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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第五章:ドキッ! 聖女だらけの大運動会

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第三五三話:画期的で使えない操縦方法

「――以上が、VDVドライブの仕組みとなります。おや? どうかしましたか?」

「こ――」

「こ?」

「この――」

「この?」

「この機構を造った阿呆は、どこのどいつだっ!」


 魔力というのは、大気中にも微量ながら存在している。

 通常それを扱うのは相当魔力の検知に()けていて、なおかつ繊細な流れを上手く自分取り込める精密さが必要であり、これは俺やタリオンでもそう簡単にはできることではなく、天性の才能をもつ一部の者が扱える特殊な魔法に分類されていた。


 それを、この聖域探索学園ハルモニアの技術者は歌と踊りと格好いいポーズというわけのわからない方法で大気中の魔法を整流し、機関に叩き込んでいるのである。

 

「クゥ・カワミ生徒会長です」

「なに?」

「ですから、このVDVドライブを開発したのは、クゥ・カワミ生徒会長です。もっとも設計だけで、実装は技術部が行いましたが」

「あやつか……!」


 てっきり実力はあるがその手のことには疎いと思い込んでいたのだが、どうやら技術方面にもかなり詳しいらしい。

 この瞬間、俺の中の敵味方識別信号が、いつか絶対に張り倒す相手から十分に注意すべき敵と切り替わった。

 あのふざけた性格も、演技である可能性が高いと判断したからだ。


「それより役割を決めましょう。歌は私として、踊りはどちらがやりますか?」

「はい。できれば私が」


 挙手したのはマリスであった。

 どうやら以前から、こういう催し物に参加したかったらしい。

 たしかに聖女簒奪騒動の時は、生まれてからすぐに戦闘に投入されたため、歌や踊りの競い合いは一切参加していなかった。

 その記憶は記録として残っているためなおさら参加したかったのではないかと思う。


「であれば、かっこいいポーズとかいうのはドゥエの担当になりますが――大丈夫です?」

「……やるわよ。っていうかやるしかないでしょこれ!?」

「あの、代わりましょうか?」

「マリスは気を利かせなくていいの! 歌は姉さんが最適だし、踊りは私より軽快に動けるアンタの方が有利でしょ。それっくらいはわかるのよ……!」


 聖女簒奪事件を起こしたとはいえ、元々一軍の指揮を執り、今は前衛艦隊の司令官という立場のドゥエである。

 ぱっと見で自分を含む三名の役割分担など、見通すことができて当然だろう。


「お話がまとまったところで……試運転、されてみますか?」

「できるのか?」

「魔法で仮想的に――ですが、我々はこれを『シミュレーション』と呼んでいます」


 仮想化の魔法か。

 どうも南半球に入ってから、この手の魔法をよくみるのだが、なかなかによくできている。

 実際に戦闘訓練を行えば多くは隣接している他国――この場合は学園か――を刺激する者だが、実際には動かさず魔法でやればそういう心配もあるまい。

 俺の場合は『タリオンの箱庭』を使って演習そのものを縮小して実際に行ったものだが、こちらはどうなるのか、実に興味深かった。




□ □ □




「なんかこれ、リョウコさんのところの黒雷号の操縦装置に似ていますね……」


 機動甲冑の操縦室に立ち、私はそう呟きました。

 広さは雷光号の操縦室と余り変わりないのですが、座席類の類いは一切なく、代わりに三本の柱だけがあるため、ずいぶんと広く感じます。

 ちなみに私がそれをみて黒雷号だと思ったのは、腰に当たる部分に、安全帯を付ける装置があるためでした。

 多分これはただの偶然なのでしょうが……。


「これをそのまま装着すればいいんですか? モーリーさん」

「はい……そういう風に聞いています」

「服は脱がなくていいんですか?」

「はい!?」


 はじめて、モーリーさんの声が跳ね上がりました。

 こちらとしては、してやったりという感じです。


「いえ、いいんです。気にしないでください」

「ちょっとまってください、クリスさん!」


 モーリーさんに代わり、理緒さんが不安そうな声を上げました。


「服を脱ぐって――もしかして、そちらではそんな格好で戦っているんですか?」

「いえ、そんなことはないのでご安心ください」


 ユーリエさんも、ましてやマリウス艦長も、そういう方ではありませんので。

 ただしリョウコさんを除く――なわけですが、これはいわなくてもいいでしょう。

 今頃、向こうでは改良されて服を着てもいいようになっているかもしれませんし。


「それより、役割分担を決めましょう。理緒さん、歌に自信はありますか?」


 私がそう訊くと、柱を触っていた理緒さんは申し訳なさそうにうつむいて、


「すみません……まったく自信がないです……」

「わかりました。では、歌の部分はアリスさんで」

「了解です。歌はあのときのでいいですか?」

「はい、それでお願いします。理緒さん、踊りの方はどうです?」

「膂力と体力には自信があるのですが、踊りは――多分ミズミカド流のゆったりしたものでは駄目ですよね?」


 ふむ……?


「モーリーさん? そこのところはどうです?」

「そういう踊りだと、機材もゆっくり動きます。代わりにどっしりと足腰が据えられますが、主流ではありませんね」

「では、踊りは私が担当しましょう。理緒さんはその……格好いいポーズとかいうのを、おねがいします」

「わ、わかりました」


 ゆっくりとした踊りであれば足腰が据えられるというのも気になりますが、ここは主流で行こうと思います。


「モーリーさん、試運転ってできますか?」

「できます……といっても魔法で仮想的に動かすだけですが、戦ってみることもできます……かなり現実的ですよ」

「では、それでお願いします」

「じゃあ仮想的に起動させますので……皆さん、腰の安全帯をつけてください。ちなみにポーズを担当する方が前方、踊りが右後方、歌が左後方です。間違えるとたいへんですから、気をつけて……」

「わかりました」


 操縦室の扉が閉まりました。

 ややあって、操縦室前方の表示板が明るく輝き、外の様子が見えるようになりました。


『ここから仮想空間になりますので……みなさん、頑張ってください』


 モーリーさんの声がした途端、辺りの景色がなにもない海の上になりました。

 同時に機動甲冑がゆっくりと沈み――あ。


「アリスさん、歌を!」

「はいっ」


 アリスさんが歌い始めると、沈みはじめていた機動甲冑が止まり、逆に浮上をはじめました。

 どうやら、脚部と後背部からの噴射により、水面ギリギリの上を立っているようです。


「クリスさん、前方に敵が」


 理緒さんのいうとおり、水面からまったく同じ形の機動甲冑が浮上してきました。

 そして私達を認識してきたのか、片手を振り上げて突進してきます。


『あ、いまさらですが、ルールです。胸のところに操縦室を表すマークがありますが、そこを攻撃すると失格ですのでお気をつけて……もっとも、その辺は自動的に避けますけど』

「本当に今更ですね!? 勝利条件は?」

『相手の頭部を破壊したら勝ちです。これも自動的に狙うようになっています』

「なるほど、では――」


 身体を動かそうとした瞬間、腰から引き上げられ、身体全体が少し浮きました。

 なるほど、これなら激しい踊りをおどっても大丈夫そうです。


「来ます!」


 アリスさんが歌っているため理緒さんが代わりに報告する中、私は柱に手をかけて、くるりと一周してみました。

 なるほど、腰の部分は自由に動くようです。

 そしてその動きに合わせて、私達の機動甲冑は真横に飛びました。

 予想はしていましたが、私の動きに追随しているわけではありません。

 あくまで私が踊ることで、機動甲冑が動くということみたいです。


「理緒さん、攻撃を!」

「あ、はい!」


 理緒さんが、なんか格好いいポーズを取りました。

 それが何を表しているのかはわかりませんが、機動甲冑は水面を大きく飛び上がり――膝蹴りを、相手の頭部に炸裂させたのでした。


『勝負あり……のようですね。最初の操縦なのに、よく動いていると思いますよ』


 モーリーさんが、そんな感想をくれます。

 ですが、これ……。


「めちゃくちゃ、操縦しづらい……というか、歌う人と踊る人、操縦に関与できないじゃないですかぁ!」


 思うとおりに動かせないというのが、こんなにも心に負担がかかるとは、思いもしませんでした。


「やっぱ愛・超兄◯じゃん!」

「おやめくだされ! 歳がバレますぞ!?」

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