第三六一話:激闘、第一回戦!
それは、いままで生きてきた中でみたことのない戦いであった。
二体の胴体が太い機動甲冑が格闘戦を行っている。
それ自体は、かつて俺が封印される前によく見た風景ではある。
多くは機動甲冑同士の演習がほとんどであったが、当時の人間が機動甲冑を鹵獲し、無理矢理蒸気機関を乗せて稼働させ始めてからは実戦という形で機動甲冑同士の戦闘が発生していたものだ。
……余談だが、あの勇者はなぜか気合いというわけのわからないもので動かしていた。
いまになって思えば、多少無理をおしても調べるべきだった謎の原理である。
その謎の原理とはまた別のもので、目の前の機動甲冑達は動いていた。
魔力を使わない、まったく新しい機関。
妙に感慨深くなってしまう響きである。
「しかしこれは、どうにかならんのか」
「いや、無理でしょ」
即座にミュートがそんな返事を返した。
空中に投影されているのは、それぞれの操縦席の様子である。
そして会場の左右、一方からはアリスの歌が、そしてもう一方からは対戦相手の歌が大きく響いてた。
正直にいおう。
音が混ざって何が何だかわからない。
だというのに、観客席にいるハルモニアの一般生徒は、ごく普通に応援している。
「これはあれね」
巨大な左右の発声器を見上げて、ミュートは呟く。
「多分だけど、観客席は自分たちが聞きたい方の発声器からしか音を聞こえないように各自で魔法をかけているのよ」
「なぜそんな手間のかかることを!?」
「さぁね……うちらもやっておいた方がいいわよ。でないと頭が痛くなるわ」
たしかにミュートのいうとおりである。
幸い音の発生源ははっきりしているので、俺は相手方の発声器から鳴る音を聞こえないよう、逆の位相波で相殺する魔法をかけた。
途端、アリスの歌声が鮮明に聞こえるようになった。
「ふぅ……」
「おちついてないで、ちょっとはアリスたちを応援しなさいよ。両腕組んで座っていたら音楽関係者と間違えられるわよ」
「応援といっても――」
どうすればいい?
「こういうのは見よう見まねでいいの。魔王なんでしょ? もっと周りを把握しなさい。まずは、アタシのまねしてみて。『アリスちゃーん! クリスちゃーん! がんばって~!』」
――ちゃーんはつけなきゃだめか?
視線でミュートに訴えたが、思い切り黙殺された。
ええい、ままよ!
「あ、アリスちゃーん! クリスちゃーん! がんばって~!」
途端、アリス達の機動甲冑の目が劇しく輝く。
□ □ □
――まずい。
アリスさんの曲に合わせて即興で踊りながら、私は内心焦っていました。
こちらとあちらの実力が、均衡していたからです。
そうなるとこちらは急造で結成したため、持続力がもたない――!
「……くっ!」
理緒さんが、小さくうめき声を上げました。
いまの拳の打ち合いで、こちらがやや押されたのです。
なんとかして、打開策をみつけないと……!
『アリスちゃーん! クリスちゃーん! がんばって~!』
観客席から、ミュートさんが応援する声が届きました。
正確には、機動甲冑が応援の声を拾ってくれたようです。
そう、みなさんの応援がある以上負けるわけには――。
『あ、アリスちゃーん! クリスちゃーん! がんばって~!』
――ま、
――ま、
――マリウス艦長!?
な、なんでそんな黄色い歓声を!?
そう思った次の瞬間、アリスさんの声量がいきなり上がりました。
その歌声の質と量で機関の出力が上がる仕組みなので、機動甲冑の出力が急激に上昇します。
「理緒さん!」
「はい! あわせます!」
さすがミズミカド生徒会長、いまのひとことで通じました。
私は大きく身体を動かす踊りに切り替え、同時に理桜リオさんが決め手に備えていたポーズを次々にとります。
その結果――。
□ □ □
『そこまで! 勝者、『アリク・リリオ』!』
ハルモニア生徒会長クゥ・カワミが叫び、観客席は歓声に包まれた。
「勝ったわね……」
「ああ……勝ったな」
俺が応援した途端、アリス達の機動甲冑の目が光ったかとおもうと、急激に出力と動きが良くなり、相手の機動甲冑の拳を殴って粉砕、そして反対の腕による二撃目で、相手の頭部を粉砕したのである。
「ね、応援してよかったでしょ」
「ああ、そうだが……そうだが……」
姿勢を正し直立するアリスたちの機動甲冑を見上げ、俺は答える。
「もうちょっとこう、なんとかしたい……」
どうすれば俺らしく応援できるのか、それはまったくわからなかったが。
「超大型機の広範囲攻撃で暗殺とは、臣は感心しませんな」
「へいタリオンくん、本編の感想をいいなさい」
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