第三一六話:図書館の妖精?
「あぁ……たすかったぁ……!」
彼女が閉じ込められていた(?)硝子瓶には、脱走防止か暴走防止を見込んだ魔法が仕込んであった。
すなわち、内側からの力を外側にそのまま放出する魔法である。
これが単純ながら強力な魔法で、内側からどんなに力を込めても瓶は壊れなければ動きもしない。
「せっかく目覚めたのに、あのまんまだったら、文字通り生き地獄だったよ。ありがとう名も知らぬイケメンよ……!」
「イケメンってなんだ」
「そこのあんたのことだよ、自覚ないとか、苦労するねぇ」
そんなことを妖精に言われても、正直困るだけだった。
——妖精。
大きさは、少し短めの短剣くらいだろうか。
適した例えか自信がないのだが、幼い女の子が手にする人形とほぼ同じ大きさといえば、伝わるだろうか。
「マリウス艦長」
俺の真後ろで、クリスがやや警戒した様子で、声をかけてくる。
どうやら、自分よりも大きな存在には慣れてきたものの、小さなものは初めてなので、警戒しているらしい。
「それは……妖精、ですか?」
「そのようにみえるな」
確かに、その姿は本や御伽噺の中にでてくる、妖精のように見える。
髪は桃色で長く、耳の端が少し尖っている。
魔族や人間より小さく、子供のように幼く、そして触れたら折れそうなほど、細身の身体。
ただ、物語などには蝶をはじめとする昆虫の羽が背中にあったと思うが、それはなく、代わりに淡い青い光の魔法陣で作られたと思しき羽が生えていた。
興味深いのは、その魔法陣の構成がすぐに読めないことである。
みているとその構文は常に書き換えられているようであり、まるで爛竜が仕掛けたとされる情報の暗号化のようであった。
「ということは私、世間ではこういう感じだと思われているってことですか?」
誰も、即答できなかった。
「あの、ちょっと? 視線をそらすのはやめてもらえませんか!?」
確かに耳と羽と髪の色の違いを除けば、雰囲気はクリスに近い。
しかしそれではクリスが幼いと肯定しているみたいで、首肯するにに抵抗がある俺たちである。
「あのさ」
救いの手は、他ならぬ当の妖精(?)から差し伸べられた。
「そこの人間の子、見た感じ魔族でいうところの百二十歳前後でしょ? それなら身長も体型も、平均的だよ?」
「信用に値しますね!」
ものすごい勢いで掌を返すクリスだった。
しかしすぐなにかに思い当たったみたいで、
「って、みただけで、年齢がわかるんですか」
「わかるよそりゃ、魔力の流れとかさ。それくらいそっちでもできるでしょ、イケメンさん」
「……まぁな」
「できるんですか!?」
「私も……できます」
ユーリエがそろりと手を挙げていう。
「なんか……ちょっと感想に困る話ですね」
まるで服を着ていないように、自分の身体を手で隠すクリスだった。
「アリスさんは、気にならないんですか?」
「いえ、特には。それよりいまは先にやることをやりましょう」
「さきにやること?」
「——着るものを作りましょう!」
珍しく強い口調で、そう主張するアリスだった。
なるほど、たしかに妖精は服を着ていない。
「そうだね。このままだとモザイクの魔法がいるかもだ」
「モザイクの魔法ってなんだ」
「18禁の制限が……いや、せめて15禁の制限がついていればねー」
「だからなんの話だ」
俺と妖精が言い合っている間にも、アリスはポケットからハンカチとナイフと小型化に特化した裁縫道具を取り出すと、器用にも妖精大の服を仕立てていく。
「みただけでわかるの?」
妖精が興味深げに訊く。
それは、俺も気になっていた。
普通は巻き尺などで採寸すると思うのだが。
まるでさきほど人間の年齢を見てわかるといった俺とユーリエのようである。
「そういう道具はいただけなかったので、目で見て大体を覚える必要があったんです」
「え、なんで……?」
「子供の服が破れて着られなくなっても、気にしない人が多かったので」
「闇ふかい! 闇深いんですけどこの人!」
俺もそう思う。
クリスとニーゴもそう思ったのだろうが、さすがに免疫ができたのか大きく表情が動いていなかったが……。
「……あの、アリスさん。もしこちらに定住を希望される場合は、ぜひ申し出てください。可能な限り対応いたします……」
ユーリエには十分衝撃的すぎだったらしい。
「いえ、大丈夫ですよ? ——よし、できました!」
「おおー手が早いねー」
妖精が、小さく拍手する。
「とりあえず下着と同じくらいの柔らかさなんで、直接着ても大丈夫です。海上にもどったら、ちゃんとしたのを作りますね」
「なにからなにまでありがサンキュー!」
ありが……さんきゅー?
なにかの古語だろうか。
「よいしょっと……おお、サイズ感ばっちし! すごいね、おっぱいの大きいおねえちゃん!」
「おっぱ——?」
「そこは反応しなくていい」
なんというか、アリスはそういうのには無縁でいてほしい。
「さて、落ち着いたところで……まずは名前を聞かせてもらおうか」
「おっと、そういや自己紹介がまだだったね。あたしは——」
そこで、はたと妖精の表情が止まる。
いったいどうしたのかと、皆の注目を集める中、彼女は小刻みに震えると、
「名前……! 名前……!」
「よもや、記憶喪失か」
「うぅ……我ながら、こんなベタな……!」
ベタというのがなにをさすのかわからないが、どうやら演技ではないらしい。
——これは少し、複雑なことになってきたな。
そう思う、俺であった。
「……ぬん」
「そのさきはいわさんぞ!」
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