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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第五章:ドキッ! 聖女だらけの大運動会

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第三七九話:魔法の中の器用なアリス

 膠着状態に陥っていた。

 先ほどまでの猛攻を避けるといったことはなくなったが、お互い決め手に欠けることになったので、攻撃の読みあいへと移行したためである。


「ありがとう、だいぶマシになったわ……」


 俺に肩車されている状態のミュートが、一息つきながらそういった。


「決壊することはなさそうか?」

「なんとかね」


 いままでの戦闘機動で乗り物酔いに陥っていたミュートである。

 どうやら、戦闘中に頭上で粗相される危険性はなくなったらしい。


「でもどうするのこれ」

「千日手だとしたら、こちらが有利になる」

「なんで?」

「向こうは竜公主(ドラゴンマスター)がいないだろう」

「ああ……なるほどね」


 あくまで推測になるが、爛竜(らんりゅう)は、大運動会で貯め込まれた魔力を注ぎ込んで稼働している。

 そしてそれはもう収集されていないので、一方的に減るだけだ。

 だから、長期戦を繰り広げるだけで爛竜は不利に陥っていく。

 おそらくこのまま戦い続けているだけで、通常稼働分の魔力までなくなれば、爛竜は自然と退去するだろう。

 ただ気になるのは、向こうもそれを把握しているはずである。

 何か策があるのか――それとも、


「マリウス、うしろ!」

「くっ!?」


 いまのは少し危なかった。

 氷の魔法で設置された鏡を反射して、よけたつもりの光の魔法が背後から襲いかかってきたのである。



□ □ □



「マリウス騎、爛竜の挟撃を回避しました」


 歌っているアリスさんに変わって、理緒さんがそう報告してくれました。

 いまは定位置で時折双方が当て損なった魔法を跳ね返すなり無効化するなりでいいので、私と理緒さんは比較的余裕がある状態でした。

 だからこそ、いまのうちに戦況分析とこれからのことを考えなくてはならないのですが。

「なんというか、いままで遭遇した相手とは随分と雰囲気が違いますね」

「普通、竜は魔法を使いませんから」

「つまり、ユーリエさんの轟竜の光線はただ魔力を吐き出しているだけと?」

「そういうことになります」


 なるほど、そういうことができるということは、かなり自律した判断ができるということ。

 いうなれば、老練な艦長に指揮された戦艦と同等とみていいでしょう。

 ただ――。


「なんか、違和感があるんですよね」

「クリスさんも、そう思いますか」


 理緒さんも、違和感に気づいていたようです。

 おそらく歌っているアリスさんも、気づいているのではないでしょうか。


「なんというか、まとまりがないんですよね。指揮はできているけど、その方針が定まっていないというか……」


 本当に指揮が上手い提督は、そうやって見せかけることも可能です。

 だから、それ自体が罠の可能性もあるんですが……それにしたって、


「全体としての方向性が足りないように見える? でしょうか」

「そう、それです」


 さすが理緒さん。いまいち言語化できていなかった違和感を見事に指摘してくれました。

「あれが本当に最も賢い竜なのでしょうか? いまのところ、そうはみえないのですが――」

「そりゃそうだよ」

「リブラさん!? いままでいったいどこに?」

「ずっと帽子の中にいたじゃん。気づいてなかった? ――それよりいまは、あいつでしょ」


 リブラさんのいうとおりでした。


「あいつさ、首がひとつ足りない」

「えっ?」

「記録上の爛竜はね。三つ首なんだよ」


 み、三つ首?


「そう、三つ首。真ん中の首が命令して、左右の首が攻撃したり、回避したりする。よーくみてみて。あいつ、ちょっとひょろひょろでしょ」

「そういわれると、そうかもしれませんが……」

「本当はもっとがっしりしているの。真ん中の首と一緒に胴体の中央部分がないからひょろ長くみえるわけ。本来なら、左右の首を腕代わりに使うこともできるんだよ」

「そこまで知っている、貴方はいったい何者ですか?」


 理緒さんが、当然いえば当然の質問をしました。


「もしや、噂されている図書館塔の主……?」

「いや……アイツと一緒にされるのは、ちょっといやかな……」


 図書館塔を管理している自律思考結晶体、マッケンⅢVer.OREの存在は、どうやら他校にも噂として伝えられているようでした。

 おそらくですが、ダンタリオンから様々な学園が独立した際に、実在している話が噂へと変化していったのでしょう。


「端的にいうと、記憶喪失の自律思考体だよ。なんのそれかは、よくわかっていないけど」

「危険な存在ではありませんよ。それは私が保証します」

「そうですか……たしかに、いま対処すべきは爛竜ですね」

『あの、そのことなんですけど』

「「アリスさん!?」」


 私と理緒さんが、ほぼ同時に叫んでしまいました。

 アリスさんが歌いながら、手信号で質問してきたからです。

 いや、もちろん振り付けの一種として使えなくもないとは思いますけどまさか会話に参加できるほど器用だとは思いませんでした……!


『天井のハルモニア生徒会長さんと連絡をとって、連携してみてはどうしょうか?』

「さきほどマリウス艦長がおなじことをやったからできると思いますけど、なにをどう連携するんですか?」

『いざというときに、アンさん達と同じ歌を唄って同期する作戦がありましたよね』

「確かにありましたが……」


 それは、どうしようもなくなったときにマリウス艦長が考えた強硬手段で、私たちとアンさんたちが同時に同じ歌を唄い、機関を同期させてから同じ動作をするというものです。 マリウス艦長曰く、魔力機関は完全同期させると、ひとつの大きな機関として扱うことができるそうで――詳しい仕組みはわかりませんが、大幅に出力を上げられるのだとか。

 つまり、アリスさんはそれを二組でやるのではなく、三組でやろうといっているのでした。


「アンさんの組の方はもとからそれを想定していたからいいと思いますが、生徒会長の方はいいんですか? 元々は彼女が今回の騒動の原因ですよ?」

『確かにそうですけれど、いまはマリウスさんを助けることが先です』


 アリスさんは、即答しました。


「――わかりました。理緒さん、その方針でいいですか?」

「私も、自体を打開する方を優先するべきだと思いますので、異議はありません。クゥ・カワミ生徒会長には、あとで存分に反省してもらうとしましょう。それよりも、クリスさん。貴方はそれでいいのですか?」


 私ですか? 私は――。


「もちろん、賛成です」


 だって、アリスさんの立案した作戦、成功させたいじゃないですか。

「んんんん……んんんんんん?」

「何を踊りあそばしておられます?」

「いや、唄いながら手信号ってできる?」

「臣はできませぬ」


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