第四十三話:俺の伝承がこんなに可愛いわけがない
■登場人物紹介
【今日のお題】
古き神:金髪碧眼の少女。外見年齢十六歳。
【気になる相手について】
「気になる相手ですって!? べ、別にアイツのことなんか……ち、ちがうわ! 気にしてなんかいないんだってば!」
天の使い:長身痩躯の男。筋肉質。外見年齢二十歳。
【気になる相手について】
「んー、そうだな。あいつのことをみていると、ちょっと放っておけなくなっちまうかな?」
「ちょっとまて!なんだこの自己紹介は!?」
「伝承に乗っ取られちゃいましたね」
〜〜〜
むかし、むかしのお話です。
あるところに、古き神がいました。
古き神は多くの民に慕われていました。
見目麗しい、女の子の姿をしていたからです。
「べ、別にあんた達のことなんか好きなんかじゃないんだからね!
で、でもあたしを崇めてくれるなら——導いてあげるんだから……」
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「そこはもう読んだんだが」
「大事なところよ。もう一回読んでも罰は当たらないわ」
罰は当たらなくても、俺の心に大打撃だった。
〜〜〜
古き神は、ちょっとよくわからない性格をしていました。
自分を崇める民の悪口をいうのに、その民の世話をするのです。
「ふんっ! あんた達なんて、あたしがいなかったらなにもできないくせに!
でも、こまったことがあったらすぐに呼びなさいよ? あたしが、助けてあげるから……」
本当に助けてくれるので、彼女を崇める民は日に日に増えていきました。
そんな民に、古き神はつぎつぎと自分の力で途方もないものを授けてきました。
家、街、そして城です。
古き神に導かれて、人はどんどん発展していきました。
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「普通にいい人ですね、マリウスさん」
「すこし性格に難があるがな」
しかも、俺だ。
〜〜〜
しかし、彼女の行いを天はよしとしませんでした。
彼女に与えられているままでは、人は堕落すると考えたのです。
そこで、天は使いをよこすことにしたのでした。
「よぉ、お前さんが古き神か?」
「な……! あ、あんた誰よ!?」
「オレか? オレは天の使いだ。お前さんの行いを諫めにやってきた。それより……」
「な、なによ」
「お前さん……おっぱいちっちゃいな」
「ななな、なんですってぇ!」
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「えらい俗な天の使いだな」
「本当ですね。初対面の女性に胸の話をするなど——失礼にも程がありますっ!」
「あああああ! ぷんすか怒るクリスちゃんかわいいいいいいいいいいいいっ!」
そこ、静かにしてくれ。
〜〜〜
古き神は、天の使いを追い出しました。
胸が小さいのは、彼女の密かな悩みだったのです。
しかし、天の使いは諦めませんでした。
彼は何度も、古き神のもとを訪れたのです。
「でもお前さん、こうしてみるとかわいいよな」
「な、なにをいいだすのよ突然に!」
「そのふわっとした金髪も、青い目も、白い肌も、オレは好きだぜ?」
「ば、ばか……そういうことは先に言いなさいよね!」
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「歴史書とはいったい」
「いったでしょう。これは歴史をベースにしたおとぎ話だと」
「おとぎ話ですら無いと思うのだが」
これはもはや、恋愛小説だろう。
〜〜〜
ある日、天の使いは古き神に尋ねました。
「なぁ、お前さんはなんで、人を助けるんだ?」
「なんでって、それはあたしが神だからよ! そう決まっているからやっているの!」
「決まっているからしているのか? それっておかしくないか?」
「おかしくないわ。あたしが神であるかぎり、まったくおかしくないの!」
「でも、お前さんには他の生き方があるんじゃないか? もっと自由に、お前さんの思うとおりに」
「う、うるさいうるさい! あんただって、天とかいうのに言われてあたしを諫めにきたんでしょっ!」
「——まぁ、そうなんだけどな」
「……あんた、なんでそんなに寂しそうな顔をしてるのよ」
「そんなことないさ」
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「このふたり、どうなっちゃうんでしょうか……」
「いや、どうなるもこうなるもな」
片方はお前のそばで今この物語を読んでいるんだが、アリス。
〜〜〜
ふたりの語らいは、そのあと何度も続きました。
その間に古き神は天の使いに惹かれていることに気付きます。
天の使いも、まんざらではなさそうでした。
しかし、人に対する扱いに関して、ふたりの意見は平行線をたどったのです。
そして、ついに——。
「決裂だ。残念だけどな」
「ふん、知っているわよ。あんたがあたしを崇めない民を集めていること。どうせ明日辺りから攻めてくるつもりなんでしょ?」
「……あぁ」
「なんでそんなに辛そうな顔するのよ! それならやめればいいじゃない!」
「それはできない。できないんだ」
「なんでよ! あたしに他の生き方があるんじゃないかっていったの、あんたなのよ!」
「——あぁ。そういやそうだったな……悪い」
「そう思うんだったら……!」
「でも、できないものはできない。そういうもんなんだ」
「こんな——こんなことになるんだったら——」
「?」
「あたし、あんたのこと好きにならなければよかった……!」
「そんな哀しいこと、いうなよ」
きがつけば、ふたりはお互いを抱きしめていました。
そしてふたりは熱い口づけを支わし——。
「やさしく、してね……」
「ああ……」
〜〜〜
「はい、いったん止めて! ここから数頁、クリスちゃんの情操教育に悪いから飛ばす飛ばす!」
「なっ! 司書長、またそうやってそこだけ私に読ませないようにするんですね! 一体何が書いてあるっていうんですか!」
「とばすぞ」
「ああっ、マリウス船長までっ!」
いや、クリスのためだけじゃない。
ここを読んだら多分俺は倒れる。
〜〜〜
古き神率いる、彼女を崇め奉る民と、天の使い率いる、彼女崇めず自由に生きる民は、それから何年も戦いを繰り広げました。
業を煮やした古き神は、総勢六万余もの軍勢をもって、天の使いを殲滅せんと最後の戦いに臨みました。
天の使いの軍勢はたったの三百。勝てるはずもありません。
しかし、天の使いは正真正銘、天から使わされていたのです。
彼の超常的な力により、古き神の軍勢は敗北しました。
そう、古き神自身も。
自らの力をふるって戦う古き神も、天の使いには敵わなかったのです。
「お前さんの負けだ」
「……殺しなさい」
「——殺しはしない。お前さんは神だ。下手に殺せばいずれ復活し、力を蓄えるだろう」
「……その通りよ。なら、どうするの?」
「簡単だ。今の世がなくなるまで封印し続ければいい」
「……は?」
「眠るんだ、古き神よ。お前さんを崇めていた民も、逆らった民も、すべてが歴史に埋もれるそのときまで。誰も彼もが争いを忘れ、全てが朽ち果てるそのときまで」
「……あんたバカじゃない?」
「——なに?」
「歴史の果てまで封印とか、バカじゃないっていったのよ! 確かにあんたは天の使いとかいって並外れた力を持っているわ。でも、それは全てが終わるそのときまで続くはずがない! あんたの封印とやらも長き時を経れば必ず綻ぶ! その時あたしは復活し——あたしを崇めてくれる民を、助けてみせる!」
しかし、天の使いは顔色をひとつ変えませんでした。
「——それでもオレは、オレの力を信じる。天の使いとしての、オレ自身の力を!」
「ふん、やりたいならやればいいじゃない。結果をあんたはみることはできないけどね」
「ああ、そうだな……。眠れ、古き神よ。全てが忘却され、全てがいなくなる、時の彼方まで」
天の使いは古き神を封印しようとします。
しかし古き神は、もはや抵抗しようとしませんでした。
かわりに、ひとことだけこう言ったのです。
「さようなら、大好きだった人……」
かくして、古き神は天の使いによって封印されました。
「ちくしょう……ちくしょう! なんで! なんでこんなことになったんだよっ!」
天の使いは三日三晩泣きました。
その涙はとどまることがなく……。
それによって、海は今の高さまで上がっていったのです。
〜〜〜
ふ。
ふは。
ふはは!
ふはははっ! ふはははは!
ハハハハハ! ハーッハッハッハァ!
「終わりか、終わったな!?」
「ええ。おつかれさま、マリウス君」
壮絶な、戦いだった。
いや、物語の中であった戦いのことではない。
この物語を読み切った、俺自身が、だ。
「とりあえず、感想を聞かせて貰えるかしら?」
「終わらせ方が非常に雑」
はっきりと、俺はそう言った。
「そ、そうね……。クリスちゃんは?」
「天の使いという男性の態度がはっきりしていないところが気になりました。好きなら好き、嫌いなら嫌いでいいと思います」
「私のことは、いっぱいちゅきでいいのよ?」
「は、はぁ……」
若干引いてはいたがヘレナ司書長のゆがんだ愛を完全に拒絶しないクリスは、本当にすごいと思う。
「では、最後に……アリスちゃんはどうかしら」
「そうですね……色々思うことがありますけれど——古い神さまが、可哀想でした」
「そうだな、可哀想だったな」
美少女とやらにされた俺が。
美少女に!
された!
俺が!
この怒りと哀しみ、しばらくは収まりそうになかった。
■本日のNGシーン
「でもお前さん、こうしてみるとかわいいよな」
「な、なにをいいだすのよ突然に!」
「そのふわっとした金髪も、青い目も、白い肌も、オレは好きだぜ?」
「ば、ばか……そういうことは先に言いなさいよね!」
「メロンパン、食うか!」
「食う!」
〜〜〜
「食うな!」




