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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第三章:提督少女

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第三十七話:船団近海巨大生物撃退戦

■登場人物紹介

【今日のお題】


アンドロ・マリウス:勇者に封印されていた魔王。二百三十六歳。

【苦手なもの】

「話を聞かない者と、理屈が通じない者だ」


アリス・ユーグレミア:魔王の秘書官。十四歳。

【苦手なもの】

「色々ありますけど、気持ち悪い方の海賊でしょうか」


二五九六番:元機動甲冑。現海賊船雷光号。鎧時はニーゴと名乗る。年齢不詳。

【苦手なもの】

『嬢ちゃんと一緒。よえーのが多いけどなんか苦手』



メアリ・トリプソン:快速船の船長。十八歳。

【苦手なもの】

「壊血病予防のライムジュース。酸っぱすぎるのよ、あれ!」


ドロッセル・バッハウラウブ:メアリの秘書官。十六歳。

【苦手なもの】

「図書館で騒ぐ偉い人の子供」


クリス・クリスタイン:提督。護衛艦隊の司令官。十二歳。

【苦手なもの】

「生魚についていくる薬味がちょっと……辛かったり苦かったりして苦手です。え? 子供舌ですって!? そ、そんなことありませんっ!

『うおおおおおおおお!』


 傾く船内で、二五九六番が吠える。

 機関は最大出力、傾斜の具合はきつめの坂道といったところだろうか。

 そして、相手はぴくりとも動かない。


 今、雷光号(らいこうごう)は船団に向かって直進中の超巨大なクラゲに横付けして、全力で()()している。


 なぜそんな効率的でない方法で推進しているのかというと……。



 〜〜〜


「いくぞ! 鯨だかクラゲだか知らんが、この先は進ません!」

『よっしゃあ! 全力で押し出してやらあ!』


 ずぷっ!

 むぷぷぷぷっ!


「……な」

「……うわ」

『——た、大将ぉ……』

「……機関そのまま。全速後退」



 〜〜〜


 直進で押し出そうとすると、聞くに耐えない音を立てて、船首がゼリー状の身体にめり込んでしまうのだ。

 それゆえ、現在は横から押し出す形で接触する面積を広げて対応しているのだが……。

 率直に言って、効率がかなり悪い。

 船は、横に進むのが苦手だからだ。

 いかに元人型、変異して半船半人型であった機動甲冑であろうと、今は改修を重ねて船に近い形となっている。

 それゆえ、横付けなどのちょっとした動作ならともかく、機関全力で横に押し出す動作などは、雷光号にとっても不得手であったのだ。


 それに、横付けで押し出すというのは、複数の船で行う場合正面から押し出す場合と比べ、面積的に船の数が限られてしまう。

 いま、この巨大なクラゲを横付けで推しているのは俺たちの雷光号と、クリス座乗の『バスター』、そして僚艦の『スラッシャー』のみで、『スレイヤー』と『エクスキュースナー』は、反対側に回り込んで別の作業に当たっていた。


『ふおおおおおおおおおお!』


 二五九六番が、さらに吠える。

 だが、それと同時にとうとう船体が軋み始めた。

 さらには、船体の傾斜もより激しくなる。


「マリウスさん、これ以上は……!」


 座席にしがみつく形で、アリスが提言した。

 悔しいが、致し方あるまい。


「雷光号、機関出力を下げろ。一時離脱する。アリス、発光信号。『作業一時中止を提案する』」

「了解しました」

『ちっくしょー!』


 ものすごく悔しそうに、二五九六番が叫ぶ。



 ■ ■ ■



「事態は、思ったより深刻です」


 護衛艦隊旗艦『バスター』作戦会議室で、司令官兼議長を務めるクリスはそう言い切った。


「『バスター』『スラッシャー』そして雷光号で押している間、『スレイヤー』『エクスキュースナー』が反対側に回り込んで銛を試してみたんですが……」

「すぐに抜けたのだな」

「はい……」


 押し出しそうするだけで船首がめり込むのだ。銛では容易にひっかかるまい。


「それなら逆に、中枢船をあのクジラと正対させては?」


『スレイヤー』の艦長が、そう提案する。


「船首がめり込むのでしたら、船体にはたいして損害は起こらないでしょう」

「確かにその通りです。ですが、その上の街がただではすみません」


 俺と同じ結論に達していたのだろう、クリスは的確にその提案を却下した。


「そして中枢船の真下、海の下の街は確実に被害を被るでしょう。故に、針路を変更させるという初期の案を変えることはしません」


 俺も、同意見だった。


「ではやはり、主砲で処分するしかないのでは?」


 今度は『エクスキュースナー』の艦長が、そう発言する。


「お待ちを。クジラはある程度の破片から増殖できると聞き及んでおります。処分したつもりが、複数のクジラに囲まれていた——そういう事態は避けるべきでは」


『スラッシャー』の艦長がそう反論した。前の艦長ふたりが中年男性である中、クリスと歳は離れているものの、女性である。


「大型艦四隻、そして雷光号の火力であれば完全殲滅も可能でしょう。でも……」


 悩ましげに、クリスがそう呟く。確証が取れればそうせざると得ないと理解しているのだろう。

 だが、万一そうでない場合。

 それは『スラッシャー』の艦長が指摘した通りになる。


「なにか、巨大なすくい網でもあればいいんですよね……」


 同席していたアリスが、ぽつりと呟く。


「そうだな。だが、網があったとしてもそれを牽引するにはかなり丈夫な綱が必要だろうな」

「丈夫な綱……船の錨に使う鎖ぐらいでしょうか」

「そうだな。それなら——錨だと!?」

「どうかしましたか、マリウス船長」


 思わず声を大きくしてしまった俺に、クリスが声をかける。


「錨だ。錨を使うんだ」

「錨を、どうするんですか?」

「まず錨を船上にあげる。次に左右の錨に丈夫な網を張り渡す。そして最後に左右同時に放物線を描くように射出させるんだ。そうすると、錨の自重でく、ク——クジラの身体に錨がめり込む。あとは左右渡した網がひっかっかって、そのままアレをひっぱるというわけだ」


 クラゲをクジラと呼ぶのは、屈辱の極みであった。

 だが、今はそれよりも優先するべき事がある。


「なるほど……しかし錨は下ろすものです。射出するものではありません」

「俺であれば、即席になるが射出装置を作れる」


 場が静まり返った。


「マリウス船長」

「はい」


 声音を厳格な司令官のものにしたクリスに、俺も敬意を込めて返事をする。


「何時間でできますか」

「三時間ほどあれば」

「三時間——ですか」


 クリスの隣に立っていた参謀が、何かを書きつけられた紙を渡す。

 おそらく、今俺が話している間に作戦に成否に関わる計算をしたのだろう。

 それを見て、クリスは顔をあげた。


「わかりました。すぐに取り掛かってください」

「了解致しました」

「それと、全艦に通達します。作業を行いやすいよう、横並びにぴったりと並んでください。作業の詳細は、雷光号マリウス船長の指示に従うように!」



 ■ ■ ■



 こうして、馬鹿でかいクラゲを牽引するための装置を急遽作ることになった。

 雷光号が作業船となり、四隻の大型艦、その艦首部分を次々と改造していく。


「すごいことになってきましたね」


 旗艦『バスター』の艦首で、作業を見守っていたクリスがそう呟いた。

 危険だということで、他の乗組員は立ち入り禁止にしてもらっている。

 その実は、俺の魔法で超高速改造を行っているのを見せないためであった。

 もちろん、クリスが立ち入っている間は、魔法の魔の字も見せてはいないが。


「まもなく『バスター』の改造を終える。見てくれは悪いが、しばらくは我慢してくれ」

「構いません。あれが中枢船に当たらないようにするのが、第一の目標ですから」


 そう言ってもらえると、ありがたかった。

 現在『バスター』の船首には、手作りの迫撃砲が二門、立ち並んでいる。先頭に突き刺さっているのは、錨——ではなく、錨を運ぶための弾頭で、その弾頭の上に鎖に繋がれたままの錨が設えられている——で、さらには左右を巨大な網でつなげてある。

 まさにアリスが言った、巨大なすくい網が形になりつつあった。

 ちなみに、他の三隻はすでに改造が済んでいる。


「これでよし。アリス」

「はい。『投射準備、開始せよ』ですね」


 俺と一緒に『バスター』に移乗していたアリスが、携帯式発光信号機——とはいえ大きな背負い箱ほどの大きさがある——で、信号を送る。

 それは『バスター』の艦橋に送られたあと、各艦の艦橋へ転送。しばらくたって投射準備よしの連絡が帰ってきた。


「では——」


 クリスが、腰に下げていた信号弾専用の銃を空に構える。

 司令官が艦橋を離れるなどして発光信号が使えないとき、あるいは緊急で指示を出すときに使うものらしい。


「行きますよ!」


 クリスが、信号弾を真上に発砲した。

 それは光の尾を引いて、赤く発光する。

 その直後、俺は『バスター』の錨を投射した。

 ほぼ同時に『スラッシャー』『スレイヤー』『エクスキュースナー』も錨を投射する。

 それらは狙い誤らず放物線を描き——次々とクラゲに突き刺さったのであった。


「雷光号!」


 クラゲを挟んで反対側で観測している雷光号に、確認を取る。


『うまくいっているみたいだぜ!』

「よし。行けるぞ、クリス」

「わかりました。全艦、後進開始!」

「了解です!」


 クリスの指示をアリスが発光信号で送り大型艦四隻が一斉に後進を開始する。

 錨の鎖がぐんと伸び、ついにはまっすぐ張り——速力が一瞬落ちる。

 だが——。


『大将! クラゲが少しずつずれはじめた。行けてるぜ!』

「こちらでも確認した!」


 艦橋から身を乗り出し、固唾をのんで見守っていた乗組員達が、歓声を上げる。


『大将、もうちょいだ。もうちょいで衝突進路から完全にずれるぜ』

「よし、あと少し牽引して——」


 そのときだった。


“モハヤ聞コエヌデアロウガ、伝エテオコウ。小サキ者共ヨ、見事デアル”


 突如、頭の中に声が響き渡った。


 ——これは、念話!?


 これはかつて、俺達魔族が通信用に使っていた魔法だ。

 思わず、辺りを見回す。

 発信しているのは——クラゲ?


“貴様、知性があるのか!?”

“ホウ、コノ感触……我ヲ創造シタ魔族ガ、マダコノ海ノ上ニイルトハ”

”創造だと……貴様、作られた生物か!”

”イカニモ。五十年ニ一度、人類ノ知恵ヲ裁定スルモノデアル”

”裁定——いや、それはいい。貴様、誰に作られた。答えろ!”

”ソレヲ答エルコトハ、デキヌ。創造主トノ契約ユエナ”

”知るか。話してもらうぞ、力ずくでもな!”

”ホウ……コレデモカ?”


 突如、海を割って二本の触手が飛び出てきた。

 反射的に剣を抜く。

 だが、触手は迫ることはなく——。


 びゅっ。

 びゅるっ。


「きゃあっ!」

「んぷぅ!?」


 その先端から、アリスとクリスにゼリー状の粘液をぶちまけたのであった。


「アリス! クリス!」

「だ、大丈夫です……!」

「うぅ……しょっぱい……」


“フゥ……マンゾクマンゾク☆”


 ふ、


 ふ、


 ふ、


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!」


”——デハサラバダ”


 突如、クラゲが進行方向を変えた。

 しかもご丁寧に、触手で鎖を引きちぎって。


「雷光号っ! 今乗り移るからただちに追跡——」


”ヨイノカ? 確カ蚊ヲ媒介二シタ病ヲ作ッタノハ、ソナタラ魔族デアッタト記憶シテイルガ”


「——貴様ぁっ……!」


 はらわたが、煮えくりかえった。


 このクラゲ、アリスとクリスに粘液をふきかけたことに飽き足らず、それを人質代わりにするというのか!


”デハ、マタ逢オウ。生キ残リシ魔族ヨ……”


 この声音に、どこか愉悦の響きを滲ませて。

 クラゲは、海面下へと消えていった。


「おのれ……おのれぇ!」


 両手を握りしめる。

 ここまで俺をコケにするとは、あの忌々しい勇者以来だ!


「マリウスさん、何があったんですか」


 駆けつけた乗組員からもらったタオルで、まずはクリスにこびりついたゼリー状の粘液を拭きとりながら、アリスがそう訊いてくる。

 自分も、ひどいめにあったというのに。


「あとで、詳しく話す。まずは——」


 忌々しいが、やらなければならないことができた。

 念のための、身体検査だ。

“貴様、知性があるのか!?”

“ホウ、コノ感触……我ヲ創造シタ魔族ガ、マダコノ海ノ上ニイルトハ”

”創造だと……貴様、作られた生物か!”

”イカニモ。五十年ニ一度、人類ノ知恵ヲ裁定スルモノデアル”

”裁定——いや、それはいい。貴様、誰に作られた。答えろ!”

”当テテミナ! はわい旅行ヲぷれぜんとシテヤルゼ!”

”ヒュー!”

”ヒュー!”

「あの……マリウスさんとそこのクラゲ、実は仲が良い——です?」

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