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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第三章:提督少女

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第四十六話:耳かき魔王

「どうですか、これ!」

「ほぅ……!」


 クリスにそれを手渡されて、俺は本気で感嘆の声をあげた。


「これ、なんですか?」


 はじめて見るのだろう。アリスが首を傾げる。

 それは一見すると、節のある円筒形の木材に見えるだろう。


「竹だ。東の方に生えている植物でな」


 しかも、いい具合に燻してある。

 こうすると粘りが良くなって、素材として加工しやすく、製品としても割れにくくいい具合になるのだ。


「そうです。とても希少な植物なんですよ。この前、遠方の交易船から取引したんです」


 そうか。今は希少か。

 俺が封印される前なら、東方にかなりの規模で自生していたが……確かに根がかなり独特な形をしていたので、いまのように小さな島か船団での栽培となると、そうもなるのだろう。


「それで、これを俺に加工して欲しいと」

「はい。行政府直下の生産部や、いくつかの加工業の方に聞いてみたんですが、特に思いつかないとのことでしたが……マリウス船長なら、と。報酬は加工品の買取金額と、お渡しする原材料の三分の一でいかがでしょう」

「ああ、それで構わない」


 こうして、契約が成立した。

 ただ、本当に希少らしくもらった竹はそれほど多くはない。

 ——ならば、久し振りにアレでも作ってみようか。



 ■ ■ ■



 まずは縦にして二つに割る。

 それをさらに半分に割る。

 これを何度か繰り返す。

 そしてある程度細い棒となった竹を、薄くなるまでひたすら小刀で削っていく。


「いつもの魔法じゃないんですね」


 俺の作業を興味深げに眺めていたアリスが、そう言った。


「あれはもともと大規模なもの向けだからな」

「そういえば……あ、でも私の服とか」

「あれは素材がなかったから魔力で補わざるを得なかったからだな。それに前にも言った気がするが、あまり長くはもたん。せいぜい一晩だ」

「元に戻っちゃうってことですね。……あ、そういうおとぎ話、聞いたことがあります。ドレスがなくて舞踏会に出られない女の子が、魔法使いから魔法のドレスをもらって王子様に会うんですよ」

「案外どこかの魔族が、気まぐれで助けたのかもしれんな」

「マリウスさんみたいな魔族だったのかもしれませんね」

「俺か? 俺なら——」

「魔法が解けることを考えてちゃんと布地から作る——ですか?」

「……思考を先回りするな」

「でも、当たりですよね?」

「——まぁな」


 そう言っている間に、いい具合に削り終えたので、今度は極小の火を魔法で呼び出し、端の部分を炙る。

 そして少し反りがでてきたところでその先端部分を丁寧に磨き——。


「できたぞ」

「これは……?」

「耳掻きだ」


 俺はそれを灯に透かす。

 うむ、我ながらいい具合のものができた。


「耳掻きって、たしか耳掃除に使うものでしたっけ。長い釘みたいなものだったように記憶してますけど」

「それは金属製のものだな。あれも悪くないが、丁寧に掃除するならこっちの方が格段にいいぞ。ついでだからアリス、耳を診せてみろ」


「あ、はい……って、膝枕ですか?」

「そうなるな」

「では、お言葉に甘えて!」


 妙に嬉しそうなアリスだった。

 ——さて。

 極小の明かりを魔法で呼び出し、アリスの耳を照らす。


「結構たまっているな……」

「うっ——恥ずかしいです」

「そういうものか?」

「わたしも一応女の子ですから、そういうのは気にするんです……」

「そういうことか。すまん」

「いえ、放っておいたのはわたしですから——綺麗にしちゃってください」

「ああ」


 耳掻きをこしょりと滑り込ませる。

 耳垢は概ね外に向かうように生えている(?)ものだが、ひとつだけ、なんらかの理由で鼓膜に向かっているものがあった。

 まずはそれから取ろうと思う。


「音が響くと思うが、なんともないから動くなよ」

「は、はい……」


 そりそりと耳掻きの匙部分を使って外耳道に張り付いている耳垢をぺりぺり、こりこりと少しずつ剥がしていく。

 コツとしては、外耳道そのものを引っ掻かないようにし、あくまで耳垢を剥がし取るように耳掻きを動かすことだ。

 外耳道、特に鼓膜付近は傷つきやすく、耳掻きで引っ掻き続けるだけで簡単に傷が付く。これは、魔族も人間も同じだろう。

 耳掻きでゆっくりと挿入を繰り返す。その度に、アリスの身体がぴくりと震えた。


「あ……奥まで入ってます……」

「そうだな……もう少し動くぞ」

「はい、お願いします……すごい……こんなのはじめて……」

「もう少しで取れる。動くなよ」

「んっ……」

「……アリス、変な声をだすな」

「ごめんなさい、でも気持ちよくて……あっ……!」

「そういうものか?」

「はい……んぅっ……」


 変な声こそ出るものの、約束通りアリスは少しも動かなかった。

 それをありがたいと思いつつ、俺はさらに耳掃除を続ける。


「よし、こっちは終わった。アリス、反対側だ」

「はい……おねがいします……」

「ああ——む?」


 反対側の耳だが、それほどたまっていなかったものの、奥に少し硬めのものをがある。

 俺は耳掻きを駆使すると、こちこちの耳垢を多方向から少しずつ剥がしとり、ある程度全体が浮き上がったところで、耳掻きをさらに奥にいれて、全体をごそっと引っ張り出すにように引きずり出す。

 うむ。うまくいった。


「よし、終わったぞ」

「あの……もっと……」

「今度やってやる」

「お、お願いします。——どうしよう、癖になっちゃうかも」

「そんなによかったのか?」

「はい……気持ちよかったです……」


 どことなく上気した顔で、アリスが耳たぶを触る。

 その直後だった。


「な、なにをやっているんですかーっ!」

「ふおっ!?」

「ひゃっ!?」


 アリス共々、変な声が出た。

 クリスが船室に飛び込むと同時にそう叫んだからだ。


「わりぃ、大将が嬢ちゃんをいじって気持ちよくさせているって言ったら、司令官の最高権限を使うからすぐにそこを開けろっていうからよ」


 クリスへの応対のためだろう。わざわざニーゴ状態になった二五九六番が、外から頭を突き出してそんなことを言う。


「ああああのですね? おふたりは船長と秘書官ですから、そういう不適切な関係はあまりよろしくないかと思うんですが!?」


 顔を真っ赤にして、クリスは再び叫んだ。

 なにか、とんでもない勘違いをしていないだろうか。俺とアリスは——。


「——ただ、耳掃除をしていただけなんだが」

「え、耳掃除……?」


 クリスの顔が、さらに真っ赤になる。


「わ、わかっていましたよ? 耳掃除、気持ちいいですもんね?」

「せっかくだから、していくか?」

「い、いえ。私はただ竹の加工の進捗をですね」

「マリウスさんが膝枕でしてくれるそうですよ」

「お願いします!」


 アリスの一言で、即座に了承するクリスだった。


「それじゃ、いくぞ」

「はい……ぁ……な、なんですかこれ……き、きもちいいです……ふぁっ……」

「ですよね、ですよね」

「普通に耳掃除しているだけなんだが……」


 もしや、人間の耳は魔族のそれより感度が高いのだろうか?

 それにしても——。


「クリスのは、まだ狭いな」

「せ、成長期ですから……んっ」

「でもまっすぐだから掃除しやすいか」

「そ、それはよかったです……ぁ……」


 幸いにして、クリスの方はそれほど溜まってはいなかった。

 なので、俺は手早く両耳の掃除を終わらせようとする。


「あの……もうちょっと。これ、気持ちよすぎです」

「ですよね、ですよね!」

「だめだ。一度綺麗にしたら数週間から一ヶ月は待て」


 まずいことにアリスもクリスも癖になりかけている。

 昔の話だが、魔族の間で快楽目的で耳掻きが流行ったことがある。

 なにせ加減を知らない連中が多いので、やれ耳掻きしすぎで外耳炎になったとか、でかい耳垢だと思って気合を入れて掘りだしたら鼓膜だった。痛い! とか頭が痛くなる症例が続発したのだ。

 ついには『耳掻き制限令』なる愚かしい法律を施行し、無理矢理流行を収束させたのだが、その愚行を再び繰り返したくはなかった。


「じゃあ、我慢しますけど……そういえば、マリウスさんは?」

「俺には代謝がないからな、故に耳垢がたまることはな——」


 ごそっ。

 その途端、耳の奥でなにかが鳴った。


「なぜだ……」

「——ちょっと失礼します」


 硬直した俺になにかを察したらしい。

 アリスが俺の耳の中をのぞき込む。


「あー……やっぱり、塩がこびりついてます」

「潮風にあたっていると、わりとそうなりますね」


 さもありなんといった様子、クリス。


「というわけで、マリウスさん。耳掃除です!」


 俺が持っていた耳掻きを手に取り、自分の膝を叩いて膝枕を促しながら、アリス。


「ああ、たのむ……」


 こうなっては仕方がない。なぜかこちらを注目しているクリスを尻目に、俺はアリスの太ももに頭を預け耳掃除をしてもらうことにした。

 こりこり、かりかりと、塩粒が外耳道からこそげ落とされていく音が、耳の中を響いていく。

 それは、久しぶりに味わう快感だった。

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