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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第三章:提督少女

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第三十九話:疑惑のふたり

■登場人物紹介

【今日のお題】


アンドロ・マリウス:勇者に封印されていた魔王。二百三十六歳。

【夏休みがあったらどうする?】

「そうだな。雷光号の改造か」


アリス・ユーグレミア:魔王の秘書官。十四歳。

【夏休みがあったらどうする?】

「マリウスさんと、どこか行きたいですねぇ……」


二五九六番:元機動甲冑。現海賊船雷光号。鎧時はニーゴと名乗る。年齢不詳。

【夏休みがあったらどうする?】

『あー、色んな船をみてまわりてぇな』



メアリ・トリプソン:快速船の船長。十八歳。

【夏休みがあったらどうする?】

「だらける!」


ドロッセル・バッハウラウブ:メアリの秘書官。十六歳。

【夏休みがあったらどうする?】

「引きこもる」


クリス・クリスタイン:提督。護衛艦隊の司令官。十二歳。

【夏休みがあったらどうする?】

「長期の休みですか……ま、迷います。お祭りとか、行きたいなぁ……」


「最近さ」


 (あかつき)淑女(しゅくじょ)号船室で、メアリはそう言った。


「アリスとクリス、妙に仲が良くない?」

「たしかに」


 ドロッセルも同意する。

 ちなみに、当のアリスはというと、クリスのいる護衛艦隊の詰所に赴いている。

 先日クリスから依頼された、新しい仕事の詳細をつめるためだ。

 かくいう俺も、今その話をするために暁の淑女号に訪れているわけだが。

 なお二五九六番はというと、暁の淑女号の乗組員から雷光号(らいこうごう)の見学を申し込まれたので、その案内をしている。

 発掘島での一件以来、案外慕われているのが少し意外であったが、本人はまんざらでもないらしい。


「アリスとクリスのことなら、前から仲が良かったように思えるが」


 と、俺。


「いや、秘密を共有している雰囲気がある」

「そうか?」

「そう。おそらく、この前のクジラ——」

「クラゲだ」

「——クラゲの粘液を吹きかけられたふたりを検査してから」


 相変わらず、鋭い。

 暁の淑女号の頭脳だけあって、ドロッセルの推論には毎度のことながら驚かせられる。


「あれね。あたしも結構びっくりしたけど、特になんともなかったんでしょ?」

「ああ」

「その割にはかなり怒っていたように見えたが」

「昔見た文献だと、色々悪影響がでることがあると記してあったからな」

「たとえば?」

「そうだな……服だけ都合よく溶けたりするらしい」

「なにそれ」

「卑猥」

「本当にな。捕食するために可食部分以外は溶かすとか、そんなところなんだろうが」


 ふ。

 ふは。

 ふはは!

 ふははは!


 ざまあないな!

 これであの忌々しい勇者の次に忌々しいクラゲも、いかがわしい生き物として流布されるだろう。

 ——我ながら陰湿な手だと思ったが、三日三晩徹夜させた上に肩透かしを食らわせるのを見越して、あんなことをしたのだ。お互い様であろう。


「クラゲのことはさておく。問題は、検査したあと」


 眼光鋭く、ドロッセルはそう指摘してきた。


「あのとき、ふたりになにか変わったことがあったと思われるが、マリウスの所感はいかに」

「特に、思い当たることはないな」


 アリスとクリスには、検査のことは伏せてもらうように言ってある。

 いや、ふたりにあんなことをしたことではなく、疫病の部分が独り歩きしてあらぬ噂にならないようにするためだ。

 その件に関しては、アリスもクリスも同意してくれた。

 特にクリスは、護衛艦隊司令官として船団内の自警も預かっているだけに、かなり真剣に向き合ってくれ、しばらくは諜報にその噂を収集するようにしておくというほどであった。

 なお、肌を晒した——俺は直接見ていないとはいえ——件に関しては、絶対に口外しないと言ってくれた。曰く、あんな恥ずかしいことを口外するのは変態しかいないらしい。

 ……逆に言えば、この件が流布すると俺は変態魔王としての烙印が押されてしまうことになる。

 かつて散っていった魔王軍将兵六万余人のためにも、それだけは絶対に避けねばならなかった。


「本当に? マリウス、あんたまさか検査にかこつけていやらしいことしてないでしょうね?」

「するわけなかろう」

「ならいいけど……ふたりに服を脱げとか言ってない?」

「言うわけがないだろう」


 ()とは言っていない。()()()()()()を全部と言ったのだ。

 とは言え、内心は随分と核心に近づかれて焦っている。

 だが、俺は魔王。こういった腹芸はお手の物だ。


「では、触診と称して身体に触れたりは?」

「していない」

「それじゃ、逆にマリウスがあのふたりに襲われたとか」

「ありえない」


 たしかに、ふたりとも運動神経がいいので、純粋な運動技能であれば俺でも遅れを取る可能性はある。

 だが、アリスもクリスも俺に対して信頼を寄せてくれているのはよくわかっている。

 こんな俺だというのに。

 かつて人間を滅ぼさんと、後一歩のところまで追い詰めた魔王なのに。

 それは、奇跡に近いことだった。


「単に、歳が近いから仲が良くなったということなんだろう」


 そこで俺は、無難な線を持ち上げる。

 アリスは十四歳、クリスは十二歳だ。

 しかも、ふたりとも歳の近い友人は今までいなかったという。


「あー、それはありうるか」

「たしかに」


 実際にそういう要因もあるためか、メアリもドロッセルも同意してくれた。

 ならば、もうひと押し。

 俺は、切り札を開示する。


「そういえば——」

「なに?」

「思い当たることが?」

「ああ。検査の後結構汗をかいたからということで、風呂に入っていたな。ふたり一緒に」

「それか」

「それね!」


 実はこれ、俺の案ではない。

 なんと、アリスの案である。

 万一なにか噂になっていたら、そういったことを流布すれば良いといわれたのだ。

 ドロッセルもかなりの策士であるが、我が秘書官も、なかなかの策士である。


「そりゃ、仲良くなるか」

「同じ釜の飯、同じ釜の風呂という」


 ドロッセルも、深く頷く。

 聞いたことのない格言が飛び出たが、おそらく俺が封印された後に生まれたのだろう。


「まぁ、あれよね……」


 目を細めて、メアリは言う。


「あたしとドロレスみたいな幼馴染の関係って、考えてみれば珍しいのよね」

「たしかにそう。この広い海では奇跡かもしれない」


 普段はドロレスと略さないで欲しいと言うドロッセルが、そう言わなかった。

 それだけ、ふたりの関係は堅固なものなのだろう。


「——さて。納得してもらったところで、そろそろ仕事の話をするぞ」


 頃合いを見計らって、俺はそう言った。

 前置きがずいぶん長くなってしまったが、ここからが本題だ。


「例のあの忌々しいクラゲは船団をそれていったが、念のため海の下の街の様子を調査することになった」

「へぇ……!」

「それは珍しい」

「らしいな。普段は護衛艦隊内部で行なっていると聞く」


 それを俺に委任してくれたのは、まちがいなくクリスの取り計らいだろう。

 もしかすると、検査時にあの機器を突貫で用意してくれた礼をしたいと言っていたのは、このことかもしれない。


「それをあたし達に話すと言うことは、期待していいのかしら?」

「ああ。潜航艇を借りることになったのだが、空きがあるからもしよかったら——とな」

「それは興味深い」


 メアリもドロッセルも、乗り気になっている。

 彼女たちにとっても、珍しい機会なのだろう。


「ただ、お宝の発掘とはわけが違うからそこだけ気をつけてくれ。基本的に下の街のものは回収不可能だ」


 主な内容は、街全体の様子を見て、損壊箇所がないかどうかを確かめるというもの。

 報酬はお宝ではなく、護衛艦隊から現金という形で支払われることになっている。


「いいんじゃない?」

「現金支払いはありがたい。金額がわかっている分、計画が立てやすいというのもある」

「なるほどな。じゃあ、決まりか」

「ええ、よろしく頼むわ」

「ああ」


 こうして、雷光号と暁の淑女号の合同調査隊が発足することになった。

 俺にとっては念願の調査であり、非常に楽しみである。

 あの街には、いったいなにが待っているのか——。


「で、アリスとクリスとは、本当になにもなかったのね?」

「だから、なにもないといっとろーが!」

■本日のNGシーン


「例のあの忌々しいクラゲは船団をそれていったが、念のため海の下の街の様子を調査することになった」

「へぇ……!」

「それは珍しい」

「らしいな。普段は護衛艦隊内部で行なっていると聞く」


 それを俺に委任してくれたのは、まちがいなくクリスの取り計らいだろう。

 もしかすると、検査時にあの機器を突貫で用意してくれた礼をしたいと言っていたのは、このことかもしれない。


「それをあたし達に話すと言うことは、期待していいのかしら?」

「ああ。潜航艇を借りることになったのだが、空きがあるからもしよかったら——とな」

「バギーではなく?」

「大長編ドラ◯もんか! よく知っているな!」

「あのラストは涙なしでは語れない」

「わかる!」

「いや、何の話よ!?」

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