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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第二章:海封図書学園ダンタリオン

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第三一八話:魔王だって、盛りたいときがある

「え。……ちょ、ちょっとまってください……」


 想定していた反応であったが、ユーリエは混乱していた。


「現在位置は、ほぼ中層の真ん中あたりです。そこから私も未踏の最下層に、一気に行ける秘密の通路があると……?」

「そそ。みたことない? ちょっと重要そうな閲覧室」


 それに対して、情報を提供する側のリブラは気楽なものである。

 彼女は久々に身体を動かすように、肩を片方ずつ伸ばしながら、そう答えたのだった。


「ええとたしか、二層ほど下ったところにかなり豪華な閲覧室がありますが……」

「それだよ、それ」

「ですがあそこには隠し通路があるような本棚はなかったと思うのですが……」

「中央にあるでしょ、四魔王像」


 ユーリエが鋭く息を飲んだ。

 どうやら、思い当たるものがあるらしい。


「なるほど、あそこから……でも……そうだとすると……」

「あの、ユーリエさん。できればご説明いただけますか?」


 考え込むユーリエを補助となるように、クリスが助け船を出す。

 しかしユーリエは頭を横に振ると、


「……いえ。あれはまず現物を見た方がいいです。早速、出発致しましょう」

「おっけー、んじゃいこうか」


 こうして俺たちは薬瓶や水槽が並んだ研究室を出て、さらに下ることになった。


「リブラ」

「なんだいイケメンさん」

「貴様はこの図書館塔自体の、自律した意思なのか?」


 雷光号や紅雷号四姉妹のように、リブラが図書館塔の自律した意思だとしたら、だいぶ説明がつく。

 だが――。


「ごめん、思い出せないや」


 それが現時点での、リブラの回答だった。


「イケメンさんのいいたいことはわかるよ? でも、この図書館塔のそれではないような気がするね」

「そうか……」


 仮定はあっているが、結果は違っているらしい。

 だとしたら、リブラはなんの自律した意思なのか――。


「着きました」


 階段を降りきったところにある重厚な扉を、ユーリエが開ける。

 そこは、たしかに豪華な閲覧室のようであった。

 図書館の棚は研究室の層に入る前と同じ重厚な造りに戻っていたし、なにより部屋の高さが再び高くなっている。

 中央に柱のようなものがあり、そこから放射状に机と本棚が伸びていた。

 なるほど、これなら通路を隠している本棚はなさそうだが、その柱は――!?


「彫像がありますね」

「はい。文化に関わった四騎の魔王を讃えて掘られたものです……」

「もしよかったら、わたし達にも教えてもらえませんか?」


 アリスが興味津々といった体で、ユーリエに頼み込む。

 どうも、俺とは世代の違いながらも、同じ地位にいた魔王に興味津々であるらしい。


「おまかせください。では皆さん、時計回りに回りながら、みていきましょう」


 生徒にものを教えるように、杖でその彫像を指して、ユーリエは説明をはじめた。


「まず正面の桃色の魔王シ・トリー。サキュバス族出身といわれています。魔族たるもの、もっと自由にを国是として掲げ、魔族の風紀は乱れに乱れました」

「だからこの方、なにも着ていないんですか?」

「はい。ただし、諸魔族をまとめあげ、強力な勢力として確立させたのは事実です」

「な、なるほど……」


 こまったことに、事実である。

 俺が若い頃に旧魔王城の図書室で読んだ資料にも、そう記されてあった。

 その時代に生まれていなくて、本当によかったと思う。


「短髪で眼鏡をかけた方が、風紀の魔王ウェ・パル。桃色の魔王以降の乱れに乱れた風紀をただしました。ただし、御自身は魔王ではなく風紀委員長を最期まで名乗っていらっしゃいました」


 こまったことに、事実である。

 俺が若い頃に旧魔王城の図書室で読んだ資料にも、そう記されてあった。

 風紀委員とは、いったいなんなのか。


「つづいてこちらの三つ編みの方が、恋愛の魔王グ・レモリー。風紀の魔王の治世以降厳しかった魔族の風紀を緩和し、現在に通じる法制度を確立しました。ただその……恋愛方面では奔放な方であったようで、異性同士、同性同士、異種族同士、果ては無機物との恋愛も奨励しておりました」

「無機物……?」

「彫像とか、建物であったと……伝わっています」


 こまったことに、事実である。

 俺が若い頃に旧魔王城の図書室で読んだ資料にも、そう記されてあった。

 ただし、この奔放すぎる恋愛観以外は、俺の治世までその法制度は健在だったのは確かである。

 どうやら、現在の南半球でも健在であったらしい。


「そして最後に、長い髪になぜか下着のような運動着を着込まれた方が、紅蓮の魔王ヴィネット・スカーレット。古典的魔王で唯一、七二の階位に縛られてない方であり、現代の魔王の始祖とも、古典的魔王と現代的魔王の橋渡し的祖存在であったととも伝われております」

「そうだろうとも」


 やはりその彫像は見間違うはずがなかった。

 歴代の魔王の中で最も尊敬する、(さき)の陛下である。


「のちの最終魔(ラスト・ダークロ)――マリウス卿や、この学園を創立されたダン・タリオンを見いだされた慧眼をお持ちであり、マリウス卿の治世の基礎はほぼスカーレット卿の功績という説もあります」

「そうだろうとも」

「公明正大清廉潔白、文武両断の歴代で最も理想的な魔王と(うた)われておりますが――」

「そうだろうとも」

「最後の一説は偽書ではないかという指摘もあります」

「そうだろうと――まってくれユーリエ卿」

「はい」

「最後の一節が偽書?」

「はい。通称マリウス偽書と呼ばれています」

「なぜ俺の名前が!?」

「この説を記載した方がマリウス卿しかありえないと結論づけられたからです」

「……」


 いわれてみれば、俺の後長い間魔王が不在であったなら。

 (さき)の陛下を讃えたのが誰かは丸わかりであった。


「さしでがましいかもしれませんが、そういうことは、あまりしていただきたくないです……」

「やりすぎたか……!」

「自分でゲロってんじゃせわないねぇ」


 容赦のないリブラであった。

ANOYO

前魔王「記録は徹底しているんじゃなかったの?」

タリオン「陛下が前の陛下を賛辞するのを、臣に止める通りはございません」

前魔王「あ……そう」

タリオン「まぁ臣でしたら、八割以上の真実を書き連ねた上で、二割以下を盛りますが」

前魔王「わぁ、あくらつー!」

タリオン「それより運動着が下着みたいと疑われておりますぞ」

前魔王「あーあーきこえませーん!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 下着のような運動着は、ママさんバレーや陸上競技に伝わる伝統的な衣装であり、断じて下着ではない、ないのですよ [一言] どこまで持ち上げたのだ あることないこと、ないことを半分以上盛ったか…
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