第三七二話:魔力が止まらない!
『両者、まさかの空中戦っ! こんな機能積んでいたとはおどろきにゃ!』
『あー……騎体の仕様上ありえることだったんで、一応自動動作の中に組み込んでおいたっす。それよりそれをちゃんと歌と踊りとポーズで流れるように制御できているのがすごいっすね。普通はもっと単調になるはずっすよこれ』
『アラーキィ部長の先見の明に感謝にゃ! 両者、めっちゃ派手な空中戦を繰り広げているにゃ!』
『念のため、会場を球形にしておいてよかったっすね』
『ほんとにゃあ!』
『ちなみに観客席との間には頑丈な障壁をはっています。空中戦になったので観客席に飛び込んでくるのでは……と思いの方もいると思いますが、そんなことにはならないのでご安心ください』
『ダイブツガワ部長、ナイスフォローにゃ! で、どっちがいま有利なん?』
『両者拮抗です。流れている曲をよく聞いてみてください』
『こ、これは……ふたつの曲がまるでひとつの曲のように聞こえるにゃ!?』
『技量が拮抗しているんです。だから会場の判定装置が両方の曲を同じ音量で流している……そして、片方がサビに入ると、もう片方が曲調を落としています。だから、まるで歌劇のように聞こえるんですよ』
『そんなこと可能なのかにゃ!?』
『普通は無理ですね』
□ □ □
そう。普通は無理である。
だから俺を通して、アリスたち、アンたちとそれぞれ手紙のやりとりでおおまかな枠組みを決めておいたのだ。
ちなみに、三人同時に歌って踊ってポーズを取れば出力が三倍になることを発見したのはクリスである。
おそらくは機能として正常なものであるが、操縦する側が相当練習を積まないとできないから放置されているという見解も、実況を聞く限りではだいたいあっていた。
さらに、お互いの曲が途切れないようになっているため出力の上がり下がりがほとんどない。
結果として、いままで6倍の魔力量が定期的に流れ込んだ来たわけである。
当然ながら地下の魔力貯蔵庫――自称・運命収束偏向器――は無事では済まない。
が……。
「ほう、接続を切ってあふれた魔力を巡廻させ、少しずつ吸収していく方式に切り替えたのか。よくできたな」
「――魔王!」
鎌を掲げ、膨大な魔力を制御していたモーリーが振り返った。
正面には魔力貯蔵庫。みためは超超大型の魔力機関である。
仮にそれだとしたら、中枢船はおろかちょっとした大陸規模の船なら動かせそうな代物であった。
もちろん、こんなところにあるべきものではないし、そもそも存在してはならない規模のものだ。
ここから吐き出させる出力を何に扱うというのか。
まさか――。
「まさか本当に、運命を変える装置だといいたいのか?」
「そうだとしたら、どうします? あの勇者との会戦で勝ったことにしたい……ですか?」
「――貴様、どこでそれを」
「記録は残っているんですよ。あるところには……ですけど」
掲げていた鎌を、こちらに向ける。
すでに切り離した膨大な魔力は、巨大な貯蔵庫の上で荒れ狂う渦と化している。
だが、この形態ならしばらくはもつだろう。
どうやらその間に、モーリーとやらは俺を始末したいらしい。
「前回警告したとおりです。この刃には一切の魔法が通用しません。貴方ならそれがわかるでしょう。いまならここを立ち去っても、モーリーは貴方を追いません」
「残念だが、俺の目的はそれをぶち壊すことだ」
「――っ。アリスさん達は即刻お返しします。それでも……ですか?」
「そうだとも。貴様は既にまちがいを犯している」
懐に手を入れながら、俺は一歩あゆみ寄る。
「過ちは、たださなくてはな」
「――くっ!」
モーリーが鎌を振りかぶり、踏み込んできた。
俺は懐から手を出す――前に、一発の銃声が鳴り響く。
おどろくべきに、モーリーはその銃弾を鎌で斬り落としていた。
「残念ね、二対一よ」
「元アイアンワークスの諜報員ですか……!」
モーリーが睨む先、俺の斜め後方からミュートが姿を現していた。
手にしているのは回転弾倉型の拳銃である。
これならば、光帯剣のように刀身が鎌に吸収されることはない。
「さて、こちらからの提案だ。いまなら逃げても後を追わないが……」
意趣返しも兼ねて、俺はそう尋ねる。
その間に懐から出したのは、ミュートと同じ回転弾倉式の拳銃。
以前ユーリエが持ち出したものを解析し、複製しておいたのだ。
「さぁ、どうする?」
それに対して、モーリーは鼻を鳴らすと。
「もちろん、お断りですけど!」
こうして、天井での決勝戦と同時に、地下での決戦がはじまった。
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