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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第五章:ドキッ! 聖女だらけの大運動会

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第三五五話:諜報員大作戦!

『こちらミュートよ。マリウス、聞こえる?』

「ああ、よく聞こえる」


 声と同時に、雷光号操縦室内の表示板に聖女(アイドル)大運動会の会場全体の立体的な見取り図と、ミュートの現在位置が同時に表示される。

 どうやらミュートは誰もいない通路であっても、極力天井裏や通気口を伝って移動しているらしい。

 その移動速度は驚異的で、俺であればとっくの昔に魔法で強行突破しそうな難所(通気口が垂直になっていたり、匍匐前進でもしなければ進めないほど狭くなっている箇所)を、まるで居住区の通路を歩いているかのように通り過ぎていく。

 そして、現在地。


『予想していたけど、中央の会場は厳重な封印が施されているわ』

「物理的にか? それとも魔法的に?」

『両方よ。馬鹿丁寧に通気や諸々の配管を周辺の艦と独立させているみたい』


 俺たちが入港した南艦隊(ホール)は、各艦が物理的に接続され、艦同士を往来しても注意していないと気づかないほど利便性が高かったが、会場となる中央はそうは行かないようになっているらしい。

 そこまで厳重な警備を施してあるということは、よほどみられたくないものがあるのだろう。

 あるいは、奪還されたくないものがあるのか、だ。

 だが……。


「ミュート、中央部分は後回しでいい。まずは西艦隊(ホール)に向かってくれ」

『了解。唯一案内されなかった場所ね』


 たしかに中央部分の会場は怪しい。

 とても怪しい。

 だが、ここまで鉄壁の防護を施してある区画に侵入するよりも、まずは楽に侵入できる方から捜索した方がいい。

 苦労してなにも成果を得られなかった場合もそうだが、万一見つかって強行策を執らざるえない場合、以降の区画は調査できなくなるからだ。


『それじゃ、迂回して進めるわ』

「予想進路を策定するか?」

『いい。このまま行けそうだから。だからそっちは、周辺音声の分析を優先で進めて』

「了解した」


 実はミュートの着けている通信機には、周囲の音を拾い別途(つまり俺たちの通話を拾わずに)音声として雷光号に届けられている。

 こちらは現在ユーリエがアリスの聴音機を使い、分析を行っていた。

 これにより――。


「ミュート、前方から生徒が二名」

『了解、停止する』


 このように、隣接する通路で誰かと交差する場合、ミュートは必ず静止した。

 驚くべきことに、その間は呼吸も止めている。

 その間、鼓動が普段よりも上がらないのはさすがであった。


「通過を確認。いいぞ、行ってくれ」

『了解』


 ミュートの光点が、南艦隊(ホール)から中央会場を迂回して西艦隊(ホール)へと移動していく。

 全体的に、生徒の移動はまばらだ。

 それはおそらくここが学園本体ではなく、あくまで大運動会とやらの会場だからであろう。


『こちらミュート。西艦隊(ホール)に侵入したわ。現在大きな部屋の天井裏にいるみたいだけど、どうする?』

「どのような部屋か確認したい。内部に侵入してみてくれ」

『了解したわ』


 ミュートが周辺を周回するように動き始める。

 どうやら、できるだけ設備を損壊させないように動き回っているらしい。


『こちらミュート、室内に侵入。ここは――図書室みたい』


 ぴくりとユーリエが反応した。

 だがさすがはダンタリオン生徒会長、作業の方は継続しており手を止めている様子はない。


「そこは普通の図書室か、それとも校内の資料をまとめた部屋なのかを確認したい。手近な本を手に取ってみてくれ」

『わかったわ。――なにこれ。『美しき魔王』……?』

「それは伝説の作家、マウンテン・ジュンの名作です……」


 我慢できなくなったのか、ついにユーリエが乱入した。


「ユーリエ卿、分析の仕事を……」

「魔法で代行させました」

「代行!?」


 みればアリスの聴音機にはいつのまにかいくつかの魔方陣が展開されており、傍らではペンがひとりでに浮いていて重要な情報とおぼしきものを紙に記録している。


「マウンテン・ジュンは今から300年ほど前の作家です。ありとあらゆる官能を文学に昇華させたという評判通り、その『美しき魔王』の主人公アンドゥロ・マーリウスは、たまたまであったトゥワリオンと――」

「よもやと思うが、俺とタリオンがモデルか?」


 ユーリエは一瞬、目をそらした。


「こ、後世ではそのような説もあります……」


 つまりはそういうことらしい。

 以前、北半球では金髪のこまっしゃくれた美少女にされたものだが、こっちではこうなるようだ。

 もちろん、どっちも嫌である。


「ミュートさん。後生ですからその本を――」

『ごめん、このぴっちりした服じゃこの本しまえるスペースがないわ』

「くっ……!」


 くっ……! ではない。

 むしろ俺がくっ……! といいたい。


「ミュート、他の本はどうだ?」

『そうね……だいたい、図書館にある本と一緒みたい。ここは資料室じゃなくて、娯楽用の図書室よ』


 敢えて書名を伝えずに、ミュートはそう答えた。

 おそらく、ユーリエが興奮しないように配慮してくれたのだろう。


『どうする? 先に進む?』

「いや、今日はそこまででいい」


 アン達は以前特訓中である。

 彼女たちが戻ってきたとき、図書室の蔵書で気になるものがあるかもしれないので、もう一度調査してもらう必要があった。


『了解、それじゃ戻――』


 そこで、突如強い魔力反応があった。

 場所は中央の会場――!


『どうする? マリウス』

「可能であれば行きと同じ経路を、難しそうであれば大きく迂回してくれ」

『りょうか――なにかくる』

「ユーリエ卿」

「こちらでも探知しました。追跡します」


 図書室横の廊下を、全速力で駆けてくる者がいる。

 それは、例の俺にひと泡噴かせた鎌使いの生徒であった。


『くっ、これじゃ天井裏に上がれない――!』

「ミュートさん、付近に貸し借りされた本を一時的に収納する厚紙の箱があるはずです。それを使って……」

『わかったわ。ありがとう、ユーリエ!』


 ちょうどいい空き箱があったのだろう、それを被りミュートは完全に気配を消した。

 直後に鎌使いの生徒が、図書室を通過する。

 幸い、ミュートの気配には気がつかなかった模様である。


『ふぅ……どうにかやりすごせたみたいね』

「また戻ってくると厄介だ。移動を開始してくれ」

『了解』


 ミュートが帰投開始する。

 それにしてもあの厳重な警備の会場……急に魔力が上昇したのは、一体なぜだろうか。

 そしてあの鎌の生徒が駆けていった理由は。

 色々と調べることが増える俺だった。


「『美しき魔王』読んでみたいわね」

「なんかオチが読めたので臣は遠慮しておきますぞ」


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― 新着の感想 ―
うほっ、いい魔王… なんで娯楽室にそんなものあるんですかねぇ!?
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