第三七四話:タイムオーバー
モーリーの魔法を無効化する刃の正体は、魔力のゆがみを固形化させたものであった。
これが空間のゆがみが物質をなんでも吸い込むように――自分で言うのもなんだが、それを目撃する方も希少ではあるが――魔法をなんでも吸い込んでいたというわけだ。
つくづく、厄介な武器である。
固形化してあるため物理的に刃として機能しているため斬れば肉を断つことができるし、腕が立てば骨も斬れるだろう。
そして、魔法を吸収する。
これが魔族には、普通に斬られるより痛い。
魔族には多かれ少なかれ、体内を魔力が巡っている。
それを吸い取られでもしたら、たまらない。
人間で例えるなら、斬られた瞬間血液をごっそりと吸い取られている感触に近い。
初めて相対したときモーリーは存在ごとなくなると警告していたが、まさにその通りの代物というわけだ。
そんな武器を手に、いま俺とモーリーは斬り合っている。
お互い一撃でも当たれば致命傷にもなりかねない状況下でのこれは、はたからみれば狂気の沙汰にしかみえないだろう。
「くっ……やっぱり斬り合いは向こうの方が……!」
両手鎌を守勢として振るいながら、モーリーが毒づく。
お互い、素手でも届くような間合いである。
ここまでくると鎌よりも剣の方が小回りが効いて来る上に、剣を握ってきた年数がものをいうようになる。
身もふたもない言い方をすれば、俺が有利になっているということだ。
「もう一度言おうか。いまなら逃げても追わないが……」
一度強く打ち込んだ後、光帯剣改を構えなおして、俺。
それに対してモーリーは、小さく鼻を鳴らしただけだった。
「そうか、なら――」
俺はいままでよりも強く踏み込んで斬りかかる。
対するモーリーは逆にいままでよく強く飛びすさって距離を置くと、両手鎌の柄を握り直した。
途端、婉曲していた鎌の刃が消失し、柄そのものがやや短くなる。
そしてモーリーは下向きになっていた直刃を回転させて、正面に構え直した。
長々と述べてしまったが、要は両手鎌から俺と同じ両手剣に変形させたのである。
正直に言ってしまうと、ちょっと欲しくなる機構であった。
俺も、次に光帯剣を改造するならこういう変形機構を――!?
突如受けた突きをかろうじてかわす。これは――!
「なるほど、貴様元は剣を得手としていたな!?」
「――これだから、古代の魔王は」
「賞賛と受け取っておこう」
返事の代わりに再び鋭い突きが来た。
どうやらモーリーはこれ以上話をするつもりはないらしい。
俺は光帯剣改の刃でモーリーの刃を弾き、その反動を利用して回転斬りを仕掛ける。
しかしそれを予想していたのか、モーリーは跳んで避けると自分の剣の刃をあえて回転斬りにあてて、単純な跳躍を複雑な回避機動に変えてみせる。
「貴様、これをどこで!?」
モーリーは、もはや答えなかった。
いまのは封印される前の俺が、剣の教書で読んだ上級空中機動である。
確か書いたのは、俺より数代前の魔王であったはずだから、モーリーが直接教わることはない。
ということは、ここにはかなり古い文献が残っている?
だが、ミュートの報告にそのようなことは――。
「今度は三段斬りだと!?」
上段中段下段と立て続けに斬撃を放ち広範囲を同時攻撃する剣技なのだが、こちらも同じく、俺が封印される前の剣技である。
「モーリー、貴様この剣技をどこで習った……!」
魔法の刃が、激しく打ち合う。
これが実体をもった剣であったら、とうの昔に刃が駄目になっていただろう。
「モーリー……!」
モーリーは依然答えない。もう俺を倒すことに、全力で集中しているからだ。
再び魔法の刃がぶつかりあい、今度はつばぜり合いになる。
体格差があるというのに、その膂力の差は思った以上に少なく、俺は内心舌を巻き――。
「うぐっ!?」
モーリーが突然悲鳴をあげ、崩れ落ちた。
俺は慌てて刃を引き、同時にモーリーの刃も避ける。
「――悪いわね」
モーリーの背後、十数歩のところでミュートが銃を構えていた。
複製した実弾を発射するためのものではない。
俺が護身用に渡した、相手を麻痺させる雷の魔法が込められた銃である。
「ば、ばかな……! 魔法の類いはたとえ背後からでも刀身に吸収されるはずなんですけど……!」
しゃべるのもきついはずのなのに、モーリーがうめく。
「それは、俺と貴様の刃が同じ構成の魔法だったら、だろう」
「それは……どういう……?」
首だけ上にあげ、モーリーが訊く。その目には、未だに敵意の火が灯っていた。
「この刃は貴様の魔法のゆがみではない、魔法のゆがみに見せかけて、別の波長にしたものだ」
仮に同じ魔法の刀身でモーリーを斬って、致命傷を負わせるわけにはいかない。
だから俺はモーリーの刀身を中和させる魔法を考案し、さらにはそれを魔法のゆがみにみせることで、同じ魔法を使っているようにモーリーに錯覚させたというわけだ。
「なんてこと……つまり――」
「そう。貴様の魔法を吸収する魔法は阻害される。後は後ろから雷の魔法なりなんなりで無効化すればいい」
「最初から……最後まで、ふたりで連携することが前提だったわけですか……」
そこで限界だったのだろう。モーリーの頭が力なく垂れる。
もともと即時で気絶する出力の雷の魔法を浴びたのだ。たいした精神力だと褒めるべきだろう。
「さて、後はあれか」
「どうするのよ、なんかすごいことになっているけど」
すでに魔力の渦は荒れ狂い、ちょっとした嵐のようになっている。
並の魔族では、到底制御できまい。
「とりあえず制御権をもらおうか」
解析をかけるべく、かざしたときである。
『警告。制御系においてモーリーメメント以外の魔力を検知しました。これより当貯蔵庫の制御系一切を停止。魔力は規定量のため制御なしで爛竜起動します』
――しまったっ! 罠か!
しかも四大竜のひとつ、爛竜だと!?
「ふひ……ちょっとは意趣返しできましたかね……」
驚異的な精神力で目を覚ましたモーリーが、笑う。
「そうです。この貯蔵庫の中にいるのは、爛竜の一部です」
「一部?」
どういうことだと訊く前に、地面が揺れた。
一切の制御を廃した魔力貯蔵庫――を模したなにか――は、荒れ狂う魔力を吸収。
直後、下から吹き上げるようにそれごと上昇をはじめたのである。
「いかん! アリス! アン!」
「ふふふ……上のみなさん、無事だといいですね……!」
ある程度は備えてはある。
だが、あの規格外の四大竜がひとつとなると……!
「マリウス!」
ミュートが叫ぶ。
偽貯蔵庫が天井にぶちあたり、天井が崩落してきたのだ。
「くっ! ミュート、ついてこい!」
全身を魔法で強化して、落ちてくるがれきを駆け上がる。
ミュートも超加速の魔法で着いてくるのが気配でわかった。
大きながれきが、モーリーが倒れている場所へと落下する。
慌てて魔法で吹き飛ばそうとするが――そこにはもう、誰もいなかった。
「阪神タイガース、優勝おめでとうにゃああ! 半神猛虎にゃんの末裔として、こんなにうれしいことはないにゃああああ!」
「後書き乗っ取られましたぞ」
「まぁこういうときくらいはいいでしょ。っていうか、やっぱり半神猛虎団の子孫なんだ……マリウスくん、頭抱えそう……」




