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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第四章:商売航路

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第三四〇話:筋肉ムキムキになりたいんです

「肉の缶詰60ケース、キャベツの漬物同じく60ケース、食用油、固形のものが20樽と、液状のものが20樽。確かにお届けしました〜!」


 アイアンワークスの生徒から受け取り標の署名をもらい、テカテリーナはにこやかな営業用の笑みを浮かべた。

 その間にも彼女の搭乗艦『デコトラン−01(ワン)』の可動梁(クレーン)は忙しなく動き、受け取り手の小型飛行船の船倉へ、物資を詰め込んでいく。


「それじゃ、今後とも輸送機構(コンボイ)をよろしく! 次は一月後? おっけー! アタシの艦じゃないと思うけど、ちゃんと代わりのがくるからね! ——はい、次の人ー! 保存用の堅パンひと樽? オッケー。ちょっとまってね」


 可動梁(クレーン)は自動操縦で、他の大口客用に、次々と大型の貨物を搬出・搬入している。

 どうもアイアンワークスでは、食料や原材料を購入し、工業製品を販売しているらしい。


「はい、おまち!」


 ひとかかえもある樽を、テカテリーナは肩に乗せて軽々と運んできた。

 たとえ中身がからだったとしても、俺では一苦労する重さのはずである。


「確かにお届けしました〜こっちに署名ちょうだいね! 毎度!」


 やがてすべての取引が終わり、小型飛行船一隻と数本の箒が、上空の大型飛行船へと戻っていく。

 話を聞いている限りでは、今回の客は統合鉄血学園アイアンワークスのいち分校であるらしい。


「ふ〜おわったおわった! そんじゃ、鍛錬始めますか!」

「まだ鍛えるというのか」


 やや呆れ気味に俺が訊くと、テカテリーナは頷く代わりに力コブを盛り上げて、


「当然! 健全な筋肉は健全な鍛錬に宿るってね!」


 そういいながら、すでに鍛錬を始めているテカテリーナだった。

 ところで予備の錨を重りがわりに使うのは、こちらの心臓に悪いのでできればやめてほしい。

 万一クリスが真似をしたら、重傷では済まないからだ。


「あ、あのっ、テカテリーナさん!」

「うん? なにー、クリスちゃん」

「初歩的な筋肉をつける鍛錬、おしえてもらってもいいですか!?」

「うん。いいよー」

「ありがとうございますっ」

「でも準備にちょっと時間がかかるから、ちょっとまっててね!」


 準備? 筋肉をつける初歩的な鍛錬なのに?




 ——しばらくあと。


「なるほどな」


 貨物をすべて収納したデコトラン−01(ワン)の甲板上で、俺は深く納得した。

 甲板下の船室に至る水密扉は全て厳重に閉められており、代わりに海水を真水に変換する装置が右舷側に設置されている。

 それに対して、俺たちは左舷側に集められていた。


「はい、じゃあみんなこれもってー!」


 そう言ってテカテリーナが手渡したのは、デッキブラシだった。

 つまりこれは……。


「甲板掃除!」


 テカテリーナの指示で夏の軍服から水着に着替えたクリスが、そんな声を上げる。


「そのようだな……」


 これは俺も聞いたことがある。

 海軍の伝統らしいこれは、足腰を鍛えるのと同時に、船の揺れに慣れさせるものであるらしい。


「それくらいなら、私もよくやりましたよ!」

「うん、船乗りはみんなそれをやるよね。だから——こうするの!」


 ただひとり真水変換装置のある右舷側にいたテカテリーナが、装置を力強く操作する。

 すると、装置から組み上げた水がそのまま甲板を右舷側から左舷側へと流れ始めた。

 勢いから察するに、真水には変換せず組み上げた海水をそのまま放水しているらしい。

 そうこうしている間に水の勢いはどんどん増し——増し——いや、ちょっとまて。


「これはもう濁流ではないか?」

「そそ。この水流に抗うの」


 これは、俺——とタリオン——もやったことがある。

 正確には雨で増水した川に縄を腰につけただけで放り込まれ、元の岸に戻るという訓練だった。

 特筆すべきは、流された時の救助を配慮してか、(さき)の陛下も参加されていたことである。

 ただ……。


「やめてください陛下、そのマイクロビキニってなんですか……!」

「あ、マリウスさんがまた過去の悪夢にっ!」

「悪夢なんですかあれ」

「ずれてる! 紐がずれています陛下ぁ! このままでは中身が見えそうに……!」

「マリウスさん! しっかりしてください! ここは一万年以上前じゃないですし、北半球でもないですよ!」

「まだ流されていません! 流されていませんから背中から密着しないでください——!」

「本当にしっかりしてください! それとも密着して欲しかったんですか?」

「——む。すまない、アリス……」

「いまので正気に帰るんですね」


 なぜかクリスに呆れられている、俺である。


「というかマリウス艦長も参加するんですか」

「ああ、(さき)の陛下にならって、救助を兼ねようと思ってな」

「いちおう転落しないようにはなっているよ?」


 テカテリーナのいう通り、右舷の舷側には積荷を抑えるための網が展開されていた。

 あれがあれば、水で押し流されてもそこで引っ掛かるというわけだ。


「とはいえ、念には念を入れたほうがいいだろう」

「おっけー! そういうことなら」

「ところでなぜユーリエ卿も参加を?」

「その……多少は筋力をつけたほうがいいかと思いまして」


 同じく水着姿——アリスやクリスのそれと違って、白いワンピース型であった。あとで聞いた話では、海封図書学園ダンタリオン指定の水着らしい——となったユーリエが、杖の代わりのようににデッキブラシを持つ。


「ヒナゲシは?」

「わたくしも、体力をつけたいとおもいまして!」


 テカテリーナが力瘤を作る時とおなじ格好で、ヒナゲシ。

 しかし悲しいかな、筋肉は少しも盛り上がらなかった。


「ミュートは——」

「あたしはパス」

「えぇっ。ミュートさんはやりませんの?」

「どう考えたって真っ先にながされるっつーの!」

「案外やってみたら楽しいかもしれませんわよ?」

「子供に新しい遊びを教えるノリで誘うんじゃないのっ! それにあたしの基本戦術は受けるじゃなくて避けるなの!」

「ときには避けられない戦いもありますわ……」

「それでも避ける道を探すのがあたしのやり方なのっ!」


 今のはヒナゲシもミュートも正しい。

 戦術に広く浅く多彩性をもたせるか、それとも狭く深く一点集中するかは、それぞれである。

 俺自身としては、ある程度基礎を学んだら、一点集中式の方が好ましいと思っていた。


「というわけで、艦橋の上で様子を見ているわ」


 その瞬間、ミュートの姿がかき消える。

 みあげれば、デコトラン−01(ワン)の環境の上に超高速移動したミュートが、ゆっくり腰をおろしていた。


「よーし、そんじゃはじめるよー!」


 どうやらここからが本番であったらしい。

 テカテリーナが再び力強く装置を操作し、水流の勢いが一気に増す。


「ああーっ!? ふ、ふんばりがききませんわーっ!?」


 ヒナゲシが真っ先に脱落した。


「これは……思っていたより……あっ」


 妙に艶かしい声をあげて、ユーリエが脱落する。


「ふぎぎぎぎ……!」

「これは……ちょっときついですね!」


 クリスとアリスは、重心を落として激流に耐えていた。

 

「おおっ! ふたりとも筋肉(ガッツ)あるー! もうちょっと強いのいってみる!?」


 答える余裕がないのか、クリスはもう答えなかった。

 

「よーし、ふたりともいいよいいよ! でもちょっと初心者には強すぎのような——あ」

「どうした? テカテリーナ」

「ごめん! これアタシ用の強度だわ!」

「なに!?」


 驚きながらもほぼ反射で俺はアリスを救助していた。

 続いてクリスを救助しようとするが——。

 その前に片手だけの手信号があがる。

 内容は……救助不要。


「止めるよ! 過度な負荷は筋肉に悪いから!」

「たのむ」


 テカテリーナが放水を止める。

 その頃クリスは——かろうじて右舷側に到着していた。


「クリス! 大丈夫か、クリス!」

「うぅ……全身の筋肉が痛いです……」


 かつて濁流で訓練させられた俺と同じ感想を漏らして、クリスは静かに座り込んだ。


「すごいねぇ……クリスちゃん。いきなりこの強度でクリアするなんて、あたしもびっくりだよ」


 テカテリーナが、感動した面持ちでそういう。


「これで、私も筋肉ムキムキになれますか!?」

「うーん、その前にひとついい?」

「はい、なんでしょう」

「クリスちゃんは、なんで筋肉をつけたいの?」

「それは、私の体力が少ないからです」


 年齢のことはあえていわずに、クリスはそう答えた。


「……あのね、クリスちゃん」

「はい」

「筋肉つけても体力は別に増えないよ」

「えっ」

「むしろ体を動かす熱量の消費が大きくなって、持続力は下がる」

「ええっー!?」


 どうやら、筋肉と体力は同義だと思っていらしい。

 

「クリスちゃんはまず、総合的に体を動かすことを覚えよう。そうすれば、アタシみたいに筋肉(ムキムキ)にならなくても。自分で思うような理想の肉体を手に入れることができるようになるか」

「本当……ですか?」

「うん、なんだったら、アタシが一からエクササイズをサポートするから。だから、基本から一緒にはじめてみよう?」

「……はい! よろしくお願いします!」


 テカテリーナの手を借りて、クリスは再び立ち上がったのであった。


「美しい友情ですわ〜! それにテカテリーナさん、教えるのもお上手ですのね」


 ヒナゲシが感極まったかのように、そう呟く。


「ええ、テカテリーナ先輩は生徒会長としてとても優秀で、面倒見の良い方でしたから」


 ユーリエが得意げに、そう答えた。


「どうでもいいんでだけどさ、セーフティの網にひっかかったままだと、あまり格好良くないわよ?」


 いつのまにか艦橋からおりていたミュートが、そんなふたりを救護する。


「あの、マリウスさん?」

「どうした、アリス」

「そろそろその、お姫様だっこされるままなのは恥ずかしいんですが……」

「——すまない」


 アリスを救出したままだったのを、すっかり忘れている俺であった。


「いまさらですが、なんでマイクロビキニを?」

「そこらにある紐を適当に水着にでっち上げました」

「なんとおそろしい……!」


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あけましておめでとうございます 先の陛下はわざとやってるんじゃないかと思いますねぇ へぇ、紐って水着になるんだ(混乱
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