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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第一章:はじまりの小島

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第七話:ふたつの顔をもつ男

「相手の位置は」

『丁度真ん前。目視はお互いまだじゃねぇかな』


 アリスを伴い甲板から操縦室に降りる。


「わかった。速度そのまま。それと武装の準備。いつでも使えるようにしておけ」

『あいよ!』


 船のあちらこちらで重低音が響く。元は機動甲冑であった各種武装が、待機状態から戦闘状態に移行しているのだろう。


「あの……相手が、人を襲う船だったりした場合は、こちらから攻撃するんですよね」


 と、アリスは言った。


「ああ、そうだ。もしや、反対か?」

「いいえ」


 俺の懸念に対し、はっきりとアリスは否定した。


「そういうのは、ない方がいいとわたしは思っています。たとえ、そのおかげでマリウスさんと出会えたということがあったとしても」


 そして俺にとっては、封印を解いてくれた恩もある。おそらく、偶然解けたのであろうが、それも含めると天文学的な確率であったのは間違いない。


「そっちはわたし、心配していないんです。マリウスさん、海賊と戦えるくらい強いですし」


 実はそれも詭道——だまし討ちに近い。機動甲冑を設計から行い、いちから作り出したからこそ弱点を知っていたため、そこを突いたわけだが、仮に知らなかった場合はもっと苦戦していただろう。

 が、そこを話すと長くなるため、今は黙っておく。

 どうも、アリスの話しぶりからして、戦う戦わないの話ではないらしい。


「問題は、普通の船だった場合なんですけど」

「やはりあの、異形の干し魚で交易は駄目か」


 味が良いのは保証するが、身の部分だけならともかく、アリスが食べられると主張する触手の部分などはちょっと見た目が——。


「いえ、そうではなく……どっちかというと、マリウスさんの方です」


 ……俺?


「まずいのか」

「まずくはないですけど……少なくとも、干し魚を売りに来たひとには見えないです」


 異形でまずいのは、俺の方だった。


「今のままだとその、どこかの船団の軍人か、船を襲う人みたいですので」

「なん……だと……」


 受け止めがたい事実だった。


『あー、大将ど派手だもんな』


 二五九六番ですら、そんなことを言う。


「すまないが、具体的に指摘して欲しい。諸事情で色々と当世に疎いのでな」

「いいんですか?」

「構わない。とくと述べてくれ」


 なにせこちらは、海面があがって辺り一面が海になるまで封印されていた魔王だ。


「では——まず服が軍人みたいです。それでは相手に威圧感を与えてしまいます。あと、髪なんですけど……」


 そこでアリスは言葉を止めると、


「実は、はじめてあったときからびっくりしていたんですけど……銀色の髪って、はじめて見ました。綺麗なんですけど——」

「めだつか」

「めだちますね」

「これもまずいのか」

「はい。普通はみませんから。それに、男の人にしては長いですし」

「長いのはともかく——色の方は染めているとかそういうことにできないのか?」

「え、髪って染められるんですか?」


 そこからか。


「一番多い髪の色はなんだ?」

「黒ですね。次に多いのが茶色でしょうか」


 わたしの金髪って、ちょっと珍しいんですよ。と、アリス。


「ふむ……なら、こうか?」


 手で髪を梳くように動かし、髪の色を黒にしてみる。


「髪の色も変えられるんですね。すごいです」

「あ、ああ……」


 かつては魔族はおろか、人間も染料や脱色剤をもちいて髪の色を変えていたものだが、失伝してしまったのだろうか。


「それとあとは——えっと、切るのは多分駄目なんですよね?」

「ああ、それは出来れば遠慮したい」


 髪が長い方が、基本的に魔力を取り込みやすく、またそれを溜め込みやすい。なので、基本魔族は髪を切らないものなのだ(身長を超えるとさすがに不便なので、腰辺りで切ってしまうが)。


「では、こう……うなじ辺りで纏めてみてください」

「こうだな?」


 アリスから飾り紐をもらい受け、言われたとおりに纏めてみる。


「うん。それなら大丈夫です」


 ようやくアリスのお眼鏡にかなうようになったらしい。俺は内心安堵の息をつく。


「あとは、売り込みですけど……マリウスさん、ご経験は?」

「ない。ないが——こういう感じで良かろうというものはある」

「では、わたしにやってみてください」

「うむ」


 ふ。

 ふは。

 ふはは!

 ふははは! ふはははは!

 ハハハハハ! ハーッハッハッハァ!


「お魚、いかがですか?」


「その笑い方はどうかと思います」

「えっ」


 魔王として、存在意義の危機だった。


『なぁ、大将。お取り込みのところ悪いけど、そろそろお互いの目視距離に入るぜ』

「回頭。距離を取って少しの間だけ時間を稼いでくれ」

『あいよ』


 こころなしか、二五九六番の声が呆れているように聞こえてしまう。


「これはもう、特訓ですね」

「ああ、頼む……」


 ため息と一緒に呟くアリスに、俺は頭を素直に垂れた。

 どうやら、この海で学ぶことはまだまだ多いらしい。

ようやく魔王の容姿をはっきりさせることができました!

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― 新着の感想 ―
[一言] ふははは! ふはははは! ハハハハハ! ハーッハッハッハァ! お魚、いかがですか? …ワロタ。
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