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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第四章:商売航路

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第三三九話:ウィンター・ミュート強化計画

 今日の洋上は晴れ。波は穏やかであった。

 こういう日は何もしない——というわけではなく、アリスとクリスはユーリエとヒナゲシに魔族の風習を習っているし、ニーゴはテカテリーナと通信機越しに操船技術について意見を交換しあっている。

 リブラはまだ全員と顔を合わせたくないということでアリス——が好意で提供してくれた——の部屋でこもっているが、これはまぁ仕方がないだろう。

 そして俺とミュートはというと——。


「ふむ……」


 上空を、白い軌跡を描いて箒が飛んでいく。

 そう、ふたりで飛行試験に行なっているのであった。


『ねぇ』


 魔力に通信で、上空のミュートから声が届く。


『なにか的を出せない? ついでにいうとこっちにぶつかってくるようなやつ!』

「ふむ……可能だが、衝突の上墜落というのは無しだぞ」

『誰に向かっていってんのよ! 全部かわしてみせるわ!』

「そういうことなら——」


 魔力を使い、海水からミュートと同じ大きさの水球をいくつか作り出す。

 そしてそれぞれを別の角度からミュートの軌道に交差——つまり衝突——するように仕込み、一斉に放った。


『来なさい!』


 こちらが放った水球は、計六発。

 ミュートは一発目をすれ違うように身体を捻って避け、二発目を急上昇して躱す。

 そして三発目は突然の急降下と錐揉みで回避、四発目と五発目は左右に連続旋回して躱す。


『どうよ! あたしも結構いけるでしょ!』

「油断するな、あと一発あるぞ!」


 どうも四発目と五発目を同時に狙わせたのがまずかったしい。

 真正面から六発目が迫るが、回避するには距離も時間も足りない。


『て、てーい!』


 俺が手を出す前に、ミュートは炎の魔法でそれを撃墜したのであった。

 だがしかし、あれは……。




「しょうがないでしょ! あたしの攻撃魔法はだいたい普通の生徒と変わらないのよ!」


 炎の魔法で相殺したとはいえ、爆発四散した水球をもろに浴びてびしょ濡れになったミュートが、先手を打つようにそういってきた。

 おそらく、自身も気にしているのだろう。

 だが……。


「少々、火力不足だな……」

「いわれなくてもわかるっての!」


 指先から風の魔法で髪を乾かしているが、先に真水で洗ったほうがいい。

 そうしないと、塩が残ってゴワゴワになるはずだが……。


「とりあえず、風呂に入ってくるといい」

「えっ、あれって真昼間からでも入ることができるの?」


 意外なことだが、魔法で真水をいくらでも確保できる南半球でも、風呂は贅沢品であった。

 どうも生活する区域が限られているためか、伝統的にシャワーのみというのが普通であるらしい。

 そのため、ユーリエやヒナゲシ、そしてテカテリーナまでもが雷光号に設けた風呂を絶賛するという事態が発生した。

 機会があれば、図書館塔にも作るべきだろうか……。


「その間に、俺は箒の強化を考えておく」

「悪いけれど、お願い。これじゃ決め手にかけるものね」

「ちなみに、箒の機動力はいまのが限界か?」

「まさか。本気出せばもっといけるわよ。……一発避けきれなかったあとでいうと嘘っぽいけど」

「ということは、箒がもう少し重く、高出力でもいけるか?」

「そうね。やれないこともないわ」

「わかった」


 であれば、かねてから設計していたものを組み込もうか……。




「で、なによこれ」


 雷光号の甲板でそれを皆に披露すると、風呂上がりのミュートは明らかに警戒した声を上げた。


「っていうか、あたしがお風呂に入っている間になんで箒を改造できるのよ」

「普通ではないか?」

「普通じゃないわよ!」

「普通ではないです」

「普通ではありませんわ!」


 ミュートどころか、ユーリエとヒナゲシにもそう言われてしまう。

 さいわい、もう慣れたのかアリスとクリスは何も言わなかった。


「まぁ、伝説の魔王ならこれくらい当たり前なんでしょ。で、これなに?」


 唯一肯定的な感想をくれたテカテリーナが、箒の真下に懸架した銃身を指差す。

 

「それはとりあえず機関銃と名付けたものでな。とりあえずミュート、それに跨いで浮上してみてくれ」

「え、いいけど……」


 ミュートが言われた通りに箒に跨り、浮上する。


「次にユーリエとテカテリーナは、風の魔法でミュートの箒を固定してくれ。多少の反動は相殺できるくらいに」

「わかりました」

筋肉(OK)!」

「ちょ、ま、なんでよ!?」


 当然ながら、ミュートから抗議の声が上がる。

 だがもちろん、それは織り込み済みだ。


「本来は推進していることが前提なんだ。今は浮いているだけだから、風の魔法なりなんなりで固定する必要がある」

「……理解したわ。一体何を仕込んだのか、すごく気になるけど」

「よし。では、箒の柄の右側に、銃把と引き金が横向きに生えているだろう」

「あるわね。いつのまに箒本体まで手を入れているのよ……」

「よし、照準は箒の進行方向と同軸だ。まだ照準装置はつけていないが、希望があればどのような形式の——」

「いらないわ。箒の上で精密な射撃はつかわないでしょ。それに進行方向と同軸なら、なくても十分当てられるわよ」

「では、標的を出したら引き金を引いてくれ」


 ミュートの前に、先ほどの水球が浮かび上がった。

 同時に、ミュートが引き金を引く。

 銃声が連続(・・)で鳴り響いた。

 箒の下に懸架した銃身後部に内蔵した箱型弾倉計二百八十発が、あっという間に空になる。

 もちろんその頃には、水球は四散していた。


「……ふむ、ちょっと装弾数が足りなかったか」

「——ねぇ」

「もう少し増やせるが、重量増加は避けられないな……」

「——ちょっと」

「そうだ、重量軽減の魔法を内蔵しておくか。少々整備性が悪くなるが——」

「——話をききなさい!」


 ついにミュートが怒った。


「なんなのよこれ!」

「連続発射機関を銃に取り付けた長銃だ。とりあえず、機関銃と名付けた」


 動作方法は極めて単純だ。

 銃を撃った時の反動と、火薬の噴射を利用して、激鉄を起こし次弾を装填する。

 ただし、その機構を組み込むとどうしても銃本体が大きく重たくなり、携行できなくなる。

 そこでミュートの箒に組み込んだというわけだ。


「あっそう……極めて単純とかいったけど、これアイアンワークスで現在絶賛開発中のブツよ、これ」

「ほう——それならば、近いうちに向こうも完成させるだろうよ」

「あたしはそう思わないけどね。もう何年も研究されているけどいまだに実現できてないし。っていうかこれ——」


 箒から降りてミュートは続ける。


「めっちゃ空戦の形が変わるわよ——ってあつぅ!?」

「銃身に触るからだ……!」


 連続発射すると、摩擦熱により銃身が加熱することをすっかり伝え忘れていた、俺であった。


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