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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第三章:提督少女

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第三十六話:いま、そこにある危機

■登場人物紹介

【今日のお題】


アンドロ・マリウス:勇者に封印されていた魔王。二百三十六歳。

【好きな菓子】

「果物を干したものだな。考え事の時にちょうどいい」


アリス・ユーグレミア:魔王の秘書官。十四歳。

【好きな菓子】

「特にクリームとかチョコとかを入れないクッキーでしょうか」


二五九六番:元機動甲冑。現海賊船雷光号。鎧時はニーゴと名乗る。年齢不詳。

【好きな菓子】

『食えねぇってばよ』



メアリ・トリプソン:快速船の船長。十八歳。

【好きな菓子】

「ジャンボパフェ!」


ドロッセル・バッハウラウブ:メアリの秘書官。十六歳。

【好きな菓子】

「ねるねるね◯ね」


クリス・クリスタイン:提督。護衛艦隊の司令官。十二歳。

【好きな菓子】

「イチゴアイスです!あの甘酸っぱさがとても好きで——コホン!」


『大将』


 その日の目覚めは、二五九六番の少し張り詰めた声によるものだった。


「どうした」


 寝室ではなく、船室で新しい装備を設計中にそのまま寝てしまったのを思い出す。

 かけた覚えがない毛布がかかっているということは——途中でアリスが起きて様子を見にきたのだろうか。


『小さい嬢ちゃんの船がすぐ近くにきてる。なんかすげぇ物々しい。あと、まもなくほぼ横付けするぜ』

「なんだと!?」


 慌てて甲板に飛び出る。


「おはようございます。ご想像できていると思いますが、緊急事態です」


 向こうの甲板では、クリスが待ち構えていた。

 その背後では、船員たちが忙しそうに行き来している。


「つかぬ事をお聞きしますが、雷光号(らいこうごう)はどれくらいの大きさのものを牽引、あるいは推進できますか?」


 牽引? 推進? 輸送ではなく?

 そう思いながらも、おおよその出力を計算する。


「海の荒れ具合にもよるが、雷光号を基準としておおよそ二十倍の重さまでだな」

「そこまでいけるんですか……! ——コホン、失礼しました。では、救援を要請します」

「承った。だが、なにがあった。難破船でもみつけたのか?」

「いえ……でたんです」

「——なに?」

「クジラが、でたんですっ!」

「鯨だと!?」



 ■ ■ ■



「それで慌てて出航したんですか」


 まだ少し眠そうな様子で、アリスがそういった。

 もしかすると、真夜中に起きて俺に毛布をかけたせいで、睡眠が足りていないのかもしれない。

 だとしたら申し訳ないことをしたと思う。


「クリスからの聞いた話では、かなり大きな鯨のようだな」


 それが、海上をまっすぐ船団に向かっているそうだ。

 このままでは、中枢船との衝突が避けられない。

 なので、機関の出力に自信のある船を集めてその軌道を変える——あるいはずらすというのが、今回の仕事内容だった。


『そのクジラとかいうのに横から寄せて徐々にずらしていくってことだな?』

「ああ。衝突させて移動させるとは、やや乱暴な手段に思えるがな」


 よほど大きな鯨なのだろうか。

 俺が知る限り、鯨の大きさは大きくても雷光号と同程度、あるいは一回り大きいくらいだと思っていたのだが。

 だた、今この世界には牛と同じ大きさのウミウシや、豚と同じ大きさの河豚などが普通に泳いでいる。

 クリス座乗の旗艦『バスター』並みの鯨がいても、別におかしくはないだろう。


「それで皆さん、甲板に総出で緩衝材をつけているんですね」

「ああ」


 現在航行しているのは、俺たちの『雷光号』とクリスの『バスター』そしてその同型艦である『スレイヤー』『エクスキュースナー』『スラッシャー』の計五隻だった。どれもが機関の出力に自信のある船であり、これだけ揃っていればよほどの抵抗でもされないかぎり、問題は起こりえないだろう。


「わたしたちは、緩衝材をつけないくていいんですか?」

「雷光号はやわではないからな」


 ある程度の傷やへこみは、自動で修復できるようになっている。


「でも、それだとこの船が普通の船じゃないって、護衛艦隊のみなさんに教えてしまうんじゃ」

「——しまった」


 確かにそうだった。

 やむなく、倉庫の素材から必要最低限の緩衝材を作り出し、アリスと一緒にそれを舷側へ装着させる。


「これで押し出し準備は大丈夫ですね」

「ああ。それがだめなら銛を撃ち込んで牽引、そしてそれでも駄目だった場合は……主砲弾による射殺だそうだ」

「それは——あまりしたくないですね」

「ああ。ようやく出会える鯨だからな」


 封印が解かれてから、俺は海獣——すなわち、海に住む哺乳類——をみたことがない。

 鯨をはじめとして、海豚(いるか)海豹(あざらし)海驢(あしか)(しゃち)、そのどれとも遭遇してこなかった。

 これだけ広い、海なのに。


「それに加減を間違えて増えたりしたら、大変ですからね」


 まて。いまなんといった。


 増える? 鯨が? 主砲による射殺で?


 アリスに聞き返そうとして、すんでのところで踏みとどまる。

 鯨は鯨だ。

 今のは多分、なにかの聞き間違いであろう。


『大将、先頭の船が速度を落とした。あとなんか、前の方に妙にでかいのがいる』


 二五九六番の報告を受けて、周辺の様子を光点で表す表示板を覗き込む。

 なるほど、確かに大きい。

『バスター』の二〜三倍というところだろうか。

 哺乳類がそこまで巨大化すると、自重で内臓の機能に問題が出るとどこかの書類で読んだ覚えがあるが、そこは海から浮力を借りているのだろう。


「実際に見てみるか」

「あ、私も行きます」


 アリスとふたり、甲板に出る。

 すでに日は高くのぼっていた。

 南の海特有の強い日差しと、熱気を伴った風が吹き抜けていく。

 そして目の前に見えるのは——。


 小山ほどの大きさを誇る、透明なゼリー状の図体。


 ふ。

 ふは。

 ふはは!

 ふはははっ! ふはははは!

 ハハハハハ! ハーッハッハッハァ!


「クラゲだこれはーッ!?」


 天に向かって、吠える。

 断じて鯨ではない。クラゲだ!


「そもそもクしかあってないではないかっ!?」

「クラゲってなんですか?」

「そこからかっ!?」


 アリスはこんな時に冗談は飛ばさない。

 おそらく、本気で言っているのだろう。


「何を言っているんですか、マリウス船長。これはクジラですよ」


 同じく甲板に上がっていた(艦橋からだから降りてと言った方が正しいか)クリスが、そう訂正してくれる。


「おかしいのは俺か!? 俺なのか!? 俺なんだな!?」


 自分でも狼狽しているはわかっているが、それでも言わずにはいられなかった。

 封印の副作用で鯨とクラゲの言葉の意味を取り違えているのかもしれない。そんな馬鹿げた考えすら、頭をよぎる。


「ど、どうしますかマリウスさん。わたしたちだけでも、離脱します?」

「……いや、それには及ばない」


 天を仰ぎ、顔を手を覆っていた俺は、そう答える。

 いまのひとことで、どうにか冷静になれた。

 鯨、クラゲ。その違いについては、後にしよう。

 今はこの非常識な大きさを誇るコレをなんとかしなければならない。


「クリス——いや、クリス提督!」

「は、はい!」


 俺の狂態に心配そうだったクリスが、慌てて返事を返す。


「先鋒は俺たちがつとめる。そちらの大型艦四隻は後から続いてくれ」

「わかりました! くれぐれも無理をしないでくださいね!」


 お互い敬礼を交わし、船内へと戻る。


「雷光号、速度そのまま。ただし、機関最大出力!」

『あいよっ!』

「あと、今までの航跡から、ヤツの予想進路を出せ」

『任せな!』


 表示板に、赤い線が浮かび上がる。それはそのまま真っ直ぐ伸びて——船団の中枢船、そのどまんなかを貫いていた。


 よりによってあの海の下の街を通ろうとするのか。

 俺は奥歯を噛み締める。

 水上でここまで巨大なのだ。水面下はさらに大きいと見ていい。

 それがまっすぐ通ってしまえば、海の下の街は無事では済むまい。


「いくぞ! 鯨だかクラゲだか知らんが、この先は進ません!」


 決意も新たに、俺はそう号令を下した。

 何もかもがうまく言った暁には——その生態、調べ上げてくれる!

■本日のNGシーン

「雷光号、速度そのまま。ただし、機関最大出力!」

『あいよっ!』

「あと、今までの航跡から、ヤツの予想進路を出せ」

『任せな!』

「いくぞ! たかが石ころひとつ、雷光号で押し返してやる!」

『それ言いたくなる気持ち、すげーわかるわ」

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