第三四三話:邂逅・鉄血生徒会
ユーリエの轟竜が浮き砲台を撃破し、雷光号が新たな強襲形態でもう一基の浮き放題を撃破したその一瞬、俺は同時に最後の一基を撃破した麒竜の方を見ていた。
麒竜が最速の竜と呼ばれる由縁、その超高速移動の正体を知りたかったからだ。
謎を解く鍵は、ミュートの超高速と違い、周辺の温度が下がること。
この時点である程度答えは絞られているが、実際に加速したところを目にして確定させなければならない。
答えはあっさりとでた。
超加速を開始する直前、麒竜の周辺がわずかながらも虹色に輝き、続いて麒竜全体が進行方向に伸びた。
——そういう、ことか……!
もうまちがない。直後に浮き砲台が切り刻まれたが、それも説明が簡単につく。
最速の竜、麒竜は超高速移動時、空間を捻じ曲げている……!
『いやぁすまんね。本校の防衛に参加させてしまって』
目の前に、巨大な顔が浮かんでいた。
距離は強襲形態の雷光号と、統合鉄血学園アイアンワークス本校とのちょうど半分。
そこに陣取った麒竜から発信された映像は、雷光号の数倍はあると思われる映像を映し出していた。
それが全部、顔である。
なにかの石像のような造形であったが、声はずいぶん若かった。
おそらく、アリスとまでいかないが、ユーリエと同世代ではあるまいか。
『ワシが統合鉄血学園アイアンワークス本校生徒会、生徒会長のア・シモフである。諸事情で現在手が離せないため、映像で失礼するよ』
「(いつもそうなのよ)」
ミュートが俺にそっと耳打ちした。
おそらく魔力による秘匿通信でも傍受されると踏んで、逆に内緒話にしたのであろう。
『そしてあたしが、統合鉄血学園アイアンワークス本校生徒会、書記のベ・スターです! よろしくお願いします!』
麒竜の背中で立ち上がったのは、背の低い女生徒である。
濃い黄色の短い髪と黒い瞳。
彼女、ベ・スターが、麒竜の竜公主であった。
「生徒会管理機構の顧問、アンドロ・マリウスです。こちらが海封図書学園ダンタリオン生徒会長、ユーリエ・フランゼスカ、マリウス分校生徒会長、クリス・クリスタイン、同副生徒会長、アリス・ユーグレミア。僚艦は輸送機構のテカテリー——エカテリーナ・ワモアセイ船長です」
『テカちゃんじゃろ。噂は先代からよくきかされておったよ。さて——』
映像からでも、石像の顔が引き締まったことがわかった。
『論功行賞である。副生徒会長』
生徒会長の石像(の首)のとなりに、もうひとつの石像(の首)が浮かび上がった。
生徒会長の方が丸に近いのに対し、こちらは上下に細長い。
『統合鉄血学園アイアンワークス本校生徒会、副生徒会長のハイン・ラインです。まず輸送機構のエカテリーナ船長は、今後一年間、本校との優先的な交易をおこなえるよう取り計います。続いてダンタリオンの超巨大潜水艇——なんでまだ巨人型なんです?』
『おっと、あまりにも動きやすかったんで、そのままにしていたぜ。巡航形態!』
雷光号が潜水艦に変形する。
いまのは完全にニーゴの素の行動であったが、このおかげで潜水艦が超巨大潜水艇、強襲形態が巨人型と呼ばれるのがわかったのは大きな収穫であろう。
『ずいぶんとお早い変形で。——えー、ダンタリオンは、ミズミカドまでの航路と、その復路の安全の保証をいたします。独立勢力の血気盛んな行動は防げませんが、分校による襲撃は決してないとお考えください』
「ありがとう、たすかります」
『ちなみに、ウチでヒナゲシちゃんを預かってもいいじゃよ? ちゃんと責任持って送り返すし』
後方に座るヒナゲシに眼を向ける。
彼女が大きく首を横に振ったのを確認して、俺は正面に向き直ると、
「ありがたい申し出ですが、遠慮いたします。水師陰陽学園ミズミカドのヒナゲシ副生徒会長の帰還は、ダンタリオンとマリウス分校にて執り行いたく」
『……ん、了解した。ほんじゃニ・セゲッターとやらはこちらで捕縛しておくんで安心してよし。——あ、そうだ。そっちにミュートちゃんおるじゃろ』
再び後ろを向き、ミュートに視線を向ける。
ヒナゲシと違って、ミュートは頷いて答えた。
「はい、おりますが」
『いまなら本校第二書記の席を確約する。もどってこんか?』
「ミュート——」
「代わって。お久しぶりです。生徒会長」
『おお、その声はミュートちゃん。元気そうで安心したんじゃよ』
「先程の話は聞いておりました。結論を申し上げると、アタシはマリウス分校に残ります」
『——そか』
「せっかくの申し出を断り、申し訳ありません」
『いや、いいんじゃよ。元気でな』
「はい。生徒会長も、お元気で」
『それでは通信をきるよ。マリウス顧問? 先ほど安全は保証したけど、もしそちらが一騒ぎ起こしたら、それは撤回されるから気をつけてな』
「はい。復路では、ぜひ本校へ表敬させてください」
『もちろん歓迎しよう。では、な』
通信が切れた。
俺とミュート、それにユーリエが同時にため息をつく。
「戻ってもよかったんじゃないか」
「んなホイホイ所属変えるわけにもいかないでしょ。これでいいのよ。それより聞きたいことがあるんじゃないの? マリウス」
「ああ」
さすが元諜報員。話が早い。
「まず、生徒会長と副生徒会長が姿を別のものにした件。あれは何かを隠しているな」
「たぶんね。といっても今回書記が姿をみせていたけど」
「いや、あれは魔法で偽装されていた」
「えっ!?」
ミュートだけでなく、ユーリエもそんな声をあげた。
どうやらふたりとも気づいていなかったらしい。
「頭あたりに、なにか認識に齟齬を起こす魔法がかけておりましたわね。なにを隠していたのかまではわかりませんでしたけれども」
「ヒナゲシは気づいたか」
かなり高度な偽装の魔法である。
一体何を隠しているのか、気になるところであった。
■ ■ ■
アイアンワークス本校生徒会室。
「あー、つっかれたんじゃよー」
机の上に両足をのせて、生徒会長がため息をついた。
「おつかれさまでした。まさかダンタリオンが轟竜だけではなく、巨人まで保有していたとは」
「ほんとそれな」
天井を見上げ、生徒会長がそう答える。
「こっちもはやく、伝説巨人完成させんといけんね」
「巨人の頭にへんな単語つけるんじゃねぇ」
「いやぁ、勢いというやつじゃよ、勢い勢い。それよりも——」
眼下で動き出した雷光号と『デコトランー01』を見下ろして、生徒会長は続ける。
「ミュートちゃんが元気そうで、よかったんじゃよー」
「ジークなんとかの感想ここでいっていい?」
「だめでございます。読者の皆様が全員観ているとは限らないゆえ」
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