの家が舞踏会を主催するのであれば、それで良かったんですけれど……」


 俺の指摘に対し、アステルは悩ましげに答えてくれた。


「陛下が主催する場合、あらゆる勢力の介入を禁止されておりますの。つまり、身分をあらわすものを着用することは禁じられておりますわ」

「それって、矛盾していないか?」

「矛盾はしておりませんわ。そこにいることに資格を求められた上で、干渉することを禁じているだけですもの。まぁその……外からは理不尽に見えることは否定致しませんが」


 複雑そうに視線を泳がせて、アステルはそう答えた。

 その表情で、俺はだいたいを察する。

 おそらくその複雑な規則を作ったのは、アステルの先祖なのだろう。


「まぁ『船団に入りては船団に従え』だったな。わかった」

「そういっていただけると、(かさ)(がさ)ね助かりますわ……さて!」


 顔を上げて、アステルは宣言する。


「では採寸ですわね。アセスル!」

「お任せください。ではまずは、マリウス大佐」

「ああ」

「そのまま、動かないで下さい」

「!?」


 一瞬だった。巻き尺を構えたファム中佐の姿がかき消えたかと思うと、次の瞬間には背後に立っている。


「採寸が終わりました。ステラローズ公女殿下」

「ご苦労様、次が問題ですわね……」

「そうですね——クリスタイン元帥、ユーグレミア少尉、どうぞこちらへ」

「えっえっ!?」

「わかっています。採寸ですからね、空き部屋でも使わないと無理です」

「え、それって——」


 事情を知っているクリスに何かを訊こうとしたアリスが他の女性陣と共に、空き部屋へと入っていった。


『それでは、お召し物をすべて脱いで下さい』

『ええっ!? あ、あの、そういうのって服の上からでいいんじゃ!?』

『なにいってるんですかアリスさん、それじゃ正確な寸法がわかりませんよ?』

『クリスさんの言うとおりですわ。さぁ!』

『すぐに済みますので、どうか』

『え、えええ〜!』


 ——なるほど、女性の場合ドレスはかなり身体の線に合わせなければいけないと聞いたことがある。

 つまりアリスとクリスも……そこまでしなければならないのだろう。

 幸いにして、ファム中佐の採寸は俺との時と同じくかなりの速さで計ってくれたらしく、それからたいして間も置かずに、アリスとクリスは空き部屋から出てきたのであった。


「うう……なんか最近わたし人前で服を脱ぐ機会が増えたような……」

「安心して下さいアリスさん。私もです」

「マリウスさんだけならいいんですけど……」

「安心して下さいアリスさん。私もです」


 いや、それはちょっとまってほしい。

 俺だけならいいとは、どういう意味だろうか。


「マリウス大佐が夜になにをしているのかは存じ上げませんが、おふたりともほどほどにされた方が良いですわよ? 特にクリスさんはまだ身体ができていないでしょう?」

「あいにくマリウス艦長はそういうことをしませんのでご心配なく」

「そうですの……それならいいですわ」

「むしろなにもされないのが心配と言えば心配なんですね」

「たしかに、それはそれで甲斐性がありませんわね」


 いや、俺にどうしろというのだ!?


「まぁ冗談はこれくらいにして、これより被服部に皆さんの採寸情報をおくりますわ。なるべく早く夜会服をお届け致しますので、しばらくお待ち下さいませ。では!」


 そう言って、ファム中佐を伴いアステルは足早に去っていった。


「慌ただしいな……」

「ああみえて、結構忙しい人ですからね。護衛艦隊だけを司る私と違って、片足を政治にも突っ込んでいますし」


 どことなく尊敬の音色を声にからめて、クリスがそう言う。


「……政治は彼女の父親の領域では?」

「アステルさんのお父さんはご高齢ですから。今のうちに引き継ぎを進めておきたいのでしょう」

「それは——大変だな」

「ええ、本当に大変だと思います。大変と言えば、こちらも大変ですけど」

「というと?」

「宮廷舞踏会ですよ? マリウス大佐はダンスの方は大丈夫なんですか?」

「まぁ、それなりにな。これでも魔王だから、その手のものは一通り学んでいる」

「そういえば、そうでしたね。と、すると——」

「はい……」


 手を上げて、アリスが暗い声を上げた。


「わたし、その手の経験がまったくありません……」

「それほど難しいものでもないぞ」


 そう言って、俺はアリスの手を取り、もう片方の手でそっと背中に手を回す。


「わっわっ!?」

「クリス、今から少し動いてみるから、おかしなところがあったら指摘してくれ」

「わかりました」

「アリス、最初は俺を見なくていい。まずは足下をみて、俺の足の動きを見ろ。そしてそれに合わせて自分が無理な姿勢にならないように足を動かすんだ」

「わ、わかりました!」

「では、ゆっくり動くぞ……」

「はい。はじめてなので、よろしくおねがいします……」


 かちかちになっているアリスを、そっと誘導する。

 最初は本当に、ゆっくり——そして少しずつ速度を上げていく。


「あっ! ごめんなさい!」

「大丈夫だ。きにするな」


 アリスが俺の足を踏んでいた。

 だがこれは覚えたてのときによくやってしまうことだ。

 場数を踏めば、自然とそういうのは無くなっていく。


「いいぞ、やはり覚えるのが早いな。アリス」

「あ、ありがとうございます」


 クリスが見守る中、俺とアリスは船室の中で小さな輪を描いて踊る。

 それはなかなか、楽しいものであった。


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