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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第五章:ドキッ! 聖女だらけの大運動会

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第三六五話:地下の施設を吹っ飛ばせ、牛歩戦術で。


「行ってきたわよー」

「本当に、済まないな……」


 俺が書いた――そして暗号化した――手紙をアリスたち、アンたちに届けてきたミュートは、けろっとしていた。

 厳重に隔離されたふたつの地区に手紙を届けたあと、再度向かったのにもかかわらず……だ。


「ま、これくらいならまだ楽な方よ。向こうで泊まったり、潜入して一緒に暮らすよりずっとまし」

「だろうな……」


 それでも感情を表に出さす、あくまで社交的に過ごす――。

 並大抵の胆力ではできないことであった。


「さて——」


 ふたりからの、手紙を読む。

 こちらの意図を汲み取っているとは思うが、念のため——。


「ふはは!」

「どうしたのよ、愉快なことでも書いてあった?」

「そうだな。ある意味愉快だ」


 俺はふたつの手紙をミュートに見せる。

 クリスの方はこの学園の食事について、アンの方はこの学園の歴代生徒会長のことを書いているように見えるが、実態は違う。

 それぞれが、俺の書いた手紙になっているのであった。


「ええと……ふたりとも――じゃなくて2チームとも、牛歩戦術は了解しているのね。それで……ばれないように、対戦毎に出力をあげていくと……ついでに相手にも見せ場を造ってドラマティックに演出……?」

「要は対戦相手もその気にさせて、全力で戦ってもらおうという考えだ」


 そこまで俺は至れなかったが、ふたりとも分野は違うとはいえそれぞれの頂点に君臨する存在であるし、実際に大運動会に参加しているわけである。

 それであれば、間違いのない話であろう。


「なかなかリスキーな橋を渡るわね……」


 解読が終わった手紙を手でひらひらさせて、ミュート。


「そうだが、やってやれないこともないと判断したのだろう」


 それだけの力量が、どちらにもある。


「あとは、翌日の二回戦の推移を見守るだけだな」

「まぁ、やるだけの根回しは済んだものね……」


 欲を言えば向こうの生徒会の様子を知りたかったが、それはまた追々でいいだろう。




 ――翌日。

 第二回戦、第一試合。


『きゃあっ!?』


 聞いたことのない悲鳴をクリスがあげた。


『クリスちゃん!』


 アリスが歌うのをやめた、クリスを助け起こそうとする。


『だめですアリスさん、歌うのをやめてはいけません!』

『で、でも……』

『勝ちましょう! 私達は聖女(アイドル)なんですからっ! そして優勝して、運命収束偏向器に願うんです。私達の、夢の舞台を作ろうって!』

『クリスちゃん……! うん。わたし、がんばります!』

『その息ですよ、アリスさん!』


 そんな感じで、アリス、クリス、そしてミズミカド生徒会長の組は勝利した。

 一見すると、ぎりぎりの戦いの中で一筋の光明を掴み取った、そんな感じの戦い方であった。


「マリウス……」


 ずっと観客席で応援していたミュートが、小声で呟く。


「ちょっとその――クサくない?」


 同意である。

 同意であるが、俺の立場上否定はできない。

 なので……。


「場が盛り上がったので、よしとしよう」


 半ばむりやりそう答える、俺であった。

「これって始まりは強く、あとは流れでってやつ?」

「おやめくだされ」

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