第三五二話:戦慄のVDVドライブ
「それにしても……どうしてこの南艦、こんなに大きいんでしょうね?」
担当者に案内されて南艦(仮称)内を進むうちに、アンがそんな疑問を口にした。
「それはですね、ここに大運動会に必要な機材が格納されているからです」
俺たちを引率している担当者がそう答える。
どうやら、聖域探索学園ハルモニアの卒業生らしい。
テカテリーナのように他の組織に移るのではなく、学園の職員として残るのも、進路としてはありなのだろう。
「それが、先ほどの動かせないといっていたものか?」
「はい。そうです」
今歩いている区画は、かなり広大な空間だ。
その空間を支えるように、巨大な円柱がいくつも生えている。
そのため古代の柱が立ち並んだ巨大な神殿にもみえるが――実際は違う。
その円柱自体が、格納庫なのだ。
「はい。到着しました。ここが貴方たちに割り振られた、機材です」
そういって、担当者は円柱にある大きな扉を開いた。
「これは――」
□ □ □
「なぜ、あなたが?」
私達の部屋に現れた使者は、あのときマリウス艦長に刃を突きつけた生徒でした。
「ええと……貴方たちの地位を考えると、本来なら生徒会長がいくところなんですが……あのひと『なんかいまいったらよってたかってボコボコにされる気がするにゃ。だから代わりに行ってきてほしいのにゃ』といわれまして……予想的中ですね」
私の声が冷えきってしまったせいでしょうか、あるいはアリスさんの殺気が隠せなかったからでしょうか。自称・スカウト部のモーリー・メメントさんはため息交じりにそう答えました。
「ついてきてください。これより貴方たちが大運動会で使う機材の紹介と説明をします」
「従わなかったら?」
「……ミズミカドとマリウス分校――でしたっけ?――が、自動的にハルモニアに敗北する形になります。この大会、一応対校戦の規則に則っていますので」
「理緒さん?」
「残念ながら、事実です」
それまでじっとモーリーさんを観察していた理緒さんが、そう答えました。
「――わかりました。従いましょう」
「それがいいとモーリーも思います。それに、損はさせないと生徒会長も仰っていましたよ」
「それって詐欺師の常套句では?」
「……違いありませんね」
苦笑するモーリーさんにつれられて、広い通路を通されます。
「大運動会というからには、他の参加者もいると思いますが……いったいどこにいるんです?」
「一般参加者は、他の艦に集まっています……貴方たちは招待客なので、特別枠ですね」
「それはまた、ご丁寧に」
背後にいるアリスさんの殺気が膨れ上がってきていて、そろそろ抑えられそうにないんですが。
「着きましたよ、中に入ってください」
モーリーさんに促されるまま、私達は円筒形の部屋に入りました。
「これは、機動甲冑?」
あの、北の海の果てや、最終決戦でみたものとよく似ています。
変わっているのが背丈が今の雷光号と同じくらい、そして胴体が明らかにひと回り太いことでしょうか。
「他校ではもう使っていない型をみてすぐにわかるとは……古代の魔王配下にいるという噂は、本当のようですね……」
「そんな噂、ながれているんですか」
「おっと……いまのは失言でした。逆探査が怖いので、モーリーはこれ以上の話題は口をつぐみます」
どうやら、マリウス艦長と相対したのは偶然ではなさそうでした。
おそらくですが、ミュートさん以外にも諜報員がいるというよりは、長距離から探査していたのでしょう。
「皆さんには、この機材に乗って、戦っていただきます」
「乗るにしても、一騎しかありませんが」
「ああ……全員で操縦するんです。そういう風に、できています」
「わたし達全員で、操縦するんですか?」
殺気を解いてアリスさんがそう訊きました。
「はい……細かい説明は――よっと」
そう答えながら、モーリーさんは懐から水晶玉を取り出しました。
そこから、立体映像が表示されて――。
『にゃーはっはっは! このたびは聖女大運動会にご参加いただき、まことにありがとうございますにゃー!』
アリスさんの殺気が、再び膨れ上がりました。
このハルモニアの生徒会長、クゥ・カワミさんは、他人を煽るのが天才的に上手いようです。
もちろん、なんの参考にもなりませんでしたが。
『いまみんながみている機材は、参加者全員同じ仕様の機動甲冑にゃ! この機材、ウチの技術部が全力で開発した魔力を使わない特殊機関、VDVドライブを積んでいるんだにゃ!』
「VDV……」
「ドライブ……?」
アリスさんと一緒に、思わず呟いてしまいます。
魔力がなくても動かせるとか、マリウス艦長が聞いたら目を輝かせそうな仕組みですが……。
『原理は簡単! よーく聞くにゃ!
まず最初のVはボーカル、つまり歌声にゃ!
コレが高ければ高いほど高出力になるにゃ!
次にDはダンス!
踊りのキレがよければよいほど、自動的に複雑かつ素早く動けるにゃ!
そして最後のVはヴィジュアルのV!
かっこよく、なによりかわいいポーズを取ると自動的に攻撃するにゃ!
説明よりもまずは実践! 疑似体験魔法が一回だけかけられているから、それでためすにゃよ!』
……ええと。
……つまり?
「なんですか、私達が歌って踊ってポーズを取ると、勝手に戦ってくれる機動甲冑ということですか……?」
「そういうことですねぇ……」
あまり興味のなさそうな声音で、モーリーさんがそう答えます。
なるほど、これなら人間である私もアリスさんも、そしてなんらかの理由で魔力がない理緒さんでも、この機動甲冑を操縦することができます。
できますが……。
「なんでこんな、わけのわからない仕組みを作ったんです……?」
答えてくれる声は、どこからもありませんでした。
「ポーズを取ると攻撃してくれるのね」
「左様でございますね」
「愛・超○貴?」
「それ以上はいけませんぞぉ!」
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