第三六四話:みえてきたカラクリと、魔王の悪だくみ
「え、わたしがジークなんとかにでてくる秘書官さんと同じ立ち位置? でもわたし、別荘に引きこもってイチャイチャするようならマリウスさんのお尻蹴っ飛ばしますけど」
「なんかアレなアレにもすぐに気づいて対処できそうですね……」
第一回戦全ての試合が終わり、その日はお開きとなった。
当然ながら、俺たちとアンたち、そしてアリスたちは当然のことながらそれぞれ隔絶された状態になる。
「おつかれさま。分析?」
「ああ」
――が、ミュートにとっては越えられない壁ではなかったらしい。
俺が託した暗号化された手紙をそれぞれに渡した上でそれぞれから返信を受け取り戻ってきたというわけだ。
雷光号、操縦室。
アリスやクリスがいないものの、ミュートやユーリエがいるため閑散としている気配はない。
しかし、その雰囲気は以前よりも緊張感をはらんでいるものになっていた。
もっとも緊切の問題がそのアリスとクリスの奪還というものであるから、空気が張り詰めているのも致し方ないことであったが……。
「なにこれ、魔力の流れ?」
正面の表示板に浮かび上がる図解を眺めて、ミュート。
「そうだ。主に試合終了後に流れ込んでいるものを計測した」
「いつのまに……」
「最初から気になっていたものでな」
人間でも魔族でも、歌声だけで魔力を発生させ、特定の動作で攻撃、回避を行う機動甲冑。
それだけで開発者と責任者を拉致してでも詳細を尋ねたいものであったが、いまはそれよりも気になるものがある。
ミュートがいましがた呟いた、魔力の流れだ。
「なにこれ……」
「見ての通り、試合終了後に負けた方は九割、勝った方も二割の魔力がどこかにいっている」
「負けた方はともかく、勝った方は消費したぶんじゃないの?」
「いや、歌でいくらでも補充できることを思い出してくれ」
この機動甲冑、ある意味燃費がとてもいい。
もっとも俺のように魔力がほぼ無制限にある者にとっては、いちいち歌わなくてはならないという制約があったが。
「内部の蓄積状況も見てみたが、歌によって発生した魔力を四肢の駆動にもっていく際、必要最低限の稼働は継続できるようある程度貯め込む機能があることもわかっている。それを差し引いても、魔力が二割、試合中にどこかに飛散しているというわけだ」
「どこかって、どこによ?」
「おそらくは……会場の真下」
ミュートですら侵入できない、厳重に封印が施された区画。
そこにあるのは、おそらく――。
「ここにおそらく、所在不明の四大竜、爛竜がいるものと思われる」
「じゃあなに? この大会そのものがその竜を呼び起こす儀式みたいなものってわけ?」
「おそらくは――な」
気になるのは轟竜のユーリエ、麒竜のベ・スターも起動時にそのような儀式を行っていないということである。
「ここからは推測になるが、むりやり竜公主を決めさせようとしているのかもしれんな」
「莫大な魔力で押さえつけるってこと? そんなことできるの?」
「できるかどうかはわからんが、負けた方の九割、勝った方の二割の魔力量がだいたいこれくらいだ」
表示板の別の区画に、おおまかな魔力量を図表式で表示させる。
「ちょ、なにこれ!?」
「すでに一回戦の八試合分が貯まっているが……これだけでアイアンワークスの巨大飛行船を一年間は稼働できる計算だな。これに二回戦の四試合、準決勝の二試合、そして決勝の一試合が加わることになる」
「嘘でしょ……そんなのを一カ所に貯蔵したら、あの広さ程度の場所でも保たなくなるわよ!?」
保たなくなる? 保たなくなる……なるほど、ならば。
「フハハハハ、それはいいことを聞いた」
航海図を描く机の上に常備された紙にこれからの内容を書き付けながら、俺は久しぶりに悪巧み時にありがちな笑みを浮かべる。
「ミュート、すまないがもう一度アリスたち、アンたちに手紙を出してくれ」
「いいけど……何をするつもりなのよ」
ある程度想像はついているのだろう。だが、それを確認するようにミュートはそう訊く。
「なに、これからの試合はなるべく長引かせるように、そしてもし決勝でアリスたちとアンたちがぶつかるようになった場合は――」
喉を鳴らして笑いながら、俺は続ける。
「千日手を行ってひたすら魔力を放出させる。地下の貯蔵庫がどこまで耐えられるのか、見物よな?」
「つまりマリウスくん、ドカンとやりたいわけ?」
「そのようですな」
「大丈夫? なんとかヌッソみたいにならない?」
「アレとは原理が違いますゆえ、というか危険な発言はおやめくだされ!?」
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