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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第二章:海封図書学園ダンタリオン

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第三一七話:名付け名人、アリス

「うおお……!」


 俺たちによって解き放たれた妖精——とおもわれるなにか——は、硝子瓶に背を預け、懊悩(おうのう)していた。

 自分の名前を訊かれた途端、記憶喪失であることに気付いたのである。

 その辛さは、なんとなくわかる。

 もし俺が封印された上に、自分の記憶を奪われてしまっていたら、正気でいられた自信がない。


「ここはどこ……? あたしは誰……? ——いや、ここはどこだかは知ってるんだけども」


 ——多少余裕があるようにみえるのは、気のせいだろうか。


「まいったねぇ……どうしよう、とりあえず適当に有名な魔王の名前名乗っちゃおうか」

「それだけはやめてくれ」


 絶対に偶然とかいって、(さき)の陛下の名を口にする気がしたのだ。


「どうします? 妖精さんにします?」


 とクリスが提案するが……。


「それってさ、人間さんとか魔族さんっていってるのと変わんないんだけど?」

「……発言を、撤回します」


 すぐに取り下げるクリスだった。


「ごめんなさい、ちょっと配慮が足りませんでした……」

「いいよいいよー、気にしていないから。で、どうしようか」


 一同、沈黙せざるをなかった。

 急に仮の名前を決めてくれと言われても、パッと思いつかないものだ。


「こいよぉ……ポチでもタマでもピエールでもいいぜぇ……!」


 当の本人が、挑戦的な表情を浮かべて煽ってくるが、そうなると余計に思い浮かばない。

 いっそのこと、(さき)の陛下の名前を解禁するか?

 もしくは魔王軍の女性幹部を——。

 と、ここまで考えた時である。


「魔族の古い言葉で、図書館ってライブラリでしたよね。では、リブラちゃんってどうでしょうか」


 一切の躊躇をみせずに、アリスがそう提案した。


「リブラ……うん、いいね。いいかんじ」


 と、妖精改めリブラが頷く。


「すごいね、アリスおねーさん。普通しっくりくる名前、そう簡単にスパっとでないよ?」

「アリスさんは名付けの名人ですから」


 なぜか自分のことにように胸を張って、クリスがそう説明する。


「なにせ、北半球の統一船団の名前も、自分の名前をさしだして船団アリスとしたくらいです」

「マジパネェ!?」


 マジパ——なに?


「あの、それよりもひとつよろしいでしょうか、アリスさん」


 ユーリエが、驚いた顔のままで質問する。


「いま、ライブラリとおっしゃいましたね……?」

「はい」

「それは魔族の古語ですが、いったいどちらで習ったのでしょうか?」

「マリウスさんから、簡単な魔族の文字の読み書きを教えていただいたんです」

「いきなり古語を……?」

「いえ、それまで使っていた言葉を優先でした。そのあと単語帳を作っていただいて、そこから少しずつ質問する形で覚えていったんです」

「つまり、そこから……独学で……!?」

「はい」


 ユーリエが、羨望の眼差しで絶句する。

 実は俺も、アリスの学習速度には内心舌を巻いていた。


「アリスさん」

「はい」

「海上にもどったら、もっと魔族の言葉を学んでみませんか」

「いいんですか?」

「はい。アリスさんならきっと、すぐにここの本が簡単に読めるようになるはずです」

「あの——私も、いいですか?」


 クリスが遠慮がちに尋ねる。

 アリスほどの脅威的速さはないが、クリスだって吸収力はかなり高い。


「もちろんです。クリスさんにも、ここの本を原文で読んでいただきたいので……」


 なるほど。

 どうやら、ユーリエは読書仲間を増やしたいらしい。


「いいもんだなねぇ、女の子同士の友情!」

「それよりリブラ、ひとつ聞きたいことがある」

「うん、なに? イケメンさん」


 イケメン——いや、ちゃんと事情を話すと多分話が長くなるのでこちらの疑問を先に話そう。


「先ほど、ここがどこだかわかるといったな?」

「うん。なんでかしらないけどね」

「であれば、ここの構造とかにも詳しいのか?」

「もちろん。なんだったら近くの直通通路から行ってみる? 最下層」


 最下層……!

 ユーリエもまだ到達していない、この図書館の最奥!


「……皆と相談してからになるが、多分いくことになる。準備してくれ」

「おっけー」


 どうも、予想は当たりそうであった。

 この妖精、なにかの実験だけで造られたものではないということに。

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