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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第二章:海封図書学園ダンタリオン

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第三二四話:戻ってきたらえらいことに

「ありがとね、イケメンさん」


 最新部から一気に海面下一階に戻ってきたところで、クリスの帽子の上に陣取っていたリブラが、ポツリとそういった。


「なんのはなしだ?」

「あのマッケンとかいうイケボの図書館塔に、あたしのこと話さなかったでしょ」

「ああ……」


 おそらく、マッケンⅢはリブラの正体を看破できるだろう。

 だがそれは、記憶が戻っていない彼女にとって好ましくない事態を招くのでは——と思ったのだ。

 ユーリエもそれに気づいたので適当に誤魔化したのだろうし、俺も口を出さなかったのはそういう理由である。


「それに、謎は俺自身で解きたかったからな。おそらくユーリエ卿もそうだろう?」

「え? あ……そうですね。いわれてみればそうかもしれません……」


 あまり意識していなかったのだろう。

 自分で自分に驚いた様子で、ユーリエはそう答えた。


「ふふっ、魔王ってみんなそんな感じなの?」

「多かれ少なかれ、魔王というのはそういうものだ」


 (さき)の陛下やユーリエをみていると、根幹部分は俺と変わらないのではないか。そう思う。


「なるほどねぇ」

「あの、それよりも……」


 少し顔を青ざめさせて、ユーリエが俺に声をかけてきた。


「四人の公主(マスター)を揃える話ですが……どうしましょう」

「どうしますもなにも、これから集めるしかないだろうな」

麒竜(きりゅう)餮竜(てつりゅう)はいいとして、爛竜(らんりゅう)公主(マスター)どころか本体すら所在不明なのですが……!」

「おそらくだが、他の二竜の公主(マスター)がこちら側にいれば、自然と出てくるだろう」

「なぜです?」

爛竜(らんりゅう)自身が、マッケンⅢのいっていた条件を知っているからだ」


 この図書館塔に収蔵されている自身の記録を改竄、隠蔽しているので、その可能性は高い。


「おそらくユーリエ卿を自ら試そうとするだろう。だから、その時になって考えればいい」

轟竜(ごうりゅう)がいるとはいえ、あまり気持ちのいい話ではありませんね……」

「そうかもしれないな」


 不確定要素といえば、爛竜(らんりゅう)最賢(さいけん)といわれていることだろうか。

 タリオンのような権謀術数を得意とする竜ならば、心してかからなければならない。


「とりあえず、戻ってやることは——」


 そう言いながら、海上階への扉を開けた時である。

 轟音が、身を包んだ。

 もはや聞き慣れた感のある、砲撃音である。

 そして続くのは、巨大な生物によるものと思しき咆哮。

 最後に屋上に設置していた、高射砲の射撃音が響く。


「こ、これは……」


 狼狽えるユーリエに対し、


「来てますね」

「ああ、それも両方来ているな」


 至極冷静に事態を把握するクリスだった。

 全員で屋上まで駆け上がり、音のした方向をみる。

 そこには——。

 やや小型な戦列艦——こちらでいうところの巡洋艦級——と、仮想化された竜が戦っていた。

 問題は、その尋常ではない戦い方である。

 戦列艦は宙に浮かび、竜の方はその翼と背中に武装を施していたのである。


「なんだ、あれ……」

「それはこっちが聞きたいです」


 クリスとふたり、絶句する。

 戦列艦というとても古い艦種を使っているのが不思議だったが、どうも艦全体を風の魔法で包み込み、浮かび上がらせているらしい。

 砲塔も、規則正しく火を吹いているが、その中の一部は文字通り本当に火を放っている。

 対する竜はいうと、ようやく俺の知っている形をしていた。

 四つ足で、大きな翼があり、首と尻尾が長く、口から火を吐く。

 ただ、背中に砲塔があり、翼に至っては先端の根本のちょうど真ん中に、固定砲身が生えている。

 しかもそれはステラ紅雷号(こうらいごう)が使っていた回転式砲身で、件の戦列艦に、砲弾を雨霰と浴びせかけていた。

 気になるのは、首の付け根付近に操縦席と思しきものが見える点である。

 基本的に仮想化された竜は遠隔操縦と聞いていたが、付近に箒に乗った生徒の姿は見えない。


「マリウスさん、どうします?」


 アリスが、遠慮がちに聞く。


「俺なら決着がつきそうなぎりぎりのところで横合いから両方を殴りつけるが……ユーリエ卿?」

「基本的にそれでいいと思います。轟竜の召喚準備を始めましょう」


 自分では名ばかりといっているが、伊達に魔王——生徒会長ではないらしい。

 ユーリエは宝石部分が青から緑色になった杖を掲げると——。


「あ」


 アリスがそんな声をあげて、戦場を指差す。

 その先では、戦列艦の艦首から乾坤一擲といわんばかりに大型砲が火を吹き、ほぼ同時に仮想化された竜が全身を光らせて同じように全力で口から光線を浴びせていた。

 戦列艦の大型砲は仮想化された竜の胴体を貫き、

 竜の光線は戦列艦の舵から斜めにその船体を貫く。

 結果として……。


「両方とも、墜落しましたね」


 呆気にとられた様子で、クリスがそう呟いた。


「雷光号、出航準備」

「お、おう!? どうした大将。とどめ刺すのか?」

「いや、ちがう」


 塔を駆け下り、一階部分の波止場へと向かいながら、俺はニーゴに応える。


「どちらにも生命反応が一名ずつあった。それを救助する」


 威力偵察に来ていたとはいえ、どちらも見殺しにするのには、寝覚めが悪い。


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