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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第三章:提督少女

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第四十八話:海底遺跡にて

「もう! 司書長ったら、私達が秘密にしていた海底遺跡の話をあっさり喋っちゃうんですから!」


 クリスはご機嫌斜めだった。

 海面下。

 位置は以前訪れた海の下の街から、南は少し進んだ場所で、海底の起伏が激しくなっている。

 もちろん、そんな場所は普通の船では進めない。

 そのため、以前と同じように潜水艇を使用していた。

 ただし、前回と違って乗っている頭数は、随分と少ない。

 具体的にいうと、俺と、アリスと、クリスのみである。

 もちろんそれには、理由があった。

 前回は海の下の街の状態を調べるのが本目的であったため発掘品の回収はご法度であったが、今回は海底遺跡からの発掘品の回収が主任務だからだ。

 つまり、行きと違って帰りは重たくなる。

 それゆえに、人数が制限されてしまうのであった。

 そして——。


「キミが発掘島(はっくつじま)で何をしたのかは、おおよそ察しがついているわ」


 俺に依頼を持ちかけた時、ヘレナ司書長は確かにそう言った。


「そして今度行ってもらう遺跡にも、そういうものがあるのよ。あとはわかるでしょう?」


 つまり、これから向かう先の遺跡にも開かずの扉か、それに準ずるものがあるらしい。


 だが、ヘレナは把握しているのだろうか。

 前回俺が扉を開けたせいで、死の罠が発動したことに。


「接舷します」


 クリスが、鮮やかな舵さばきで潜水艇を泊める。


「接続完了……空気漏れは、なしですね。総員、下部潜水室へ。あ、兜は被らなくて構いません」

「潜らないのか?」


 この場にいる全員が、海の下の街に行った時のように、全身をぴったりと覆う潜水服を着用済みだ。

 だから、これから潜るものだと思っていたのだが……。


「いえ、この格好は緊急用です。ゆえに潜水兜は持って行くだけで大丈夫です。そのかわり、なにかあったらここまで避難することになります。その場合は、遅れた人を待てませんので、そのつもりでいてください」

「ああ。わかった」


 つまり、ここから先はずっと団体行動をとる必要があるということだろう。

 潜水室に降りる。

 壁に取り付けられている各種計器を確認してから、クリスが慎重に操作桿を倒すと、警告音と共に扉が開いた。

 水が流れ込んでこないか、全員が注意する中、扉は完全に開ききり——その奥に、もうひとつの扉が見えた。

 水密扉だ。


「そういえば、潜る前になにか取り付けていたな」

「はい。水中で接舷するための装置ですよ」

「なるほど」

「これが、結構固いんです!」


 全身を使って、クリスが水密扉の前に備え付けられたハンドルを回す。

 が、本当に固く締められているらしくなかなか動かない。


「手伝おう」

「あ、ありがとうございます……!」


 ふたりでハンドルを回し、水密扉を開ける。

 開いたその先は、無機質な通路が続いていた。


「ここは——」

「この前の発掘島とは、随分と雰囲気が違いますね」


 と、周囲を見回しながらアリス。


「ああ。なんなのだろうな、これは」


 そこで、ようやく気づく。


「そういえばここ、もとから空気があったのか?」

「最初はありませんでした。ですが、密閉できる構造だとわかったので、排水して空調設備を整えたんです」


 護衛艦隊の功績なのだろう。

 クリスが、胸を張ってそう答えた。


「もしや、空調設備は最初からあった?」

「ええ。解析に苦労しましたが」


 とすると、この遺跡は水密性を考慮していた可能性がある。

 と言うことは、水没を考慮して作られた?

 あるいは、当初から水中に作られたということだろうか。

 どちらにしても——。

 今までの遺跡より、後に作られたということになる。


「察するに、ここは全て調査済みのようだが」

「その通りです。今は私たちの船団にとって、秘密の倉庫みたいな扱いですね」

「倉庫……か」

「そうです。それにここ、もともと倉庫だったのではないでしょうか」

「それっぽいが、どうだろうな」


 倉庫にしては、少し手狭な気がする。

 だがクリスは、あまり気にしていないらしい。


「行きましょう。今日回収する素材は、こちらに集積されています」

「ああ」


 三人で、通路を進む。

 その様式は、魔族のものとも人間のものとも判別がつかない。

 やがて、少し広い部屋に出た。

 ここは倉庫といってもよく、整然と並べられた棚に多種多様な素材が格納されている。


「——すごいなこれは」


 機動甲冑——ひいては海賊の装甲に使われている合金から、きめ細かすぎて糸の縫い目が見えない布地まで、多種多様な素材が並んでいた。

 そして……。


「これが、樹脂か」


 クリスから手渡された、四角い塊をしげしげと眺める。


「はい。熱で加工する素材です。金属や木材ほど耐久性はありませんが、とにかく軽いことと、加工しやすいため、重宝されているんです」

「なるほど……」


 ヘレナもクリスも樹脂と言っているが、厳密には違う気がする。

 あれはもともと、松脂(まつやに)や漆、あるいは琥珀を指すものだ。

 だが、これは違う。

 色が不自然に白く、形が均一すぎるのだ。

 おそらくこれは、合成された樹脂なのだろう。

 それをしたのは人間か……はたまた魔族か。


「まずは、これらを潜水艇まで運び込みましょう。部屋の隅に台車がありますから、それに積み込んでください」

「あ、じゃあわたしお手伝いします」

「お願いします、アリスさん」


 もっていくものの一覧が書かれているとおぼしき目録を確認しながら、クリスがそう言う。

 早速、台車を活かして潜水艇と倉庫の間を何往復かする。素材を運び、潜水艇で降ろすのは俺の役目、そのあとそれをまとめるのはクリスとアリスの役目だった。


「これで全部か」

「そうですね。あとは……」


 目録を確認していたクリスの動きが止まる。


「なんですか、これ」

「どうした?」


 ある程度予想がついていたが、そう聞いてみる。


「最後に一行だけ、司書長による手書きのものです。『開かずの扉を開けよ』って……」

「あるのか?」

「ありますけど……開けられないから開かずの扉なわけでして」

「俺なら開けられると、踏んだんだろうな。案内してもらえるか」

「わかりました」


 倉庫を後にし、さらに奥の通路を進む。

 先ほどの通路が入り口と倉庫を繋ぐものなら——。


「この通路は、どこに繋がっているんだ?」

「どこにも繋がっていないです。あるのは開かずの扉のみで」


 ならば、それがどこかに繋がっている可能性はあった。


「着きました。ここです」

「——よかった」

「——ですね」


 アリスとふたり、顔を見合わせて頷く。

 その開かずの扉は小さな造りであったのだ。

 クリスは平気だが、アリスは少し身をかがめないと、通れそうにない。

 もちろん俺は、言うまでもないことだろう。

 少し、安心する。

 これならば、前のように無人の機動甲冑に襲われる心配はない。


「あの、なにが良かったんですか?」


 クリスが首を傾げてそう訊くので、俺はある程度はしょってこの経緯を説明する。


「な、なるほど……そこでこの扉、開くんですか?」

「そうだな……」


 前回は、魔力がないと開かないようにできていた。今回のは——同じか。

 つまりは、ここの遺跡は魔族によるものらしい。


「ほら、開いたぞ」

「——すごい、どうやったんですか?」

「企業秘密だ」


 まさか魔力を流し込むと開錠される仕組みであるとは、とてもではないが言えない。

 そして、わざわざそこまでいて開けた扉の向こうは、緩やかな下り坂状の通路になっていた。


「進んで……みるか?」

「はい」

「そうしましょう」


 全員一致でゆっくりと通路を進む。


「少し……生臭くなってきましたね」


 クリスが、少しだけ顔をしかめてそう言った。


「言われてみれば、そうだな」


 どこかで嗅いだような覚えもあるが、どこだったか——。


「あの、マリウスさん。わたしこの匂い覚えてます」

「……なに?」


 アリスの指摘に、思わず全員足を止める。


「前に、クラゲにかけられた粘液……あの匂いです」

「そういえば、そうですね……!」


 自然、三人とも武器を構えた。

 アリスとクリスは銃。俺は光の刃を形成する光帯剣(こうたいけん)である。


「いるのか、やつが」


 あの忌々しい勇者に次ぐ忌々しいクラゲに。

 だが、この狭い遺跡に?

 前にあった時は小山ほどの巨体を誇っていたが、一体どうやってこの遺跡の中に?


 そう思いながら、通路を下っていく。

 途中で、かなり巨大な空間に出た。


「これは……ここも倉庫だったんでしょうか」

「いや、違う。これは生産工場だ」


 主に素材を加工する形式のものが多い。

 今は流石に稼働を停止しているが、うまく再稼働させてやれば、向こう数十年は安泰だろう。

 くだり坂の通路は、さらに先に進んでいる。

 俺たちは、慎重に奥へと進んでいった。


「……声が聞こえます」


 突如、クリスがそう呟いた。

 遅れて、アリスと俺が気づく。

 通路の一番奥、ここの隠し扉より少し大きめの部屋があった。

 部屋と通路を仕切るものはなにもない。扉は開け放たれたままだ。


「(先行します。ついてきてください)」


 言葉ではなく、合図で、クリスがそう言う。


「(いや、先頭は俺に)」

「(いえ、こういうのは慣れている方がいいですから)」


 三人でそろそろと部屋に踏み込む。

 部屋の中は、今までのそれと比べて雑然としていた。

 用途のよくわからないガラクタに始まり、女をかたどった象、色鮮やかな絵画、俺が封印される前とも、今とも違う、派手な模様の服などが散らばっている。


『——ぁ——、……ぃ……』


 声が幾分はっきりしてきた。何かがいる。


『いや——たすけ——』


 その言葉を聞いてクリスが加速した。俺とアリスも、音を立てずに追随する。

 ——どういうことだ? なぜ海中の遺跡に人が……。

 クリスが立ち止まる。俺とアリスはその左右に展開し、声の詳細を——。


『だめえええええ!? そんなの、そんなの入らな——あぁっ!?』

『ここか? ここがええのんか?』

『いやっ! やめて! んむっ!? んむぅ!?』

『クックック、口ではいやゆうても身体は正直だなぁ!?』


 ……。

 なんだそれ。


 見た目は、巨大な水晶玉といったところだろうか。

 そこに映像が流れている。

 今のは、春画を映像化したものだろうか。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 それよりもそれを——。


「……ふぅ。やはり触手モノは私と同じくクラゲのそれに限るな。触手が半透明だから色々と丸見え——いや、さすがに今の発言は——はしたないか」


 なぜかひとまわりもふたまわりも小さくなった、あの忌々しいクラゲが、鑑賞していた。


「しかし、もう少し純愛風味にしてもいいのではないかね? 触手ものでは少数派かもしれないが」

「知ったことか」

「ふふふ。所詮は日陰者といったところか。海月(くらげ)だけに……あ」

「……」

「……」

「……」


 クラゲと俺たちの視線が交錯する。

 (もし、クラゲに視線があるのなら——だが)


「やりますか」

「やりましょう」


 それぞれ銃を構えて、クリスとアリスがそういった。


「そうだな。やるか」


 俺も、異存はなかった。


「いやいやまて! 待ちたまえよ!?」


 やかましい。ここであったが百年目だ。

 実際は、百年以上封印されていたがな!

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