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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第五章:ドキッ! 聖女だらけの大運動会

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第三八二話:その事実を魔王は認めない


 聖女大運動会は、なしくずしのうちに終了となった。

 決勝時にスカウト部のモーリー・メメント部長が聖域探索学園ハルモニアを裏切り、地下に隠していた爛竜(らんりゅう)と共に逃走したためだ。

 その際、アリス、クリス、水師陰陽学園ミズミカドの生徒会長、アン、ドゥエ、マリス、そしてミュートに俺が巻き込まれた形になったわけだが……。


『優勝はぁ! 『アリクリリオ』と『聖女帰還組(シンデレラリターンズ)の同時優勝にゃあ!』


 一時避難させていた観客を呼び戻した上で、生徒会長のクゥ・カワミは堂々と宣言したのだった。

 どうやっているのかは知らないが、自分が搭乗していた機動甲冑の手のひらの上に乗って、拡声器で叫んでいる。

 自分の魔力で形成しているものは、基本的に乗り降りできない――再び仮想化して格納するか、展開して乗り込むかのどっちか――なのだが、おそらく手のひらの上に乗ることによって、魔力のつながりを維持しているのだろう。

 いうまでもなく、かなり器用な所業である。

 複数の的を同時に狙い撃つ戦いっぷりもそうであったが、クゥ・カワミの実力は相当なものであった。


『このあと本来はエキシビションマッチ予定だったけど、似たようなことやったので省略するにゃ! それと優勝者の皆さんにはひとこと――』


 そういってクゥ・カワミは拡声器を切ると、


「ほんとうにすいっまっせんでしたぁー!」


 拡声器使用時にも負けない音量で、謝罪したのであった。


「――生徒会管理機構の顧問、アンドロ・マリウスだ」


 巨大化――魔力の用いて仮想化していた機動甲冑。意匠を考える余裕がなかったため巨大化した俺となった――を解除して、俺は一歩進み出た。


「なんで女の子肩車してるにゃ」

「あ」

「あ」

『あ』

『あ』


 激戦をくぐり抜けていたため、すっかり忘れていた。

 あとクリスの『あ』は呆れていた声だったが、アリスの『あ』が一切感情を含んでいなかったのが、なんというか……怖い。

 慌ててミュートを下ろし、隣に立たせる。


「改めて問う、生徒会管理機構のアンドロ・マリウスだ」

「生徒会管理機構――形骸化して組織って聞いていたけど、復活していたのにゃ……!」

「つい最近、な」

「登録されている学園は――ダンタリオンとその分校かにゃ。うおっ!? ミズミカドも!?」

「えっ」

『あ、いま登録いたしました』


 アリス騎から、聞き慣れない声がした。

 どうやら生徒会長が自らの権限で登録したらしい。


『はじめまして。最終魔王(ラスト・ダークロード)アンドロ・マリウス卿。水師陰陽学園生徒会長の理桜理緒(りおうりお)です。話はクリス卿から伺いました。副生徒会長のヒナゲシが随分お世話になった上に、私不在時に色々とおせわになっていたということで、私の権限で登録いたしました』

「そうか……礼をいおう。非常に助かる」

「ちょ、ちょ、ちょっとまって。いま最終魔王(ラスト・ダークロード)っていった!?」


 クゥ・カワミが割って入った。


「モノホン!? 襲名じゃないのにゃ!?」

「遺憾ながら、最終魔王(ラスト・ダークロード)は俺自身のことだ」


 もうちょっとこう、なんかなかったのかと思う称号だが、一万年経っているのだから仕方がないのだろう。

 だが、それが吹き飛ぶようなことを、クゥ・カワミは口にした。


「超ご先祖さまをカントクに任命したあの伝説の魔王にゃ!?」


 ――ちょっとまってくれ。


「その超ご先祖さまというのは、チ・エのことか?」

「そうにゃ!」


 ふっ、と気が遠くなる。



 チ・エ。

 彼女は俺が魔王に即位する前に出会った、半神猛虎団の属している魔族の少女だった。

 当時はお互いただの魔族同士の間柄であり、俺は彼女の助言を元に公衆浴場をつくったり、逆に安く仕入れることができる軽食を求められて、臓物の串焼きを一緒に開発したこともあった。

 やがて俺が魔王に即位し、半神猛虎団の団長『ヨンバン』ナ・ンバが負傷によって引退、後任のエミ・ナンも同じく引退したとき――。


「うちでいいんですか」

「ああ」


 魔王城の謁見の間で俺は頷いた。


「半神猛虎団はもはや風前の灯火です。再起できる優秀なもんがヨンバンやってほうがええとおもいますけど」

「だからこそだ」


 初めて会ったときと比べて、チ・エは立派に成長していた。

 いまのアリスくらいだろうか。短く切りそろえた髪が、首をかしげたときにさらさらと流れる。


「チ・エよ。半神猛虎団の生き残りを率いて、タリオンの脱出船団と共に南の海をめざせ」

「ええんですか」

「ああ、いいんだ。いいんだよ。チ・エ」


 はじめて出会ったときの口調で俺はそう答える。


「ついでだ。ヨンバン兼任のまま、『カントク』の地位も、君に与えよう」

「ちょ――!? それって伝説の称号じゃ」

「今の魔王である俺が任命するんだ。誰も文句は言わないさ。そしてそれがあれば君の統治も相当楽になるだろう。半神猛虎団の復興、頼んだよ」

「――拝命致します。おおきに、陛下――いや、にいちゃん」


 ひさしぶりに、笑い合う。

 その瞬間だけは、あのときと同じであった。


「さぁ、もう行くんだ。これからここも戦場になる」

「あの……あのッ……!」

「うん」

「全部終わったら、南の海に必ずきてください。うち、頑張ってコウシエン復旧させるんで」

「うん、楽しみにしているよ」


 そんな約束を、一万年前にしてしまった。

 果たされなかったとわかったとき、チ・エは何を思ったのかはもうわからない。

 だが……。


「いまは、世襲制なのか……?」


 おそるおそる、俺はクゥ・カワミに訊く。


「いまもなにも、チ・エ超先祖さまから世襲制にきりかえにゃ!」


 無駄にそだった胸を張って、クゥ・カワミ。


「うちでちょうど六〇代目! 半神猛虎団――いまは半神猛虎にゃんの団長兼カントク! 聖地はまだみつけられていないけど、いまは聖域探索学園ハルモニアとして健在にゃ!」


 俺は空を仰いだ。


「――なった」

「にゃ?」


 クゥ・カワミが聞き返す。


「どうして、こうなった!」


 夕暮れが近づく中、俺の絶叫がこだました。

「そういやわたしは半身猛虎団とは直接交流できなかったんだよねー」

「気のいい連中でしたぞ。今は全員アイドル関係者のようですが」

「どうしてこうなったの?」

「臣にきかれましても」


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そりゃ甲子園で野球やらずにアイドル甲子園やってんだもんよ どうしてこうなった!?
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