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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第四章:提督令嬢、颯爽登場!

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第五十九話:提督令嬢、颯爽登場!

「さて……もうそろそろ隣の船団が見えてくる頃ですが」


 と、クリスは真面目な表情で続けた。

 ここ数日はずっとアリスのあとをついていったり、俺が改造や設計を行っているのをずっと眺めていたりしていたのだが、さすがは提督。次の船団が近いとなると、しっかりと制服を着込んだ凜々しい表情になっている。


「今回訪れる船団は、私達護衛艦隊とは少し軍制が異なっていますので、気をつけてください」

「というと?」


 こちらも姿勢を正して、俺。クリスと同じく軍装に身を包んでいる。


「うちでは基本的に家職として、代々役職を受け継いできました。ただしこれは政治、情報、防衛の三家のみで、他は比較的自由でした」

「そういえば、そうでしたね」


 アリスが相槌を打つ。

 こちらも同じく軍装だ。ただ、クリスと俺がズボンなのに対し、タイトなスカートになっている。

 それは、長らく着ていない秘書官の制服を思い起こすものだった。


「ですが今回の船団は、ばりばりの階級社会です。士官は騎士階級でないとなれませんし、将官に至っては貴族階級であることが必要最低限の条件になっています」

「ああ、あるなぁそういう国……極端に結束が強くて強敵であるか、腐敗しきっていて軍でひと突するだけで瓦解する弱敵かの両極端だった……」

「国って、船団のことでしたっけ。それらはどうなったんですか?」

「無論、ことごとく滅ぼした」

「さすがですね」


 俺の来歴を知ってから、クリスの反応はわりとこちら寄りだった。

 少々意外であったが、クリス曰く同族であろうとなんであろうと、身内の敵は自分の敵でもあるらしい。


「あの……念のため言いますけど、滅ぼしちゃ駄目ですよ……?」


 そんなクリスと俺に対して、心配そうにアリス。


「わかっている。今回は『海賊狩り』の承認を受けるための旅だからな」

「そうです。相手が牙を剥かない限りは戦う理由はありません。——剥いたら、やりますけど」

「それなら仕方ないですね」


 意外なことに、アリスもこちら寄りだった。


「それで、やはり貴族階級だと御目通りとやらに手間暇がかかるのか?」

「さすが詳しいですね、マリウス艦長。確かにその通りです。もっとも、こちらは元帥に大佐です。そう無下にはできませんし、一応同盟国ですから失礼なことはしてこないでしょう。ただ……中には、平民である私達を見下したりすることがありえないとも言えません。そこは申し訳ないですけど、自重してください」

「わかった」


 クリスにもアリスにも言ったことがないが、その手のことは慣れている。

 俺が人間に叛旗を翻す前、散々味わってきたからだ。


「あれ? でもよく考えたらマリウスさん魔王なんですから、元々王族では……」

「まぁそうだが、俺は魔族としても平民の出だぞ。先代の魔王に指名されて魔王になったから、いわば一代貴族——いや、一代魔王だな」

「そうだったんですか……失礼ですがマリウス艦長、お妃やお世継ぎは?」

「いない。人間との戦争でそれどころではなかったからな」


 その瞬間、アリスとクリスは安心したかのようにため息をついた。そして同時に顔を見合わせて、咳払いをして誤魔化(ごまか)している。


 いまのは、見なかったことにしておこう。



 ■ ■ ■



『見えてきたぜー!』


 二五九六番が、そう言った。


「平べったいな」

「平べったいですね」


 その中枢船を映像で見て、俺とアリス。


 ここの船団の中枢船は、巨大な双胴船だった。

 クリスの船団の中枢船と違って乾舷は低いため、平べったく見えたのだ。

 その代わり、甲板上の構造物は大きかった。

 大きいというか、ひとつの城のようであった。

 装飾も華美であり、かつての魔王城に引けを取らないだろう。

 そういう意味で、クリスの船団より街っぽいといえなくもない。


元帥旗(げんすいき)掲揚(けいよう)

「了解、元帥旗掲揚」

『あいよ! 元帥旗掲揚!』


 クリスから俺、俺から二五九六番への指示で、艦尾に旗が建つ。

 これで、雷光号(らいこうごう)はただの船でなく、元帥座乗の船となった。

 他の船団とて、おいそれとは手が出せなくなったのだ。

 さらに言えば、この南の海を巡るいつつの船団は同盟国同士だという。

 それならば、なおさら無礼な真似はできまい。

 ……そういえば。


「クリス、前から気になっていたんだがな」

「あ、はい。なんでしょうか?」


 兼ねてからの疑問を、口に出す。


「船団には、固有の名前は付いていないのか?」

「ありますよ? ただ私達は滅多に他の船団に出向かないのであまり使わないだけで——あ。マリウス艦長はご存知ありませんでしたね」


 なるほど。クリスたちにとって船団は世界に等しいわけか。

 だから、交易船のように他の船団に頻繁に行き来しない限り、船団の名前には固執しないのだろう。


「まず私達の船団が、シトラスです。そしてこれから訪れるのが、ウィステリアですね。そのあと、ジェネロウス、ルーツ、フラットと続いて南方海域を一周し、シトラスに帰ってくるわけです」

「なるほどな」

「付け加えると、中枢船には元々名前がありませんが、なんらかの理由で接近するなどした場合、それぞれの船団の名前をつけます。もしうちの船団に船団ウィステリアが近づいたら、中枢船シトラス、中枢船ウィステリアと区別するわけですね」

「そして、それらは滅多にないと」

「はい。これらいつつの船団は同盟という形を取っていますが、実質は相互不可侵ですから。なので今まで就任の挨拶などをするとかはあっても、合同訓練などをすることはありませんでした。……模擬戦などは、ありましたが」

「うん? そうなのか……」


 なぜか模擬戦と言った瞬間、クリスの言葉には悔しさが混じっていた。もしかして、負けたのだろうか。

 だとすれば、これから訪れる船団は相当手強いわけだが……。


「ところでニーゴさん、周囲に戦闘艦っぽい船はいませんか?」

『小さい嬢ちゃん——じゃねぇや、提督の船みたいなやつかい? まだ見てねぇ——出てきた!』

「やっぱり……」


 頭が痛そうに、クリスが呟く。


『なんだこいつ……(あけ)ぇ!』

「赤い?」


 気になって、望遠の映像を呼び出す。

 中枢船——この場合中枢船ウィステリアと呼ぶべきか——の港湾部は双胴部分の中央にあるらしく、そこから一隻の艦が飛び出したようだ。

 そしてそれは……赤かった。

 船体が赤い。

 砲塔も赤い。

 艦橋も赤い。

 マストすら、赤かった。


『おまけに速いぞこいつ、ちいさ——提督の『バスター』三割り増しくらい(はえ)ぇ!』

「正確に測れるニーゴさんが三割り増しと言うのなら、一般兵士からしてみれば通常の三倍くらいに見えるでしょうね」


 と、冷静にクリス。


「知っている艦なのか?」


 俺がそう訊くとクリスは頷いて、


「はい。高速戦艦『ステラローズ』だそうです。武装は私の『バスター』の方が上ですが、速力は向こうに分がありますね」


 なるほど、確かに主砲等などは『バスター』に比べて一回り小さいが、その分機関に余裕がありそうではある。

 全長も『バスター』と同程度だが全幅が細く、ちょうど俺の雷光号と、メアリの(あかつき)淑女号(しゅくじょごう)と似た関係だった。


『赤いやつ、こっちに来るぞ! どうする?』

「こちらはそのままで」

「だ、そうだ」

『あいよ!』

「それと、総員艦橋最上部に注目してください。多分そこに、()()()


 クリスにそう言われて、指定された場所を拡大表示する。

 なるほど、艦橋最上部がなぜか見晴台のようになっており、そこにひとりの少女が颯爽と佇んでいた。

 年はアリスと同じくらいだろうか?

 俺たちと似た白い軍装をなぜかマントのように袖を通さずに纏っている。

 そして手にしているのは、拡声器?


『お久しぶりですわね! クリスタイン提督!』


 外からの音を拾って、船内に声が響く。


『ステラローズ公女、アステル・パーム中将、参上いたしましてよ!』


 その時、強風が向こうの艦橋を撫でた。

 それはアステルと名乗った少女の、マントのように羽織った軍装を大きくなびかせる。

 その下は——。

 下は——。


「なんだ……あれ」


 思わず、そう呟いてしまう俺であった。


「マリウスさん、見ちゃ駄目です」


 いつになく厳しい声で、アリスがそういう。


「ああいう人なんです……軍人としてはすごく優秀なんですけど……優秀なんですけど!」


 本当に頭が痛そうに、クリス。


「なんというか、すごいな」


 なにせ、軍装の下は真っ赤な水着であったからだ。

 しかと、ただの水着ではない。

 上下に分かれており、なおかつ布面積が極端に少なかった。

 胸の上が大きく見えており、

 胸の下が大きく見えており、

 胸の左右も大きく見えている。

 おかげで、胸の大きさが丸わかりであった。

 クリス以上、アリス以下といったところだろう。

 下も下で、太ももはおろか、臍の下も限界近くまで見えていた。

 おそらく後ろから見れば、尻はほぼ丸出しなのではないだろうか。


「本当に……すごいな」


 それしか言葉が出てこない。

 そしてそんな俺の目を、アリスは両手で塞いだのであった。

 そんなことをすると、前が見えないのだが。

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