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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第四章:商売航路

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第三三七話:魔王・興奮!

「雷光号、潜望橋を残して半潜水状態」

『あいよ! 半潜水状態、いくぜー!』


 操縦室後部に急遽設けた長椅子で、ユーリエ、ミュート、ヒナゲシがそれぞれ身を固くしたのが気配でわかった。


『せっかくだから、前方の映像を出すぜ』

「ああ、たのむ」


 海のごく浅い部分を、雷光号が進んでいく。

 今は昼前なので、蒼と碧が混じった独特の色合いが目に優しい。

 斜め前方には、テカテリーナの輸送艦『デコトラン-01(ワン)』の船体が、静かに進んでいるのがよくみえる。

 あちらも雷光号とおなじく、少人数――というかひとり――で動かせるようなのだが、今度その仕組みをじっくりときいてみたいところであった。


「本当に、潜りながら進んでいるのね……」


 ミュートがそう呟いた。

 あちらにはない(・・)ものなので、声には態度と同じく緊張の色が混じっていた。


「たしか、アイアンワークスはそこまで把握してるのだったな」


 操縦席から振り返り、俺はそう訊く。


「水竜プレシオをなんらかの手段で沈めたでしょ? あれで海中からの攻撃ってほぼ特定されているわ。ゆえに謎の新戦力は、海中を進める艦って、判断されたわけ」

「なるほど」


 さすが大規模な学園群を治める本校の生徒会、そこまで解析されていたか。


「では、アイアンワークスの勢力圏でも、潜水したまま進めても問題なさそうだな」

「いや……浮上しといた方がいいわよ。問答無用で垂直飽和攻撃くらいたくないでしょ。輸送機構(コンボイ)の護衛をしているって体で進んでいれば、少なくとも予告なしの攻撃はしてこないはずよ」

「それもそうだな」


 垂直飽和攻撃されたとしても、深く潜水していれば回避できるかもしれない。

 だが、万一こちらの潜水深度より深く攻撃できる手段をアイアンワークスがもっている可能性を考えると、あちら側の攻撃を誘発させる事態は、なるべく避けた方が賢明だろう。

 それにしても、飽和攻撃できる規模の攻撃部隊をもっているとは……。


「マリウスさん、デコトラン-01(ワン)から発光信号です。魔力通信の許可が欲しいそうですが」

「繋いでくれ」


 俺が作った魔力通信だが、それは南半球ではほぼ同じ仕様で広く使われているらしい。

 原理は極めて単純なので偶然の一致というほどのことはないのだが、自然発生的に同じように使われるのは、なんとなくこそばゆい俺であった。


『ハァイ! お取り込み中のところいいかしら?』

「ああ、かまわない」

『そろそろダンタリオンの勢力圏を抜けて、いわゆる中立地点に入るわ』

「勢力圏?」

「みもふたもないことをいうと、轟竜の射程範囲です」


 周囲に他校の生徒がいるのにもかかわらず、ユーリエはあっさりとそういった。


「ユーリエ卿……? あまりそういう軍事機密は――」

「ほとんど周知の事実ですし……」


 ミュートがそっぽを向いた。

 ヒナゲシも、そっぽを向いた。


『アハハハハ……! まぁぶっちゃけアタシのときよりユーリエの方が勢力圏広いんだから、いいんじゃない?』

「そうなのか……」

「いえ、テカテリーナ先輩の時は図書館塔に来ていた航路はもっとありましたので……!」

『蔵書を全部引き取ってくれる学園がいたら、ユーリエにもここまで苦労をかけなかったのにね』

「先輩……」

『はいはい。暗い話はこれで終わりよ。ここからは商売のお話。中立地点に入ったことにより、いろんな勢力と逢うことになるから、そのつもりでいてね。もっとも、ここ辺りだとアイアンワークス関係者か、輸送機構(コンボイ)関係者だけだろうけど』

「わたし達も、なにか交易品を用意しますか?」


 ふと脳裏に、あの形容しがたい魚介類の姿が思い浮かんだ。

 アリスとふたりだけだったときはそれで商売をしたものだが……。


「ヒナゲシやミュート、それにユーリエを乗せている。今回はテカテリーナの護衛に専念しよう」

「了解しました」


 これで、あの得体の知れない魚介類を釣る必要はなくなった……はずである。


『この経路でいくと、最初に落ち合うのは元アイアンワークスの飛行船ね』

「飛行船――飛行船か!」


 ミュートやユーリエがいうには、統合鉄血学園アイアンワークスの艦船は、基本空を飛んでいるという。


「学園に、返還しなくてもいいのだな……」

「本校は常に改造しているから平気だけど、普通は古くなればなるほど、使い勝手が悪くなるでしょ? だから卒業した優秀な生徒に譲渡されることがあるわけ」


 なるほど、ミュートのいうとおりのやり方なら、古い艦を破棄する手間がはぶけるというわけか。


『そろそろ見えてくると思うけど、どうする? 見学する?』

「是非もない。雷光号、浮上」

『あいよ! 浮上すんぜ!』


 操艦はニーゴにまかせ、潜望橋から外に出る。

 雷光号とデコトラン-01(ワン)の前方の上空に、小さな影がみえた。

 それが、どんどん大きくなっていく。


「あれは……!」


 差し渡しは、普通の戦艦くらいだろうか。

 しかしその形状は水上を行く船とは明らかに異なっている。

 まず船体は雷光号と同じく葉巻型となっており、全長に対して全幅の割合がかなり多い。 そしてその丸っこい船体の下に、艦橋や砲塔が逆さに生えていた。


「あれが、飛行船か!」


 機関は雷光号と同じく魔力機関だろう。

 だが、純粋な魔力を出力して推進や飛行を行う雷光号と違って、その飛行船は――。


「みろ、アリス!」

「ひゃっ!?」


 思わずアリスを抱きかかえて、高く掲げる。

 そうしてもそれほど距離は変わらないと頭の片隅では判断していたが、そうせざるを得ないくらい、俺は興奮していたのだ。


「気嚢だ! あの中に空気よりも軽い気体が入っていて、それで浮いているんだ!」

「あ、あの、わかりましたらマリウスさん! さすがにおろしてください……」

「――すまん」


 普段はあまり恥ずかしがらないアリスが、真っ赤になっていた。


「推進器が、スクリューのままですね。形がだいぶ変わっていますが……」


 なぜかすこし顔の赤いクリスが、そう指摘する。


「原理は一緒だ。水中より抵抗がないから、高速で回転させて推力を得ているんだ。だが、あの方式では降下すると気嚢の再充填が大変で非効率的だが……」

「さっすが! よくきがついたね、しっかりみていな!」


 デコトラン-01の甲板から顔を出したテカテリーナがそういう間に、飛行船からいくつかの影が飛び出す。

 小さい影は、俺がみたこともある箒だった。

 そして大きな――といっても飛行船本体に比べてかなり小型であったが――影はというと。


「翼のある、飛行船?」


 アリスがそう呟く。


「そうか! ステラ雷光号と同じく翼を併用して、浮力を調整できるようにしているのか! いってみれば飛行船用の(はしけ)だ!」


 大型艦で直接島に出入りすると、その出力消費量はかなり効率が悪くなる。

 だから、小型の船を出して往復させることで、無駄な消費を抑えるようにしているのだ。

 しかも気嚢の消費が必要最低限に抑えられるように、翼を使っている!


「すごいぞ! 一万年後の未来にこのような技術が待っているとは……!」

「気持ちはわかりますが……もうちょっと落ち着いてください」

「――む」


 クリスの指摘に潜望橋上を見渡してみると、アリスは真っ赤になったままだったし、ミュートはちょっと呆れた顔を、そしてユーリエとヒナゲシはみてはいけないものをみたかのように、ちょっと気まずそうな顔をしていた。


「すまない……少し興奮してしまった」

「ですから、気持ちはわかります」


 クリスの返事には、どことなく優しい音が含まれていたが、少し自重するべきだったと思う。

「マリウスくんが興奮している!かわいい!」

「かわいいという表現はどうかと思いますが、わかりますぞ!」

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