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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第三章:スパイスクールデイズ

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第三三〇話:正しいお嬢様の護送方法


「というわけで——」


 海封図書学園ダンタリオン最上階、ユーリエの私室。

 私室なのだが、現時点ではこの学園の最高意思決定の場となっていた。

 本来はふたつ下の階に専用の会議室があるのだが、ここで事足りるとユーリエが譲らなかったためだ。

 あまりよくないことであったが、俺もかつては魔王城にあった本来の書斎に移動するのが面倒に感じて、私室を事実上の書斎にしていたことがあるので、あまり強く言えない側面がある。

 ちなみに俺、アリス、クリス、そしてニーゴは雷光号の各部屋から毎日ここまで移動してきている。

 また、現在四階下の海面上一階に、ヒナゲシの私室とミュートの私室があった。

 問題は、そのヒナゲシである。


「ヒナゲシはなるべく早くミズミカドに帰すべきだと思う」

「でしょうね……」


 クリスが頭が痛そうな顔で同意する。

 当初は自ら明かした水師陰陽学園ミズミカドの副生徒会長という地位を偽装した、間者ではないかと思われていたのであるが、その学園独自の魔法『陰陽術』をみせられて、確信した。

 彼女は本物の副生徒会長である。

 だが、そうなるとある意味間者よりも厄介な存在となる。


「対校戦の規則では……」


 少し疲れた様子で、ユーリエが説明をしてくれる。


「撃破した他校の生徒は、可能な限り救助するよう定められています。その上で、自身が残るか、あるいは所属する学園に戻るかの意思表明をした場合、勝利した学園はその希望を可能な限り叶えなくてはなりません」

「期日は設けられているのか?」

「いいえ。広い海ですし、ほとんどの本校が移動するので、正確な位置を把握するのも大変ですから……」

「そうか……厄介だな」


 日数が規定されていれば、それまでに間に合わせればいい。

 しかしそれが決まっていないのであれば、相手側の気分(・・)で、こちらを糾弾することができてしまう。

 そうなれば生徒数が圧倒的に足りないこちらは、不利を強いられる。

 それだけは、避けたかった。


「以前全体図をお見せしましたが……ここからミズミカドはかなり遠いです」


 こちらの支配域は、この図書館塔ひとつだけだ。

 そこから南に目を向けると、統合鉄血学園アイアンワークスの支配域が帯状に広がっているがわかる。

 さらに南——つまりアイアンワークスの支配域を突破してようやく、水師陰陽学園ミズミカドの支配域に到達できるわけだ。


「ミズミカドとアイアンワークスが結託されたら、終わるな」

「最悪の想定ですが、ありえますね……」


 もしそこまでやるのなら、副生徒会長をあえて派遣したことになる。

 そうだとするとミズミカドの生徒会長は、かなりのやり手である。


「あの、転移の門を一時的に作るというのは?」

「残念ながら、不可能です」


 アリスの質問に、即答するユーリエ。

 曰く、異なる勢力間の転移は、受け手側が自動的に拒否するのだという。

 なるほど、たしかにそれが無いと夜襲し放題になってしまうだろう。

 実際、俺が封印された後タリオンはそれを駆使したことを匂わせていた。


「つまり、どうやっても一度は直接向こうにいかないといけないということですね」

「そうなるな」


 一応こちらにはアイアンワークスにもミズミカドにもない潜水艦があるが、今度はミュートの存在が問題となる。

 まず確実にアイアンワークス側は対策してくるだろうし、ミュート自身を連れていくのにも、塔においていくのもどちらも問題があるからだ。

 おいておけば何をするのかわからなくなるし、連れていけばこちらの情報はほぼ筒抜けとなるだろう。


「なんか……有効打がないように思えてきたんですが」


 眉間に皺を寄せて、クリスがそう指摘した。


「いえ、手段はまだあります」


 対するユーリエが、珍しく自信に満ちた顔で断言する。


輸送機構(コンボイ)に依頼して、ヒナゲシさんを護送していただければよいかと」


 ……輸送機構(コンボイ)

 たしか、ミュートとアイアンワークス生徒会との会話にあったような気がするが。


「ユーリエ卿、その輸送機構(コンボイ)というのは?」

「そういえばご説明がまだでした。輸送機構(コンボイ)は、全学園の生活基盤を支える商船のみで構成された大規模船団です。卒業生の皆さんはほぼ全員、この輸送機構(コンボイ)に所属します」

「——!? そうか、卒業生の話を聞かないと思ったらそういうことか……!」


 実は前から気になっていた。

 ユーリエのいう前の生徒会長はどこに行ったのか。

 魔族は六十年、人間は六年の修学期間を終えたあといったいどうするのか。

 そして塔の中にある保存食は、いったいどこから用意してきたのか。

 それらが、一度に氷解した瞬間だった。


「その輸送機構(コンボイ)には、いつ会える?」

「明日のお昼前に一隻の商船がいらっしゃいます。そのときにお預けすればよろしいかと」

「その商船は、信用しても大丈夫なのか?」


 卒業生というからには、顔見知りだとは思うのだが。


「はい。なぜなら次に来る輸送機構(コンボイ)の船長は——」


 まるで読んだことのない本を見つけたかのように、明るい表情でユーリエは答えた。


「私の前の、生徒会長ですから」


「コンボイかぁ……いいなぁ」

「卒業したら自動的に就職とは、羨ましいシステムですな」

「わたしも自分の船で好きなものを運びたい!」

「わかりますぞ」

「そしてマト◯クスを開いて宇宙をひとつに!」

「そっちはわかりませんぞ」


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