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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第二章:海封図書学園ダンタリオン

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第三二〇話:最下層直通シャフトにて

「マリウスさん、壁に——壁に押し付けられています!」


 アリスが真っ先に報告した。

 その表現は、極めて正しい。

 なぜなら、俺も一瞬そう思ったからだ。


「おちつけ、アリス。その壁に立ってみろ(・・・・・・・・・)

「……え? あ、はい」


 さすがはアリスである。

 今のひとことで全く迷わず、壁の上に立った(・・・・・・・)


「な、なんですか、これは……」


 アリスに続いて、クリスも壁——いや、()に立つ。

 同じように俺、ニーゴ、そしてユーリエも同じように立っていた。


「端的にいうと、重力操作だな」

「じゅうりょく?」


 ニーゴが素っ頓狂な声を上げる。


「身も蓋も無い言い方になるが……縦と横を逆転させたんだ」

「なにそれすげぇ」


 聞くだけなら単純だが、その実恐ろしく複雑な魔法である。

 まず本来の重力を完全に零になるまで中和——つまり逆方向の重力をかけ、続いて同じくらいの強さで壁方向に重力をかけているわけだ。

 したがって、消費する魔力は膨大なものである。

 おそらくこの通路一帯のみと思われるが、それでも消費される魔力量は決して少ないわけではない。


「ユーリエ卿、この図書館塔は、いったいどこから魔力を得て稼働している?」

「最下層に設置された巨大魔力炉だと聞いております……」

「巨大魔力炉か。規模は」

「私も実物を見たわけでは無いので、正確なところは……」

「——たしか、四大竜と同じ規模じゃなかったかな」


 リブラがクリスの帽子の上に座ったまま、そう口を挟んだ。

 もしそのとおりだとしたら、とんでもない出力となる。

 言ってみれば、城の跳ね橋に戦艦の機関を使っているようなものだ。


「リブラは、それを見たことがあるのか?」

「ごめん、例によって記憶にない」

「そうか……まぁ、この消費量を考えたら事実であろうな」


 記憶にないとはいえ、いままでリブラから得られた知識から考えると貴重な情報である。


「まってください、マリウス艦長。この図書館塔は、マリウス艦長が探索に加わってから急に活性化しているとユーリエさんはいっています。そんな強力な機関があるのなら、最初から全力で稼働しているのでは?」

「出力的には、クリスの推論は正しい。だが、おそらくここの機関は、長期間駆動を考慮して稼働していると思われる」

「あ……一万年、でしたっけ」

「そうだ。おそらく内部に入った魔族の魔力をわずかに吸収しながら、今日(こんにち)まで稼働してきたのだろう」


 もちろん稼働前に、巨大魔力炉にありったけの魔力を充填していたはずだ。

 記録では当時生徒数が多かったということなので、魔力には事欠かなかったのだろう。


「では、その実物を見に行くか」


 俺たちは元々床であった、背の低い仕切りを乗り越えると、本来の落下方向(・・・・・・・)へと歩き始めた。

 最下層直通シャフトと呼ばれていた通路は、通路全体がぼんやりと輝いており、足元に不自由はなかった。


「なぜ——」


 周囲を見渡しながら、ユーリエが不思議そうに呟く。


「——なぜ、わざわざ重力の方向を変えるほどの仕組みを用意したのでしょう」

「そうだな」


 魔力がある者が使う前提であれば、浮遊なり飛行なりの魔法で降りていけばいいだけの話だ。

 それをわざわざこうしているということは、魔力の少ない、あるいはない者がここを使うという前提になる。

 つまり——。


「この図書館の最下層まで行ける学力があるのであれば、魔力のありなしはあまり問わないということなのだろう」

「なるほど……」


 おかげで、アリスとクリス、それにニーゴもこうして同行できるわけだ。

 もっとも俺であれば、全員まとめて抱えながら飛ぶことも可能であったが……。

 ——そんなことを考えていた直後、照明が消えた。

 即座に俺が右手の指先に、ユーリエが杖の先端に明かりを灯す。


「故障か?」

「いえ、そういう類のものはいままで——」

「あ!」


 ユーリエと原因を究明している間に、アリスが声を上げた。

 指差す先に映っているのは、星空である。


「ウィステリアの王宮を思い出しますね」


 天井を見上げたクリスが、目を細めてそう呟いた。

 たしかあれは、天井に小さな明かりを仕込んで実際の夜空を再現したものであった。

 こちらもおそらく意図は同じであろう。

 ただし、仕組みは魔法である。

 おそらく、雲ひとつない夜空を再現するために長時間なにかに映像を記録させて、それを再生しているのであろう。

 この星明かり、本物のそれよりも光度が高かった。

 つまり、明かりがなくても歩けるのである。


「なかなか悪くない趣向だな」

「ですね!」

「同意します」

「そうですね……」


 言葉には出さなかったが、ニーゴとリブラも頷いている。

 やがて、穏やかな曲調の音楽も流れ始めた。

 しんみりとした、どこか哀しげな、それでいて明るさも感じさせる曲である。


「これは一体なんだろうな……」


 思わず口に出すと、思わぬところから回答が得られた。

 天井から、先ほどの閲覧室のように、声が響いたのである。


『星の輝く季節となった』

『——春』

『今日この日、僕たち』

『——私たちは』

『『海封図書館学園ダンタリオンを、卒業します!』』


「マリウスさん、これはなんですか?」

「私も知りたいです」


 アリスとクリスが、疑問の声を上げる。


「これはだな——」


『楽しかった』

『——夏休み!』

『互いを称えた』

『——遠泳会!』

『みんなで焼いて食べた』

『『シーサーペント!』』


「——俺にも、わからん」


 卒業というので、何かの式典だと思うのだが、何をしているのかさっぱりわからなかった。

 せめて、過去の映像があれば良かったのだが……。


「ちなみに臣は第一回卒業式にも参加しておりませんぞ。開校したら即座に戻りましたゆえ」

「うーん、こういうのをマリウスくんやタリオンくんにやらせたかった」

「おやめくだされ。割とマジで」


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― 新着の感想 ―
[良い点] シーサーペント「解せぬ」 まあ魔力持ちだらけだし、そのくらいの狩りはね
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