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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第三章:提督少女

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第五十五話:QTK(急に提督少女が来たので)……改造だ!

「すまない。もう一度言ってくれ」


 その衝撃的な内容に、俺はもう一度聞き返していた。

 護衛艦隊の詰め所、クリスの私室でのことだ。


「ですから、旗艦『バスター』は置いておきます」

「つまり小型艦で海を行くということか?」

「なんでですか。私が雷光号(らいこうごう)のお世話になるつもりなんですが」

「いや、遠洋を航海するわけだから船は大きい方が良いと思うのだが」


 船が大きくなればなるほど、海の波に強くなる。

 特に地上にある街並の大きさを誇る中枢船など、ほぼ波の影響を受けることがない。

 故に雷光号よりも『バスター』の方がはるかに快適なはずなのだが……。


「いけませんか?」

「いや、いけないとかいけなくないということではなく、単に船の大きさを——」

「雷光号に乗ったら、いけませんか?」

「むぐ……」


 その言い方は、ずるい。

 駄目なわけでは、ないからだ。

 だが、かりにも(ファイブスター)(アドミラル)を迎え入れて航行するというのは序列的に——。


「マリウス君、ちょっといいかしら」


 見かねたのか、それまで黙って様子を見ていたヘレナが、俺を呼ぶ。


「クリスちゃんが雷光号に乗りたいというのはね、キミに対する好意でもあるけれど、それ以外の理由もあるのよ」

「それ以外の、理由だと?」

「そう。『バスター』に乗っていた場合、他の乗組員が絶対いるわけでしょう? 彼らに見られたくないことが、クリスちゃんにもあるのよ」

「それは……どういう意味だ?」

「あとはクリスちゃんから聞きなさい。それと積み荷のことなんだけど、このリストにあるものは積んでおいた方が良いわよ」

「わかった」

「——いま、わかったといいましたね?」


 してやったりとばかりに、クリスがそう言った。


「あ゛」

「ふふっ、そういうことよ。私はいつだってクリスちゃんの味方なの!」


 ヘレナもそう言って、悪い微笑みを浮かべる。

 そういうのは、魔族、特に魔王が得意とするものなのだが!


「降参だ。雷光号への乗船、及び航行中の滞在を許可する」


 両手をあげて降参の仕草をとり、俺。


「やりました! よろしくおねがいします、マリウス艦長、アリスさん!」


 クリスが嬉しそうに敬礼をする。


「ああ。では、さっそく部屋を——」

「あ! マリウス艦長が部屋を退去するとか無しですからね! アリスさんもです!」

「いや、空き部屋があるがそれを改装するだけだが」

「あの大きさで個室の空きがあるんですか」


 どうやら、普通の船にはそういう余裕はないらしい。


「あとは食料や日用品の量の調整か」

「それなんですけど、その場合……」


 メモに計算式を書きながら、アリスは続ける。


「航海中に食材が足りなくなるので、釣りをする必要がありますね」

「よし、改造だ」

「えっ」


 釣りだけは嫌だからな。

 釣りだけは、嫌だからな……!



 ■ ■ ■



「というわけで、お前を改造することになった」

『お、おう……!』


 船団、それも護衛艦隊用の乾ドック。

 そこにはすでに、雷光号が収められていた。


「折角だから、これまでの戦闘記録や、他の船を見て得た改良点も適用させようと思う」

『それなんだけどよ』


 めずらしく、二五九六番の方から提案があった。

 そのことに内心驚きつつも、俺は先を促す。


『ここんとこ、ニーゴ状態の時に、メアリの姉ちゃんに剣とかの近接武器を習ってんのよ。それうまく応用できねぇかな』

「ふむ……つまり雷光号の状態でも近接攻撃を出来るようにしたいと」

『無茶いってんのは、オイラもわかってんだけどよ』

「いや、無茶を言うほどのことでも無い」


 常時空を飛べとか、そういうのだと困るが、そうではないならやりようはいくらでもあった。


「お邪魔します」


 そこへ、アリスと一緒にクリスが現れる。


「察するに、改造しているところを見てみたいといったとこか」

「そんなところです。それが一番すごいと、アリスさんも言ってましたし」

「アリス——」

「ご、ごめんなさい。クリスちゃんなら、いいかな……って」

「まぁ構わないが……俺よりも前には、絶対に出るなよ」

「わかりました」

「よし、それじゃはじめよう。二五九六番、いつも言っていることだが、変な声は出すなよ?」

『んほおおおおおおお!?』

「まだなにもしておらんわ! さて——」


 乾ドックの雷光号、俺の前に山と積まれた資材、そして後方でおとなしく見学するアリスとクリスを確認して、俺は大きく息を吸う。


 ふ。

 ふは。

 ふはは!

 ふははは! ふはははは!

 久しぶりだなこれ! ハーッハッハッハァ!



 ■ ■ ■



「また、大きく形が変わりましたね」


 アリスが、感嘆混じりの声でそう言った。


「はじめて見ましたけど、魔法ってすごいんですね」


 同じようにクリスが感激したような声で言う。


「資材が浮かび上がって、加工されて、雷光号に取り付けられたり、融合したり——まるで伝承にでてくる古き神の奇跡そのものみたいでした。って、そのものでしたね」

「あれの話は本気でやめてくれ……!」


 俺は魔王だが、古き神ではない。

 ましてや、ふわふわとした金髪のわがままに見えて気遣いも出来る少女ではない……断じて!


「それはともかく、簡単に説明するぞ」

『おう、頼むわ。オイラが一番よくわかんねぇからな』


 クリスが見ていたのでやせ我慢でもしたのか、今回は悲鳴ひとつあげなかった二五九六番がそう言う。


「まず、主砲塔だが、二連装二基を左右に置いてあるのを改めて、二連装四基、前後に背負い式とした」

「『バスター』を参考にしたんですね」


 そこはさすが提督、クリスが即座に指摘する。


「その通りだ。これにより主砲の射撃範囲が大幅にひろくなっているはずだが、どうだ?」

『おう! こいつはいいな』


 前後四基の主砲塔をごろごろと動かしながら、二五九六番が嬉しそうにそう言う。


「副砲は前後に単装砲を二基置いていたが、こちらは左右に二基とした。ただし長砲身化、および発射速度の向上を図ってある」

『砲塔の動きも速くなってんのな』

「ああ、元々牽制用だしな。引き続きそのように使ってくれ。そして近接戦闘だが——これはここではできないので航行中ひまなときにでも解説する」

「船で近接戦闘?」


 クリスが不思議そうな声を上げた。


「ああ」

衝角(しょうかく)かなにかですか?」

「船首水面下にある槍状のものか。それもあるが、もっと根本的に近接戦闘を考えたものだ」

「うまく、想像できないですね」


 首を傾げて、クリス。

 隣ではアリスが同じように頭を悩ませている。


「いずれ、披露することもあるだろう。次に船内だ」


 前後の主砲、左右の副砲に守られた中心部分から、内部に入る。


「部屋をひとつふやした。俺、アリス、クリス、そして空き部屋だ」

「わざわざ空き部屋も増やしたんですか!」

「ああ、いざというときのためにな」


 こういうのはあとあと役に立ったりするから、侮れないのだ。


「それで船内、戦闘航海中の座席だが……」


 アリスとクリスを案内する。


「中央前を、操船と指揮を執るための艦長席。後方左を発光信号や表示板で情報管理する通信士席、そして、後方右を同じく表示板と、海図を表示した——提督席とした」

「それって……」


 クリスが、目を輝かせる。


「つまり、私専用の席ですか……!」

「ああ。航行中はあまりすることはないが、俺やアリスが意見を求めるときがある。その時はよろしく頼む」

「任せてください。それより、その——座ってみても良いですか」

「ああ」


 提督席は、もともとクリスの身長を許に作ってあるゆえに、深く腰掛けても——。


「すごい、足がちゃんと床に届きます……!」

「それでいいんだ。うまくいってよかった」

「ありがとうございます、マリウス艦長。すごい——船でこういうの、はじめて……」

「そうか、それはよかった」


 思わずアリスと顔を見合わせる。

 その顔に微笑みが浮かんでいるということは、俺もそんな顔になっているのだろう。


「通常航海中は、二五九六番があらかたやってくれるから、後方の船室なり、私室なりを好きに使ってくれ」


 こういうときのために、長椅子をもうひとつ用意している。

 これで全員が長椅子に寝っ転がることも可能だった。

 クリスが果たしてそういうことをするのか、はなはだ謎であったが。


「あとは、なにか質問があるか」

「「はいっ!」」


 アリスとクリスが、同時に手を上げた。

 この感触、前にも同じ体験をした憶えがある。

 ということは……。


「風呂か?」

「「おふろです!」」


 綺麗に声が重なるアリスとクリスだった。

 普通の姉妹でも、ここまで綺麗に声を重ねるのは難しいだろう。

 つまりは、それだけ期待していること言うことなのだろうが。


「船体が少し伸びたから船内も少し余裕ができている。……もちろん、お待ちかねの風呂も広くした」


 アリスとクリスが、がっしりと握手を交わした。

 どうやら、ふたりともかなり期待していたらしい。


「ついてこい。案内しよう」


 そんなふたりに内心苦笑して、俺は風呂場への通路に足を踏み入れた。

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