第三六三話:聖女の逆襲
さて。
アリスたち、アンたち両方と連絡をとれるようにはした。
あとはアンたちの方が順調に勝ちあがるのを待つのみである。
「おまたせ、お花への水やり、終わったわ。植木鉢はふたつとも元気そうよ」
「それはよかった」
応援席に座る俺の隣に、ミュートが座る。
「そろそろアンたちのチーム?」
「ああ、そのようだ」
俺が応援席にもどったとき、ちょうど片方の機動甲冑がもう片方の機動甲冑を粉砕したところだった。
上から振り下ろした腕が頭部を文字通り叩き潰したのだが、操縦室はよほど頑丈に造ってあるのか、ゆがみもしなかった。
これならば、アリスたち、アンたちが万一負けても俺が介入したり、救出する必要はなさそうである。
『それではぁ! 一回戦最終試合、『ガ・セゲッター学園歌劇部』対『聖女帰還組! ……ん? 聖女――どっかで聞いたようなきがするにゃ? はて? ま、いっか! はじめ!』
試合場の床から、二騎の機動甲冑が出現する。
その造りはどちらも細部まで一緒だが、胴体の色が違った。
相手の方は、くすんだ赤。大してアンの方は輝やかんばかりの白である。
ちなみに、アリスたちの機動甲冑は漆黒であった。
『くくく……俺たちはアイアンワークスに瞬殺されたニ・セゲッター学園とはちがうぜぇ!?』
アリス達の時と同じように、操縦室の内部の様子が、映像で表示される。
どうやら相手はアリスたちの時のような正統派ではなく、どこまでも暑苦しい体育会系のようであった。
――どうでもいいが、アイアンワークスに喧嘩を売った(そしてあっさりと返り討ちにあった)ニ・セゲッターの縁者のようである。
『聖女もやれる、多角経営のできる学園よぉ!』
――しゃべり方からして、余り変わりがないような気がした。
『みるがいい! 我ら三位一体、ガ・セゲッターの力を――へう゛あ!?』
途中から情けない声になったのは訳がある。
アン達の機動甲冑が、思い切り殴りつけたからだ。
『やっぱりね』
振り抜いた拳を戻しながら、ドゥエが呟く。
『例の格好いいポーズ、演武で十分対応可能だわ。姉さん、もうちょっと出力をちょうだい』
『いいですよ――というよりもむしろ……』
いままでみたことのない、挑戦的な声で、アンが答える。
『ようやく喉が、暖まってきました』
あとは、ほぼ一方的だった。
背中から陽炎が昇るほど――どうやらこの学園の機動甲冑は背中から排熱しているらしい――出力を上昇させたアンたちの騎体は、マリスの機敏な踊りによって俊敏に動き、ドゥエによるキレのある演武によって連撃を叩き込まれたのである。
『ば、ばかな! われらガ・セゲッター学園がこんな無名の連中に――セゲッター帝国学園に栄光あれえええええ!?』
帝国学園ってなんだ、帝国学園って。
そう突っ込みたかったが、先に指摘すべき箇所は、他にある。
「ね、ねぇユーリエ、いまの歌詞だけど……」
「……ミュートさんもお気づきになられましたか」
というか気づかない方がどうかしていると思うが。
「正統派聖女の曲調のまま、巧みにマリウス顧問が復活したくだりを歌い上げていましたね」
そうなのだ。
なにをどうしてそうできたのかは、さっぱりわからない。
そこが聖女の聖女たる由縁なのだろうが……。
『昔の魔王がよみがえった? ファンタジーな曲だったにゃあ!』
カワミ生徒会長の反応は、ある意味織り込み済みのものだった。
もっとまともな生徒会長でも、同じ考えに至っただろう。
だが、俺にはわかる。
何も言わずに、ただ微笑むアンの表情の裏には、
これからじっくりと俺のことを歌い上げ、最終的にここにいることを宣言するつもりなのだ。
ある意味、一番怖い仕掛け方だった。
「なるほど、そのような手が!」
「お、タリオンくん男性アイドル目指しちゃう?」
「普通に正統派アイドルをプロデュースするだけですぞ」
「え、わたしとか?」
「冗談はおやめくだされ」
「え? なんて?」
「冗談と火の玉(プラズマ化している)はおやめくだされ!」
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