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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第五章:ドキッ! 聖女だらけの大運動会

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第三四五話:ミズミカドを覆う影


「ふーん……魔法ってこうやって計算することができるのね」


 俺が提示した計算式に目を通しながら、ミュートはそう唸った。


「これはもうほとんど、既存の魔法の陰陽術化に等しいですわね……!」

「いや、これは魔法を数式で表しただけにすぎない。ヒナゲシの陰陽術のように、魔法の発動体にはならないんだ」


 ヒナゲシの書いた陰陽術の札は、あとで魔力の注入や詠唱を必要としない、いわば魔法の携帯化のような使い方ができる。

 これに対し、俺の数式は魔法の構造がわかるただの紙であり、これをヒナゲシが用いたとしても魔力の消費や場合によっては呪文の詠唱が必要になる。

 もっとも、魔力さえあれば魔法の造形に余り詳しくない者でも扱えるようになるという利点はあったが。


「ところで、麒竜(きりゅう)の能力が空間をねじ曲げた高速移動っていったわよね?」

「ああ」

「じゃあ、あの瞬間的に相手を切り刻んだのは?」

「あれも空間をねじ曲げる能力の応用だ。超高速移動は空間を圧縮して距離を縮めるわけだが、それをごく薄い刃状にまで圧縮してから――」

「なるほど、大体想像できたわ……それ、防御できなくない?」

「その通り。防御はできない」


 麒竜の竜公主(ドラゴンマスター)であるベ・スターが生きている者に使っていないことを願うしかないし、アイアンワークスの生徒会長と副生徒会長がしっかりと指示を出していると思いたい。


「うーん、相手が仕掛ける前に潰すしかないってこと?」

「あるいは空間の圧縮を使用した斬撃に対して、その軌道と圧縮率を正確に読み取って、逆の位相で空間を引き延ばせば、いけるかもしれんな」

「そんなの無理に決まっているでしょ!」

「理論上は可能だからいったまでだ」


 俺だって、いまいったことをとっさにやれと言われて、実行できる自信はあまりない。


『ほーい、熱心な魔法談義もいいけれど、そろそろミズミカドの勢力圏だよ-!』


 繋ぎっぱなしの魔力通信で、雷光号の隣を併走する輸送艦『デコトラン-01(ワン)』からテカテリーナの声が響いた。


「了解した。ヒナゲシ、水師陰陽学園ミズミカドは、たしか大きな本校が多数の艦隊を率いているのだったな?」

「はい。アイアンワークスが基本あの大きな十字型の飛行船だけを本校とし、残りの飛行船を分校としているのに対し、わがミズミカドでは本校が全戦闘艦、特に戦列艦を管理しております。具体的な総数は申し上げられないのですけれども……ですから、一番最初に遭遇した戦列艦にわたくしを預けてもかまいませんが――」

「いや、中枢である旗艦に行くのが筋だろう。向こうの生徒会長とも顔合わせがしたい」

「――お気遣い、ありがとうございます」


 ヒナゲシは一礼したが、これは様々な思惑がある。

 まずはクリスの帽子の中に隠れている、リブラがらみの件。

 四大竜のひとつであり最大の竜を誇るという、(てつ)竜はミズミカドにある。

 その竜公主(ドラゴンマスター)が誰なのかを確認し、できればヒナゲシ護送の報酬としてできれば同行願いたい。

 そしてそれが実現すれば、帰路でアイアンワークスの竜公主(ドラゴンマスター)ベ・スターも同行してもらえる可能性上がるだろう。

 もうひとつの件は、ミズミカドの首脳と友誼を結ぶことである。

 現時点でアイアンワークス側とも友好的な関係を築けているので、このままミズミカドとも友好関係を築ければ、もう戦うことをしなくてすむようになる。

 外交もそれなりに労力が嵩むものではあるが、それでも戦争よりはよっぽどましというものだ。


『……ヘンだね』


 デコトラン-01のテカテリーナが、怪訝な声を漏らす。


『海図上はもう勢力圏のはずなんだけど……戦列艦がいない』

「アリス、念のためテカテリーナの座標を雷光号と検証してくれ」

「了解しました」

「どうする? 偵察にアタシの箒を出す?」

「いや、そこまですると刺激しかねない」

「では……わたくしが陰陽術で同じことを致しましょう。そうすれば、少なくとも敵とは思われませんわ」

「わかった。すまないがよろしく頼む」

「おまかせくださいませ!」


 ヒナゲシと一緒に、潜望橋(せんぼうきょう)から外にでる。


「『渡り鳥のみなさん! この先にあるお休みできる場所を探してきてくださいませっ』」


 あらかじめ用意してあったのだろう。

 新たに札を書くことをせず、祭祀服の懐から一枚の札を取り出して、ヒナゲシが呪文とともに宙に放つ。

 すると札は光に包まれた後、大型の渡り鳥となって、進行方向へと進んでいったのであった。


「マリウスさん」


 操縦室にヒナゲシと戻ると、アリスからすぐさま報告が来る。


「座標に間違いはありません。既にミズミカドの勢力範囲内のようです」

「アイアンワークスの時は、すぐに飛行船がみえましたよね……」


 クリスが考え込むようにそう呟く。


「あまりよくない胸騒ぎがします。雷光号、デコトラン-01ともども、少し速度をあげましょうか」

「了解した。テカテリーナ?」

『話は聞いてたよ。了解!』

「ヒナゲシ、旗艦はやはり勢力圏の中央か?」

「いいえ。かつてはそうでしたが、お姉様の代になってからみずから指揮を執ることが多くなったので、少し北寄りになっておりました。……おかしいです。式神をかなり早くとばしているのに、未だに艦影がみえませんわ……!」

「あとで謝ることにしましょうか……全艦、最大戦速」

「了解した。雷光号、テカテリーナ」

『おうよ!』

『りょうかーい!』


 潜望橋を残して、雷光号が少し潜水した。

 この方が、速度を出せるからである。

 本当はすべて水面下に潜った方がいいのだが、それだとテカテリーナ側からこちらが認識しづらくなる。

 おそらくそれをニーゴは自分の判断で行ったのだろう。


『……お』


 ニーゴが声を上げた。


『前方。でっけえ船が大量に、しかもみちみちに密集してるぜ。中央にばかでかいのもいる』

「こちらでも確認しましたわ。――あっ!」


 ヒナゲシが、悲痛な声を上げた。


「旗艦上部に、煙が!」

「雷光号とテカテリーナは速度そのまま! 出られる者は全員出るぞ!」


 魔族は基本、空を飛ぶことができる。

 故に北半球と違っていざというときは空を飛んで先行することができた。


「アリスとクリスはアタシの箒に乗って!」


 真っ先に外へと向かったヒナゲシと、それを追うユーリエのあと、ミュートが気を利かせてふたりに声をかける。


「ありがとうございます!」

「助かります!」


 幸い、ミュートの箒には余裕を持たせていたので三名くらいではなんともなかった。

 しんがりが俺となり、テカテリーナを残して全員が旗艦へと飛翔する。

 ほどなくしてこちらでも艦隊がみえてきたが、巨大な旗艦も、取り巻いている戦列艦も、なにもしてこない。


『ヒナゲシ!』

『降りる場所を案内致しますわ! ついてきてくださいませっ!』


 ヒナゲシの誘導に従い、俺たちはミズミカドの旗艦、前甲板の上に降り立った。

 煙の位置は、上部構造物、いわゆる艦橋のある場所である。

 そしてそこには、巨大な穴が開いていた。

 まるで、機動甲冑に突撃でも食らったような――いや、まさか。


「ひ、ヒナゲシお姉様!?」


 煙を上げる構造物や、甲板の下から、ミズミカドの生徒達が駆け寄ってきた。

 おそらく水兵服を模した制服の方が水師科、ヒナゲシと同じく祭祀服の方が陰陽科の生徒なのだろう。


「ああ、よかった! 私達ではもう……!」

「いったいなにがありましたの!?」


 挨拶もそこそこに、今までにない気迫のこもった声でヒナゲシが訊く。

 普段はたよりない雰囲気を漂わせていたが、どうやら副生徒会長の地位は伊達ではないらしい。


「それが、甲板に大きな影が差したと思ったら、そこから巨人が――ヒッ!?」


 完全な奇襲だった。

 ミズミカドの生徒が悲鳴を上げたのとほぼ同時に、背後の影から何者かが現れ――背中越しに、俺の喉に刃を突きつけたからだ。

 それは、巨大な鎌であった。


「ええと……一番偉そうなのは貴方だと思いましたので、こうさせてもらいました……」


 背後から、気弱そうな声がする。

 しかし俺の喉に突きつけられた鎌の刃は微動だにしない。


「動かないでください……でないと、おたがい不幸な目に遭うんですけど……」


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― 新着の感想 ―
何やってるんだ森久保ォ!(風評被害 マリウスの背後を取れる者がいたとはなぁ
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