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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第三章:提督少女

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第五十三話:『超!暁の淑女号』爆誕!

「大佐とはね……出世したじゃない、マリウス」


 と、船団の中枢船にある酒場で麦酒のジョッキを傾けながらメアリがそう言った。


「そうだな。自分でも少し驚いている」


 酒場にあった一番きつい酒(高い酒ではない。魔族はある程度の強さの酒では酔えないため)を飲みながら、俺。


「『海賊狩り』の称号を得るためとはいえ、ここの護衛艦隊も椀飯振(おうわんぶ)()いをした。なにか思い当たることは?」


 暖めたミルク(ウミウシの)をちびちびと舐めながら、ドロッセルがそう訊く。


「えっとですね」


 いくつかの果物を搾った果汁にミルク(ウミウシの!)を混ぜた飲み物を飲んでいたアリスが、横から補足する。


「あんまり表向きの話に出来ることじゃないんですけど、護衛艦隊が管理する遺跡で事故がありまして——」

「穏やかじゃないわね、それ」

「はい。細かくは言えないんですけど、その際マリウスさんがクリスちゃんを助けたんです」

「なるほど」


 合点した。と、ドロッセル。

 ——が、いうまでもなくこれは、()()()()()()()()()()()()()()()


 俺が魔王であることは、現在アリス、クリス、そしてヘレナしか知らないことだ。

 メアリとドロッセル、ひいては(あかつき)淑女号(しゅくじょごう)とのつきあいはけっこう長くなるが、それでもこの事実は伏せておいた方が良いというのが、俺自身の判断だった。


「でもすごいじゃない。これで『海賊狩り』のお墨付きを貰えるんでしょ?」

「ああ。南方五船団のみだそうだがな。おまけに承認を得るために一度それぞれの船団に向かわなくてはならないらしい」

「となると、かなりの期間、ここを空けることになるが——」

「そう。だから——」


 酒を飲む手を止めて、俺。

 酔ったらアリスにあとを任せる段取りであったが、幸いにしてこの酒では酔いそうになかった。


「それで、少し頼みたいことがある」

「取引ね」

「ああ、取引だ」

「まってほしい」


 そこで、ドロッセルが挙手して言う。


「もう既にマリウスは把握していると思うが、現在我々は現金収入が事足りている」


 確かにその通りだ。

 前回発掘島での発掘品探しで、暁の淑女号はかなりの収入を得ている。


「故にそれ以外の報酬を望むが、いかがか?」

「問題ない。こちらも現金以外のものを先払いのつもりだからな」



 ■ ■ ■



 ——翌朝。


「ふむ……」


 暁の淑女号の甲板に立って、俺は自分の考えである程度いけると確信していた。


「あたしたちの船を強化するって、何をどうするつもりなのよ」


 立ち会いとして船に残った、メアリがそう言う。


「まずな、艦橋を大幅に強化したい」

「それは賛成」


 同じく船に残っていたドロッセルが真っ先に、賛意を示した。


「えー、今の露天式に何か不満あるの?」

「ありまくる。悪天候時は操船に難があるし、なにより船長兼操舵手の負担が高すぎる!」

「別に良いじゃない。操船って、そういうもんでしょ? それに艦橋を大きくしたらその分この船の快速性が失われるわよ」

「その件なんだが……帆を強化して快速性を引き上げたいと思っているのだが」

「へ? で、できるの?」

「この前の発掘品充填装置があれば、割と簡単に」


 正確には、俺の魔力を直接注ぎ込むことにより、だ。


「それで艦橋の強化と両立できるのなら、お願いしたい」

「ではまずはそこからだな。これより工事に入る。あしたまた、来て欲しい」

「いいけどマリウス、舵の調子はいじっちゃだめよ! その感触気に入っているんだから!」

「わかっている。案ずるな」


 そして、さらに翌日。


「なん……」

「だと……」


 メアリとドロッセルが次々に呟いた。


「だから、雷光号(らいこうごう)にも搭載されている表示板を、こちらにも搭載した。これによりある程度の範囲を航行する船の位置をある程度感知することが出来る。具体的な距離は実際に目測で確認してくれ」

「お、おう……」

「次に兵装だが、前部に装備されている小口径砲を、大幅に改造させてもらった」


 呆気にとられたように、メアリが呟いたので、俺は話を続ける。


「元は防盾(ぼうじゅん)のみだった簡易砲塔を、正式な砲塔に改めさせてもらった。同じ小口径砲、あるいはそれ以上を喰らっても砲そのものは耐えるからそのつもりでいてくれ。また、装弾は自動式になっている。それと発射速度だが、こちらは従来のそうだな……暁の淑女号の練度は高かったから三倍は無理か。二倍まで上がっているはずだ」

「口径はそのままだが、砲身の長さが伸びているようだが……」


 と、ドロッセル。


「ああ。同じ砲弾を使えないと不便だろうから、どうすれば威力をあげられるか考えたら、長砲身化ぐらいしか思いつかなくてな。これでより超射程かつ、短距離射撃時の威力向上が見こめるはずだ。もちろん、砲身はまるごと取り替えたて品質の高いものを使用していているから、寿命は前より長いはずだ」

「そこまでするか」

「まだあるぞ」


 呆れたような声のドロッセルに対し、俺は艦橋にある装置を操作しながら説明を続ける。


「みえるか? 前方の砲塔が動いているのが」

「え、なに!? 艦橋から操作できるの!?」


メアリが驚いたような声を上げる。


「そうした。先ほど話した自動給弾装置も付いているから、実質砲塔に人員はいらない。基本的に艦橋のこの装置で操作してくれ」


 暁の淑女号の艦橋は、雷光号ほど広く取れない。

 なので少し手狭であったが、船長兼操舵手席、表示板兼光学信号発信席、そして前方の砲塔を遠隔操作する砲手席を必要最低限の設置面積上に設けていた。


「なるほど、砲塔についている測距儀の映像を、ここで見ることができるようにしてあるのね」


 自らが砲手席に座って、あれこれ操作しながらメアリが納得したようにいう。


「そうだ。本当は後部にも、もうひとつ砲塔を設けたかったんだが、船体の構造上どうしようもなかったからな。代わりに後進しやすいようにしておいたが」

「というと?」

「帆の向きを完全に裏返せるように、帆柱の回転軸を改良した。あと、船尾部分を少しだけいじって、後進時も快速性が失わなれないようにな」

「——質問がみっつある」

「なんなりと」


 ドロッセルが我慢できないとばかりに手を挙げたので、俺はそれに応える。


「まずひとつ。砲塔の動力源を教えてほしい」

「前回そちらで手に入れた発掘品の動力貯蔵庫があったな? あれの小型版を搭載してある。表示板の動力もそこからとるようになっている。取り替え時は——そうだな、三年くらいか」

「納得した。次、後進しながらの射撃を考えているようだが、その意図は」

「つまりこうだ。いままで暁の淑女号の用途は牽制射撃に主眼を置いていた。この意図を変えるつもりはない。だが、それに加えて表示板を使用した観測と、交戦時の戦場離脱性、そして、離脱時に自衛攻撃力を与えてみた」

「つまり、なんらかの敵を観測し、万一見つかったら速やかに離脱、そしてそれでも追いすがる敵には、威力を強化した小口径砲で追い払えと」

「そういうことだ」

「それも納得した。それで、最後のひとつ。この船で、貴方は私達になにをさせたい?」

「それは簡単だ。その目をもって、この船団を守ること。これは、俺の依頼内容でもある」

「つまり、ここの船団にとどまって、護衛艦隊の目となって外部の様子を監視してほしいと?」

「そういうことだ。今回の他の船団へ向かうに当たって、クリスが俺たちと同行する。もちろん現在外交中の艦隊と入れ違いに出発するから、指揮能力や戦闘能力に抜けはないが、それでも念には念をいれたい」

「——この前のクジラのように?」

「そうだ」


 頷く俺。要は、雷光号の感知能力をその素養がある暁の淑女号にも与えたいということだ。そしてそれに対する戦闘力の向上を図ったにすぎない。


「随分とあの子に入れ込んだわね」


 と、いままで黙って船を眺めていたメアリが、そう言う。


「そうだな。なんだかんだいって。だいぶ厚遇してもらったのは事実だ。なら、それに対して恩義を返せなねばなるまいよ」

「そういうの、わかるわ。そして、それができるとあたし達を評価してくれるのもね」

「では——この依頼、受けてくれるか」

「あたしはね。ドロレスは?」

「ドロレスではなくドロッセル。そして質問はひとつだけ。護衛艦隊からなにかしらの報酬はあるのか否か」

「ある。この依頼を受けることが確定したら正式に護衛艦隊から同じ内容の依頼がくると思うが、依頼完遂時にこの船団で割と自由に動けるよう、独立した護衛艦として取り立ててくれるそうだ。俺と同じく、な」

「つまり、あたしも大佐になれるってことね」

「そうなる。ドロッセル?」

「その条件で、異議を挟む方がおかしい。了解した。本件を受領する」

「——助かる」

「「ただし!」」


 同時に声をあげたので、頭を下げかけた俺は再び二人を見る。


「まだなにか、条件が必要か」

「ええ。非常に重要なものがね」

「我々にとって、あるとないとでは大違いなものがひとつ。それは……」

「……あれか。あれだな?」


 期待を込めた目で、ふたりが頷くので、俺は小さく、肩をすくめた。

 実はそれを見越して、既に設置済みなのだ。

 ——あれを。


「船体内部、砲塔部分の自動化によってできた余剰部分に、簡易的ながら風呂を用意した。それほど広くはないが、使い勝手は雷光号と同じにしてある。それでどうだ?」

「「でかした」わ!」


 握りこぶしを突き上げて、メアリとドロッセルが歓声をあげた。


「これでもう、大量の濡れタオルとはおさらばよ!」

「寄港地まで、船室を漂う微妙な匂いとも別れを告げることができる。これほど嬉しいことはない」

「じゃあ、今度こそ」

「「依頼を受ける」わ!」


 暁の淑女号の筆頭と次席が同時に宣言し、俺はほっと溜息をつく。

 これで、ここの船団を離れるにあたっての懸案事項のひとつは解決した。


 だが次は、もっと重たい交渉が待っている。

 それは、あのクラゲとの交渉だった。


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